表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末の精霊使い  作者: DP
4.カオスの楽園
318/346

エキシビジョン②


『初手の動きは予想通りね』

「ですね」


試合開始してすぐ通信機から聞こえてきたロッテさんの声に、俺は同意を返す。


『想定2のパターンですね』


秋葉ちゃんが言葉にした通り、俺達はいくつかの相手の動きの予想を立ててそれに数字を振り、それぞれのケースに応じての大まかなそれぞれの動きを決めていた。


想定2は相手の内の2機──具体的に言うとヘイカーとラッカーソンが左右に別れて突撃してくるケースだ。そして中央に浦部さんとバートンが残っている……かなり確率が高いと考えたケースだ。


予想として、まとまって動かないとは予測していた。理由は複数ある。


一つは、こちらの魔術が一か所に集まっていると特に刺さりそうなものだということ。俺の【八咫鏡】、フレイさんの【静寂の世界(サイレンスワールド)】、アルファさんの【ドゥームズディ】もそうだろう。特に俺が先日使用したモード<<スプリット>>はさすがに慣れ親しんでいないチームメイト相手なので前回の公式戦のような使い方は無理だが、狭い範囲で使うのならこの面子でも充分可能だ。そのケースはまだ未使用だが<<スプリット・彗星の檻(スターケージ)>>として皆にも伝えている──リーグ戦では敵になる相手に伝えるのもどうかとおもわないわけでもないが、どうせやろうとしていることは前回の見れば予測のつく範囲でしかないし問題ないだろう。


なので散開してくることは予測できた。


もちろん分散すればこちらが戦力を集中させて各個撃破に動く可能性もあるが、そこで浦部さんの存在が大きくなる。彼女は正面から突撃する事はないだろうが、逆に彼女を無視するような動きを見せれば浦部さんは突っ込で来るだろうからな。相応の抑えを置く必要がある。


それを考えれば、うちの戦力構成上そこまで分の悪い衝突にはならない。だからそう動くだろうとは思っていた。


もう一つの理由としてはもっと単純で、相手チームのうちヘイカーとラッカーソンはかなり好戦的な精霊使いだという事だ。大きな戦力差がなければ間違いなく突っ込んでいくような二人で、結果予想通りだった。


大きな理由としてはこの二つ。そして予想通りとなったので、この先の俺達の動きは決まった。


『それじゃ私は右に開きますね』

『俺は左だね』


そう声を掛け、秋葉ちゃんとフレイさんがそれぞれ左右に展開していく。秋葉ちゃんがラッカーソン、フレイさんがヘイカーを迎撃する為だ。


実力として、ロッテさんの評価だと秋葉ちゃんとラッカーソンは秋葉ちゃんの方がやや上、逆にフレイさんとヘイカーはヘイカーの方がやや上という評価だった。大きなイレギュラーがなければ秋葉ちゃんの方は勝てるが、フレイさんの方は負ける可能性が高い。


まぁでもこっちの方が二人多いので。


『ユージンさん、よろしく頼むよ』

「任せて」


フレイさんに答えつつ、前方向けて加速していく皆の中俺は速度を緩める。


ぶっちゃけB相手でも近接戦闘になったらへなちょこになる俺だ、AましてやSに接近なんかされたらひとたまりもない。自身のチームの時でもそうしている通り、最後方の位置で俺は陣取る事になる。

ただいつもよりは前側に位置した場所だ。今回相手が今までの相手より遥かに格上、特にS相手にいつもの距離から射撃しても有効打を出せるとは思えないからな。


当然前に出ればその分前線を突破された時ピンチに陥る可能性が高くはなるが、こちらの方が人数も多いしそうそう抜かれる可能性は高くないだろう。浦部さんが突っ込んで来た場合は突破される可能性もあるが、その場合はもう接近される前に【八咫鏡】使ってとにかく全力で攻撃叩き込むしかなくなるからな。


なので今回のポジションはある程度前に出つつ、それでいて全体を把握できる位置だ。


今回、大きく戦場は3つに別れる。


左右に別れてそれぞれぶつかる秋葉ちゃんとフレイさんの所、そして浦部さんとチームでは中衛もになうバートンとロッテさん、ヴォルクさん、そしてアルファさんがぶつかる中央の戦場だ。


そして俺の受け持ちというと……その全体に対する支援攻撃となる。


まぁエルネストでも同じような事はやっているんだが。今回求められているそれぞれの戦場への力の配分はフレイさんの所が7割、ヴォルクさんと聖女様の所が3割、秋葉ちゃんの所の2割──いや、10割超えてるんだけど? しょっぱなから限界超えろって事ですか!?


そう突っ込んだらロッテさん曰く「どうせ今回長期戦にはならいから最初から限界超えて行こ?」とのこと。いや、鬼畜か?


彼女の予測の長期戦にはならないというのは間違いないだろう。相手の面子の内半分が脳筋突撃型な上、停滞するような戦いは()()()()()()()面白くない。今回の戦いは本戦ではないエキシビジョン、当然勝ちは皆狙っているが勝利最優先で動く精霊使いは少ないだろう。だから最初から全開で行くのは決して間違いではない。


ただ、あまりマルチタスクでいくとマジでグロッキーになるからその場合はメディア対応とか全部任せますからねと冗談交じりで帰したら、「だったら私がユージンちゃんをお姫様抱っこしてインタビュー受けてあげるから安心して?」とかにっこり笑いながら返された。


いや、それ完全に晒しもんじゃねーか!


当然冗談だとは思いたいところだが。ここ最近見えてきた彼女のキャラクターを考えると"ウケそうだから"という理由で実行しかねない。間違ってもグロッキーになるわけにはいかなくなってしまった。


かといって、手を抜くわけには行かないしな……あー、もーっ!


やってやろうじゃねーか!


マルチタスクで戦場をコントロール……とまでは周りの実力を考えるといえないが、上手く"調整"くらいはしてやる。その上で倒れない! グロッキーでも頑張って立ち続ける!


そもそもの話として力を限界まで出し切ってダウンしているんじゃこの先やってけない。作戦を読まれて持久戦に持ち込まれたらそれだけで終わりだし。俺自身のスペックを考えれば脳みそフル回転は仕方ないにしてもその中で無駄なくやっていく技術を身に着けていかないと! 周囲が格上しかいないこの試合は、そのちょうどいい訓練の場になるはずだ。いやこれ前回のエキシビジョンの時も似たような事を考えていた気がするな。


考えている間も戦場の状況は進む。やや抑えた動きの中央はまだ接敵していないが左翼の秋葉ちゃんはすでにラッカーソンと中距離での打ち合いを開始している。秋葉ちゃんが近・中距離型なのに対してラッカーソンは近距離型だから彼の方は射撃は程ほどで距離を詰める事を優先しているようだ。秋葉ちゃんはある程度接近したところで速度を緩めたが、特に距離を取る動きはしていない。もう少ししたら近接戦闘に突入するだろう。


それよりも先、真っ先にぶつかり合いそうなのはフレイさんとヘイカーだ。ヘイカーは銃撃を放つ事もなくまっすぐに突撃、フレイさんもほぼ銃撃を放つことはなく前進を進めている。まだ戦闘状態でもない真正面からの銃撃など狂犬、狂乱の(ファナティック・)姫騎士(プリンセス)と呼ばれる──まぁ一番使われるのはその魔術の内容からくるもう一つの異名だが──遠距離攻撃からの回避能力はトップクラスに高い彼女、クリスティーナ・ヘイカーには無駄な所だからだ。せいぜい接敵までの時間を遅延させるだけ。


そして短期で両翼を落とし、浦部さんに対して総力戦を起こす俺達にとって遅延行為は意味がない。


だから、俺は意識を集中して待つ。その時を。


そして、それは十数秒後、すぐに訪れた。


「こちらイスファ、ヘイカー機と戦闘を開始する」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ