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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
31/343

後期リーグ戦初戦②


「……チッ」


ご丁寧に俺にしか聞こえないレベルで舌打ちすると、ガウルは身を翻す。そして無言でイスファ氏に小さく頭を下げながら立ち去ろうとする。


イスファ氏はそれを特に止めるでもなく、俺もそれにならってではないが特に何かすることもなくただ無言で見送る。


いやー、マジか。自分の味方にはならなそうな明らかな格上が現れたら、弁解も何もせず無言で逃走。ここまでダサすぎるムーブ出来るのはある意味での才能では? と思いつつ、俺もその後ろ姿を見送る。


思わずちょっと言葉で刺しにいっといて何だが、俺はこんな所で妙ないざこざを起こす気はない。こっちが加害者でも被害者でもチームに迷惑がかかる可能性があるし、何より今は特に目立ちたくない時期だ。そういう意味ではイスファ氏の登場は助かった。


なので俺は姿勢を正すと、彼に対してペコリと頭を下げる。


「ありがとうございます。絡まれていたので助かりました」

「肩を掴まれていたようだけど大丈夫かい?」

「ええ特に」


心配気に聞いてくるイスファ氏に答えながら、俺は奴に掴まれた肩を払う。別に何かが付いているわけではないが気分的なものだ。


しかしまぁ……本当に助かった。あの後どうするかあまり考えてなかったからな。衝動的に動いてしまったのはダメダメだ。


「剣呑な雰囲気を感じたので思わず声をかけたけど、役に立てたようで良かったよユージンさん」


……ん?


「あれ、俺の名前?」

「さすがに時の人だからね、知っているよ。この時期のエニシングはいつも視聴してるしね」


うわー、マジかー。あれ見られてたのかー。記憶から消してくれないかなー。


「まぁ、エルネストの選手は元から知ってたけど」

「え、何故」


思わず疑問の声を上げてしまった俺に、彼は少しだけ苦笑いの入った笑みを浮かべて


「何故も何も、さすがにBランクへの昇格戦まで上がったチームなら普通は知ってるよ」


そうかぁ? 彼の所属するSAリーグへの昇格戦ならともかくさらに一個下の昇格戦、しかもそこで敗北して昇格失敗したチームの一選手なんて覚えてるだろうか。しかもウチのチームの場合ミズホが目立つから俺の印象ってこれまでだと、そういえばいたっけ? くらいになるもんだと思ってるけど。イスファ氏、根が真面目なのか記憶力が強いのか。


「ああ、そういえば僕の方が名乗っていなかったね。僕は……」

「いやさすがに知ってますよ、フレイゾン・イスファさん」

「それは光栄だ」


そういって彼はその整った顔に柔和な笑みを浮かべる。その顔を見て、あ、雑誌の表紙でみた顔だとか思ってしまった。


彼はミズホのようにモデルという訳ではないが、その整った顔立ちでかつ人気のエンターテインメントである精霊機装のトップリーグに所属するというポジションから、ちょくちょく雑誌などで表紙を飾っているのを見かける。物腰もぱっと見は柔らかだしこりゃモテルだろうなーとか下世話な事を思ってしまった。


「……なんだい?」

「いえいえ、何でもないです」


思わず顔をじっと見てしまったので怪訝に思われたようだ。俺は小さく首を振って否定すると話を切り替える事にする。


「ええっと……イスファさんの方も試合ですか?」


こんな所にいるんだから聞くまでも当然なことなんだが、彼は別にそれを気にする節もなく頷く。


「君たちエルネストの後に同じ場所で試合だよ。お互い頑張るとしよう」

「そうですね」

「ところで君の方は試合は大丈夫かい? 通常だとそろそろ戦闘エリアに向けて出発する頃だよね」

「あ」


時計を確認すると、確かにそろそろ戻らないと何か言われそうな時間だった。


「引き留めてしまったね」

「いえ、声をかけてもらってなければもっと時間を取られていた可能性もあるので……助かりました。それじゃ俺はこれで失礼しますね」

「ああ。武運を祈るよ」

「そちらも。それでは」


もう一度頭を下げて、俺は彼とすれ違ってやや足早にチームの元へと向か


「あ、一つだけ?」


──おうとして、背後から声をかけられる。


「なんですか?」


足を止めて振り返りそう聞くと、彼は一瞬だけ逡巡を見せてから言葉を続けてきた。


「次見かけた時、また声をかけてもいいかな?」

「? 全然構いませんよ」


わざわざ聞くような事でもないと思うけど、律儀な人だなぁ。


「ありがとう」

「いえいえ。それでは!」


やっぱり俺みたいな特異な事象が起きた人間には興味があるのかな? まぁイスファ氏はこっちをじろじろ見てくる感じはないし、ずっと下のランクの選手なのにその辺りを全く感じされないような人当たりをしてくるので、向こうがコンタクトを持ちたいなら特に拒否するような理由はないよな。

そんな事を考えながら改めて彼に手を振り、同じように手を振る彼に見送られながら俺はその場を離れた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「さぁて、ぶっ飛ばすぞー!」

「なんかいつにもましてやる気十分ね。一ヶ月ぶりだから?」


それもあるけどそれ以外にもぶっ飛ばしたい理由が出来たからな、私的に。


精霊機装リーグ、後期リーグ戦初戦。その戦場に立つ鋼鉄の巨兵の中に俺達はすでに機乗していた。

モードはすでに精霊駆動(エレメンタルドライブ)、開始位置についた状態だがまだ開戦はしていない。今は開戦前の待機時間だった。


「C2から上がりたてのルーキーに現実見せてやろうぜ!」

「ユージンがそんなこというのは珍しいわね。何かあった?」

「因縁つけられて肩掴まれた」

「OK、ボコボコにしましょうか」


そういうノリのいい所好きだぜ。


「とはいえ相手方4機構成っスよ、やっぱりそこまで簡単にはいかないんじゃ?」


Cランクのリーグ戦は大体3機構成だが、別に3機の制限がある訳じゃなく上位リーグと同様に最大4機までは参戦可能だ。じゃあなんでどこのチームも3機なのかと言えば単純に金の問題だ。Cランクになると参戦する精霊使いは一応はプロ扱いであるからそれなりの報酬を出す必要が出てくるし、何より精霊機装はそれなりに購入コストや維持費がかかる(パーツ代とかだけではなく機体が増えればそれだけか関わるスタッフも増えるわけで)。リーグから出る報酬やスポンサー料等の収益から見てもCランククラスだと3機で割とカツカツ、4機だとでかいスポンサーがついてない限りはほぼ赤字で、運営が立ち行かなくなる。(実際一気に上位リーグに上がろうと無理に4機編成にして失敗し、負債でそのまま消えていくチームもたまに見る)。ただ確かアイツ、ガウルの実家であるラルステン家は貴族制都市国家であるアルスツゥーラの貴族のはずなので(政に関わるほど上位ではなかったはずだが)家も金持ってるだろうし、親のコネなりでスポンサーも結構ついているんだろうからそんなことは無いんだろうが。


まぁそういう理由もあり、Cランクのリーグだとほぼ3機構成。対戦チームに機体数の差がある場合ハンディキャップとして霊力残量の脱落ラインが上がったり武装に使える霊力の最大値が下がるなどの制限は発生するが、それでも相手より機数が多いというのは大きなアドバンテージだ。


ましてやウチは俺が中~遠距離型の為事実上前衛は倍の数とぶつかる事になる。霊力タンクのレオがいるとはいえ単純に考えれば確かに不利だ。


だけどまぁ──


「C2での直近の試合数戦と入れ替え戦チェックしたとき話したろ? 問題ないって」

「……ユージンさんがそういうなら信じるっス。でもあの場で言ってた俺が3機喰いとめるってのだけはないっスからね!」

「でもご褒美にアタシとユージンが一緒の布団で手をつないで寝てる写真上げるっていったら?」

「俺頑張るっス!」

「いやねぇだろそんな写真」

「これから撮るのよ?」

「撮らねぇよ!」

「勝利の為に! 勝利の為に必要なの! あと別に健全な写真よ?」

「健全だろうがなんだろうが撮らん!」

「えー」

「えー。……っと、時間ね」


ミズホの言葉にディスプレイに表示された時間を見ると確かに開戦まで残り30秒を切り、何もなかった荒野を映し出していたスクリーンの中にはビルや樹々が()()()()()()。俺は見慣れたその光景を眺めながら、アホな会話で緩んだ頭に気合いを入れなおした。

レオに言ったのは鼓舞でもなんでもない事実だ。大きなミスさえしなければ勝てる実力は俺達にはある。堅実に行けば何の問題もない──が、


「なあ、二人とも」

「何?」

「なんスか?」

「ちょっと開幕ぶちかましていいか?」










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