女の子の才能
「ユージンちゃん、かゆいところかないですかー」
「大丈夫」
背後から掛けられる声に、目を瞑ったまま答える。ちなみに目を瞑っているのは周囲の光景を見ないようにではなくて、単純にシャンプーが目に入らないようにである。
どう考えても4人で使うには広い風呂場の一角で、俺は頭をシャンプーまみれにして座っていた。手は頭ではなく太腿の上。だけど今俺の頭はわしゃわしゃと人の手で洗われている。勿論俺の手ではなく別の人の手。秋葉ちゃんである。
風呂に入ってすぐに、先にお風呂に入ったビキニ姿の秋葉ちゃんに「ユージンちゃん、おいで~。髪洗ってあげる」と呼ばれてしまった。
普段は俺の事をユージンさんと呼ぶ秋葉ちゃんがちゃん付けで俺の事を呼ぶ時は間違いなく妙なスイッチが入っている時なので、俺はそれに逆らう事なく身を委ねることにした。ぶっちゃけ最近では家(自宅ではなくミズホの家)でも偶に頭を洗われる事はあるので(俺が頼んでいるのではなくミズホやサヤカの要望)、特に抵抗感はない。あ、体は洗わせませんよ? 恥ずかしい云々の前に、なんかこそばゆいので。
それにしても本当に秋葉ちゃんにスイッチが入る時のきっかけがわからない。普段の秋葉ちゃんは普通に俺を年上として扱ってくれるのに、偶に妹みたいな扱いしてくるのがな。
以前なんでと聞いてみたら、こっちの世界でも自宅でも基本年上しかないのもあって、つい外見が幼く可愛らしい俺を見ると(自画自賛じゃなくて秋葉ちゃんが普通にこう言ってくる)そういう目で見ちゃう事があるそうだ。
いや、一個下の金守さんがいるじゃん? って話したら、「千佳ちゃんは落ち着いてるし、私より大人っぽいとことかあるから」とのこと。
いや、ちょっと待って? そういう意味では外見はこんなだけど、俺秋葉ちゃんより一回り近く年上なんだけど? なのに偶に妹みたいにみられるのはどういうことなの?
やはり外見か……金守さんは"幼い"って感じじゃないからな。
「それじゃユージンちゃん、濯ぐから気を付けてね」
「うん」
言葉と共に、背後からシャワーの水音。実に丁寧に髪が濯がれているのに身を委ねること、数分か。「はい、おっけーだよ」という声を聴いて、秋葉ちゃんによる洗髪は終了した。それにお礼を告げ、体も洗ってから、ようやく俺は湯舟に身を沈めた。
「ふわぁ……」
「ふふっ、気持ち良さそうね」
思わず口から漏れてしまった気の抜けた声を聴いて、ロッテさんにくすくすと笑われる。こういった意識しないで出た声って指摘されるとちょっと恥ずかしいよな。
「今日はいろいろ動き回りましたし」
照れで顔が少し赤くなってないといいんだが。まぁそうなってても風呂だからごまかしは効くと思うけど。
言葉の通り今日は結構歩き回ったしアミューズメントでは体も大分動かしたので、疲れた体には暖かいお湯は染みてくる。ついでに少し眠くもなってくるけど。
湯舟の中で体を伸ばす。この体だしミズホの家や自宅でも普通に足は延ばせるけど、こういったクソ広い湯舟で体を伸ばすのは格別な気分になるね。この辺は外見ではなく年齢相応な行動になっている気がするけど。
そのまま広い湯舟の中で円を描くようにそれぞれ陣取り、雑談に興じる。話の内容は今日の事とか、リーグ戦の事とか。後女性陣だけのせいか、ファッションや化粧品等の話もあった。
で、丁度その話が終わった後の事。俺の方をみてロッテさんがふと口を開いた。
「ねえ、やっぱり貴女元は男だったとか嘘でしょ?」
「いや急になんでですか」
「化粧品とかに関する解像度が高すぎない? それとも男の時からしてたとか?」
「してないしてない。化粧品とかの知識はあれですよ、同僚にモデルいるんで」
今の俺はトレーニングや自宅などでのんびりするときはともかく、外出するときは最低限は化粧するようになってるし、ちょくちょくミズホ(たまにサヤカも)からレクチャーされたり情報流されたりするからな。さすがにアイツは副業が副業だけあってそっち方面は詳しいし(最近は副業控えめにしてるっぽいけど)
「まぁでもそういった話は置いといたとしても、やはりユージンちゃん元は男性説は下火にならざるを得ないわよね」
「説とかいわないで貰えます?」
アルファさん、ちゃんと事実なんですよ。証拠もあるんですよ。2年以上経過してみんなの記憶から徐々に消えつつある気配は感じてるけど!!
「アミューズメントであんな姿を見せておいて、否定するの?」
「本当にユージンさん元は男性だったんですよ、今日のユージンさんは確かに可愛かったですけど」
眉を顰めていうアルファさんに、フォローを入れてくれる秋葉ちゃん。余計な言葉がついてるけど。
あの時は確かにちょっとはしゃいでしまって、アレな姿を見せてしまったのは否定できないが……
「仮に、ユージンちゃんが元は男だったとしてよ」
「いやロッテさん、仮にじゃなくて事実ですからね?」
「貴女、男の頃からあんな仕草とか、行動とかしてたの?」
「いやしているわけないじゃないですか」
そこは強く否定しておきたい。
「だとしたらやっぱり元から女の子だったんじゃない? きっと男性だったというのは貴女の持つ願望よ」
「話跳び過ぎじゃないですか? というか暴論過ぎる」
だからそもそも証拠もあるんだって!
「この姿に変わってからってことは、やっぱり可愛くなったからそういう仕草とかしたくなったとか?」
「いやないです、それはないです。なんか気が付いたら自然に出るようになってしまったというか」
アルファさんの言葉も強く否定しておく。CMとかの撮影とかを除けば意図してそういったことをしたことはない。まぁ座り方とか、他にもこの外見でするのに不自然な動きはしないように注意してたけどさ。
「だとしたら、やっぱり外見に引っ張られているのかしらね」
「女性ホルモンのせいで性格が変わったとかかもしれませんね」
アルファさんと秋葉ちゃんがそう言葉を交わすが、正直な所性格は以前と変わってないと思ってる。となるとほんとこういった反応とかどこから出てくるんだろうな。実は何かの呪いに掛かったとかもあるんじゃないかという可能性もあると思ってる。呪いとか日本側ではナンセンスな話だけどアキツは普通に魔法がある世界だし、そもそも俺がこんな姿になっているのも常識外れな事だからないとは言い切れないんだよなぁ。
呪いだとしても、どうにもならないんだけどね。その辺なんとか出来るんだったら局長がなんとかしてくれていたと思うし。
「なんにしろ、そうなるといえる事は一つよ」
俺の行動に関する議論に挟み込むようにして、ロッテさんがよく通る声でそう告げる。風呂場のせいで猶更響く声に議論を止めて視線を向けた二人に対して、ロッテさんが続けて言った。
「ユージンちゃんは女の子の才能があったということね」
「成程」
いや成程じゃないんですよアルファさん。
「いえ、それはちょっと違うと思いますよ、ロッテさん」
秋葉ちゃん、君だけだよ、まともなのは──
「ユージンちゃんにあるのは可愛い女の子の才能です」
あ、駄目だこれ。スイッチ入ったままだわコレ。そしてロッテさんもアルファさんもサムズアップしてるんじゃないよ。
いやこれ、多分揶揄われてるな? 反応したら負けな奴だろ、コレ。秋葉ちゃんはガチな気がするけど。
「で、そんなユージンちゃんにはもっと可愛い服着て欲しいなぁってお姉さん思うの」
あれぇ、ここからそんな話に持っていくの? というかここまでの話の流れ、ここにつなぐのが目的か? 遠回りしすぎな上に強引じゃありません?
「いや、そんな事は思わなくていいと……」
「それでね、お姉さんから一つ提案があるんだけどさ」
話聞いて?
「次の試合さ、賭けしない? ユキ江さんを落とした人のお願いを、みんなが一つ聞くの」
……なんか妙な事言いだしたぞ?




