エキシビション⑨
〇第三者視点
(安全策を取り過ぎた……)
動きを止めずに機体を操作しながら、だが秋葉はそう思う。
正面で相手どっているラッカーソンと、自身の残りの霊力差は明白。完全に秋葉が優勢だ。このまま戦っていれば秋葉の勝ちが揺るぐことはないだろう。
今回の戦いで秋葉に与えられたメインの役目はラッカーソンの相手をすることだ。現在でも最低限の役目は果たしているといえる。
逆に言えば最低限の役目しか果たしていない、と言える。
今回の戦い、基本的に皆リーグ戦の順位的には格上の相手とマッチアップしている。下の順位の精霊使いの相手をしているのは秋葉だけだ。
勿論順位が全てというわけではなく、ラムサスのようにリーグ戦順位は下でも個としての実力は上の相手はいる。だがラッカーソンは直近2シーズンでいずれも下している相手だ。客観的に見て個の実力としても勝てていると思うし、今の状況を考えればその考えは間違ってないと秋葉は思っている。
その相手を抑えているだけでは、最低限の仕事しかできていないとみられても仕方ない。
秋葉は自身の事を思い切りのいい方だと思っている。実際普段のリーグ戦ではリスクを負った戦術を取る事は多々あるのだ。
ただ今回はいつものチームでの戦いではなかったことが理由で最低限の仕事すらできないことを恐れてしまった。本来なら格上を相手にしているイスファよりも早くケリを着けるべきだった。
このまま終わったら、多分この試合を見ている視聴者の中大部分は秋葉の事を思い浮かべないだろう。
ユージン達の動きを見れば、主戦場である浦部周りの戦況は終局に向かっている。
(……このまま終わるなんてできないよね)
そう、終局には向かっているが、まだ終わってはいない。遅かったとはしても、遅すぎたという事はない。まだやれる事はある。
機体を一度大きく動かし、ラッカーソンの体勢を崩す動きを取る。
それから、これまでほぼラッカーソンの機体から大きくは離れることはなかった距離を、自分の意思で離した。
「【水竜招来】」
秋葉は自身の使う魔術である【水竜招来】を使い勝手のいい魔術だと思う。ただ発動までのラグがあるので、ラッカーソン同様近距離では使いづらい。だから魔術を使う為にはラッカーソンが求めていた距離を開ける必要がある。リスクがある行為だが……この終局で一気に戦局を動かすなら魔術を使うしかない。
当然、ラッカーソンもその好機を見逃すわけがない。彼は機体の体勢を取ると、自身も後退して更に距離を開ける。
(判断ミスね)
彼が距離を開けた理由は解る。彼の魔術は移動した距離の分だけ威力があがる、霊力の差がある現状一発逆転を目指して出来うる限りの火力が出せる距離を取りたかったのだろう。いわばギャンブル的な行為。
これが一体一の戦いなら、その選択肢は全然有りだと思う。
だが、これはチームの戦いだ。全体の戦況を見て動く必要がある。それを考えれば、ラッカーソンは早々に魔術を発動し、秋葉の魔術の行使を妨害すべきだった。
発動した魔術が安定する。ここまで来れば、もう妨害を受けても問題ない。
産み出した魔術を発動する前に戦場全体をチェックする。確認したのはバートンと浦部の位置。──こちらの前衛が抜かれ、ユージン達への方へと浦部が向かっているのは確認している。
(ここからなら間に合う!)
「"八岐大蛇"!」
秋葉の意思を精霊が読み取り、天上へ向けて八匹の竜が飛び立つ。
──そのタイミングで通信機から声が響いた。
『瓜生さん、3秒後!』
届けられたのはそれだけの言葉。だがユージンと浦部の間に向かう声の主、フレイゾンの機体の動きを抑えていた秋葉は彼の意図を読み取り、魔術に操作を加える。
同時にラッカーソンの姿が消えるのを認識した秋葉は機体を捻りつつ横に半歩動く。
「……っ!」
次の瞬間、機体を強い衝撃が襲う。同時に秋葉の体から力が抜けていく感覚。だがその感覚で分かる。直撃は貰っていない。彼の軌道上からどかしきれなかった部分が突撃に弾かれる形になった。痛くはあるが致命的ではないし、機体バランスも崩しきられることはなかった。
同じリーグに所属する彼の事はちゃんとチームメイトと研究しているし、直接対決も複数回している。彼の上位にいけない理由となる一番の弱点……その魔術の性質だけではなく、戦い方自体が直線的過ぎる事。味方のサポートがなければ、完全回避は無理だとしても直撃を避けるくらいなら問題なくできる。
そして術が終わった後の彼の停止位置も把握している。
再び振動が来た。ただ今度の振動は秋葉が生み出したものだった。魔術による突撃を終え動きを止めたラッカーソンの機体に2頭の竜が上空から襲い掛かったのだ。最後まで調整を入れたので位置は完璧。ラッカーソンの機体は竜の咢に食らいつかれ、その霊力を全て失った。
そして秋葉はもう、彼に意識を向けていない。
産み出した竜は8頭。ラッカーソン相手に使った竜は2頭。残りの内2頭はバートンの方へ向けて放った。そして残りの4頭は、突如爆炎に包まれた浦部へと向かって襲い掛かる。
「行けぇーーーーーっ!」
●ユージン視点
飛来した竜はその咢を広げ、次々と爆炎へと襲い掛かる。
秋葉ちゃんの【水竜招来】か! 完璧なタイミングだし、さっきのフレイさんの言葉だけで合わせて来たのか! さすが、Aリーグ上位の実力者だ。
しかもその竜は一点に集中するというよりは、その爆炎の範囲を周囲から包むようにして、頭上からではなく側面から襲い掛かった。その結果、爆炎の中から一つの機体が弾き飛ばされる。
浦部さんの機体だ。
彼女の機体が側面から叩きつけられた水流によって俺達より反対側へと押し戻される。攻撃というより相手を押し流す"大いなる波"に近い使い方をしているようだった。浦部さんはその一撃を不可視の腕で防ぎつつも完全には防ぎきれず、押し流された。その結果、先ほどより多少ではあるが距離が出来る。
『仕掛ける!』
そこに体勢を整えて浦部さんへ追いすがっていたヴォルクさんの機体が駆け寄っていく。フレイさんが作ってくれた時間と秋葉ちゃんが稼いでくれた距離はそれぞれ小さなものだったが、俺達に到達するより早くヴォルクさんを間に合わせる値千金のものだった。
『【貴方に力を】!』
続けてロッテさんの声が響き、ヴォルクさんと俺の霊力が回復する。同時のロッテさんの霊力が危険水域まで落ち込んだ。そしてヴォルクさんが駆けつけると同時、俺とアルファさんも彼の側に回りつつも距離を詰める。結果【千手千眼観音】からの攻撃が散発的に飛んできたが、回復を貰ったのもあり落とされるような事はない。
そしてヴォルクさん、俺、アルファさんが予定していたポジションにつく。
『OKよ!』
「こっちもOK!」
俺とアルファさんの言葉と共に、ヴォルクさんを中心にして結界──【封印される世界】が発動する。その発動範囲は、浦部さんがギリギリ含まれる位置。俺とアルファさんはその中に含まれていない。
浦部さんは困惑しているだろう。実力差がある以上この状況下で一対一はむしろ浦部さんに理があるのだ。本来ならば。
だがヴォルクさんの目的地はタイマンでの勝負ではない。
──浦部さんは圧倒的な実力を持つ存在だ。だから俺達は最初から、犠牲も無しに倒せると思っていない。
「頼むぜヴォルクさん!」
『任せてユージンちゃん!』
賭けた言葉に即座に反応が返ってくると共に。
二人を包み込んだ結界が縮小を始めた。




