エキシビジョン③
「さすがに脳みそ厳しい……!」
戦端は、すでに三か所全てで開かれている。俺は与えられた役目の通り、その三か所全てに意識を向けながら射撃を行っていた。
とはいっても、秋葉ちゃんの所にはほぼ攻撃を行っていない。それは秋葉ちゃんが優勢に戦っているのもあるが、何よりかなりの接近戦を行っているためだ。実弾系をぶちこんだら秋葉ちゃんの機体に影響が出る可能性は高いし、何より彼女自体の機体がかなり細かく動くのでサポートしずらい。
元々秋葉ちゃんは前衛ではあるが最前線で腰を据えて戦うタイプではなく、どちらかという機動力を生かしてヒットアンドアウェイで相手を翻弄するタイプだ。そんな彼女が多少のダメージを覚悟の上で近接戦闘をしているのは、相手の魔術を警戒してである。
秋葉ちゃんと相対しているギド・ラッカーソンの魔術は【高速突撃】。その名の通り、高速で移動し相手に突撃する魔術である。一瞬の加速力でいえば恐らく精霊使い随一の魔術だ。そしてその速度で行われる体当たりは威力も高い。
が、正直いって弱点が明確な魔術でもある。
一つは、突撃は一直線にしか行えない事。発動方向は前面ならある程度融通がきくらしいが、あまり無理な体勢から発動すると発動後バランスを崩す。そしてそれは逆に言えば体勢が悪い状況では発動しづらいということだ。ただこれは後の事を考えなければ発動できるから致命的ではない。
致命的なのは、ある程度の距離がないと発動しても殆ど威力を為さないことだ。だから相手がインファイトが突撃な精霊使いとなると、こいつの魔術はあまり有効に使えない。連続使用できるなら一度使って離れた後再突撃すればいいだろうが、実際はある程度のクールタイムが必要っぽいからだろうな。この辺りがラッカーソンがAリーグ中位に甘んじている理由だろう。秋葉ちゃんはそのラッカーソンの機体の周囲をまるで衛星のように動きつつ、攻撃を叩き込んでいる。位置が離れた場合は奴の足止めをするために意識は離さないが、あまり手出しをする必要がないだろう。
だが、残り2か所に対しては手が抜けない。
中央の戦線に関しては先ほどから実弾武装を中心に叩き込んでいる。前に立つ浦部さんではなく後方のバートンに対してだ。
浦部さんの方はヴォルクさん(+ロッテさん)と近接戦闘しているから狙い難いってのもあるけど、バートンの魔術が少々めんどくさいタイプってのもある。一応攻撃系魔術ではあるんだけど、ミズホと同じような嫌がらせも出来る魔術でもあるんだよな。だからあまりフリーにしたくない。
いくら浦部さんとはいえ、ヴォルクさんとロッテさん二人を相手にすればそこまで好き勝手はできいない。そこにアルファさんの支援が入れば猶更だ。魔術を発動してすり潰しに来られたら二人もヤバいかもしれないが、これまで予測している通り彼女がそういった見栄えの悪い戦い方を今回するとは思えないし、よしんばしてきたとしてもあの二人なら最悪でも相打ちには持ち込んでくれるだろう。そうなった場合、戦場は3対4になりそれぞれの個々のレベルを考えても圧倒的不利な状況ではなくなるので問題ないと判断している。
とにかくおそらくはそういう思惑もあり、決して優勢とはいえないもののヴォルクさんとロッテさんは浦部さんと渡り合っている。だったらそこを邪魔建てさせないというのが俺の仕事な訳で。
バートンも今の所前衛の二人ではなく俺とアルファさんを攻撃してきているので、状況としては想定に近い形で進んでいるといえるだろう。あとバートンは本来中衛型なので、遠距離戦では俺の方が有効打を与えているのが正直メンタルに良い。S(次のシーズン降格だけど)の精霊使い相手にでは俺の射撃技術が全く通じないなんて自信を失わないで済みそうだ。
なにせラスト一か所が酷すぎて、そこだけだとマジ自信を失いそうだからな!
フレイさんと相対しているヘイカー。彼女がとにかく酷い。何が酷いってこちらの攻撃が全然当たらない。ロッテさんの指示通り意識はそちらの戦場に最も割いているし、軌道を操作できる霊力弾系の武装は基本そちらにぶち込んでいるにも関わらず全然当たらねぇ!
すでにフレイさんとは近い距離での戦闘が開始しており、激しい戦闘を繰り広げている。フレイさんの所が一番厳しい戦いになるのは解っていたので意識をそちらに多く割き、戦いの中隙間を通すように攻撃を叩き込んでいる。
いつものチームでの戦いの場合こういった近接戦闘への介入は相手にダメージを与えるよりも、どちらかというと相手の動きをコントロールして味方のサポートをする目的が強い。レオとかよくこの方法で支援してるしな。だが今回は、ダメージを与えるのを主目的として当てるつもりで攻撃をして行っている。
彼女相手の場合、とある理由から俺の方がダメージリソースになった方がいいからだ。だから散弾や最初から軌道設定をして放つ変化弾までも駆使して攻撃をぶち込んでいるんだけど……マジで当たらねぇ!
確かに彼女はこちらに背を向けるようなポジションをとることはなく、常に俺の事を視界のどこかに収められるような位置取りをして戦っているが……フレイさんは回り込むような動きも見せてくれているが、明らかに機体操作で上回られてしまっている。確かに俺の位置とフレイさんの位置から射線は予測はできるとは思うが……ここまで躱されるとマジで自信失くしそうなところだった。ありがとうバートン殿(失礼)。
「っと……」
直近にバートンからの至近弾。認識はできていたので被弾は避けたが実弾兵器だったため、その爆風に機体が煽られ砂埃が機体を包む。当然それに伴い視界も通らなくなったが、逆にそれを利用して土埃の中を走り射撃を行う。視界が通っておらずとも味方の位置情報はモニター下部のマップに表示されており、常にこちらを視界におさえようとする位置取りをしているならヘイカーの位置も予測がつくからだ。
だがそのブラインド状態の射撃も奴を削る事はなかった。ここまで霊力弾を回避されるとちとしんどいな。
霊力弾はその名の通り霊力を消費する。外せばその分無駄にダメージを受けているようなものだ。これだったら攻撃しない方がいいんじゃないかとも思うが、そうしたらフレイさんが厳しい事になるだろう。
これは……もうとっとと仕掛けた方がいいかもしれないな。
そう思った時だった。フレイさんが放った複数の銃撃がこれまで翻弄していたのが嘘のように一気にヘイカーの機体を捉え、ヘイカーのゲージが大きく減った。
それと同時に、攻撃を喰らっていない筈のフレイさんの機体の霊力ゲージがそれ以上に大きく減った。
やばい、先に仕掛けてきた! ──ここまで回避されるようだと、浦部さん用に霊力温存できるかなとか考えている場合じゃねぇ! 俺は通信機に向けて叫ぶ、
「フレイさん! 【八咫鏡】、仕掛けます!」




