噴き出す光
正直状況的には年貢の納め時という奴だろう。それはいい、俺の最終目的は出来るだけ長く生き残ることではないので。
それより優先してやるべきことがある。
俺は視線を振って、こちらに向かってくる2機を確認する。どちらもこちらの追撃をしているとはいえ別のチームだ、仲良く横に並んでやってくるわけじゃない。
──正直、レザントの方は位置が悪いな。効果がないわけじゃないけど、ちと遠い。だがもう一機の方は……いいルートに入っているな。
あとは、タイミングの見極めか。
仕込みはもういつでも起動できる。ていうかいい加減しんどいしとっとと起動したい。残り霊力がわりとやばいからな。正直特に攻撃受けなくても後数分である意味衰弱死的な終わりを迎えそう状態。
エキシビジョンの今回は、いつもの3割ではなく5割を切った時点で敗退扱いになるからな……。ここまできたら出来るだけベストなタイミングで起動したいのは確かだけど、連中がもし遠隔から更に攻撃を行ってくるようだったら、効果が薄いのを承知で仕込みを発動するしかない。
が、幸いな事に彼らは距離を詰めて俺を落とすことに決めたようだ。ありがたい判断だ。だったら──
……外に声が聞こえているんだったら「うわぁ~!」と情けない悲鳴を上げてる自分をイメージしつつ、俺はライフルを連射する。まるで狙いをつけていない、パニックをしているように装って。放った光線はまるで彼らとは見当違いの場所へ着弾する。
演技派だなぁ、俺。尤も生身の俺の姿まで演技しているわけじゃないけど。
レザントが”ライン”を超える。……これは無視。やはり位置が悪い。もう一機の方を待つ。レザントが仕掛けてくる前に早く来い。早く来い、レザントから攻撃が来たらこっちはもう持たないんだから……来た!
俺が決めていたゾーンに精霊機装が踏み込んだ瞬間、俺は一発だけ銃撃を放つ。その銃撃は今度は見当違いの方角ではなく……だが少々高い位置に向かって放たれた。精霊機装にあたる軌道ではない。そう射出時の銃口から判断したのだろう、敵機は動きを止めない。
いや、ちょっと甘く見過ぎだろう。俺は射出前に軌道設定を使って放つ変化弾ならかなり上手く扱える人間だぞ? まぁパニックの演技に上手く騙されてくれたのかもしれないが──
俺の放った銃弾は、そのまま敵機の上を通り過ぎる──その直後、まるで何かに弾かれたように反射して軌道を真下へと変え、そして地面に着弾した。
完璧な位置に。
さぁ、フィニッシュだ。
「弾けろ」
そう、俺が呟いた瞬間。敵の精霊機装を後方から激しい光が包み込んだ。
あーっ、やっと吐き出せた! 本当にしんどかったぞこんちくしょう!
八咫鏡、モード『間欠泉』。試合開始して追いかけっこが始まってからほどなく設置した仕込みはこのうえなく完璧に決まってくれた。
やったことは単純。逃走開始して早々に全開駆動に移行。そのままこっそり八咫鏡を発動して、想定した逃走ルートの途中に埋設した。後は単純だ、パニクって乱射をするふりをしてそこに攻撃を打ち込んでおいた。逃走ルートがまっすぐじゃなく大きく迂回したのはそのためだ。そりゃまっすぐ逃走してたらさすがに正面にうつことになるからバレるからね。ちなみに八咫鏡めがけて撃った奴だけこっそり変化させてたりしていた。バレるかと思ったけど、検討違いの方向に飛んだ弾道を追っかけてる奴なんかいなかったのでセーフ。
ちなみに乱射は、もう一つカモフラージュしていた。それは霊力の減りだ。
八咫鏡は発動や移動させるだけなら大して霊力を消費しないが、霊力を増幅して反射したり、今回のようにため込んでいたりしようとすると一気に霊力の消費が増加する。そうすれば"何かしている"事はバレるだろう。だからこまめに銃撃を行い霊力の減りをごまかしたのだ。
俺が乱射したあの銃撃は、基本的に八咫鏡に撃ち込む分と、当たる可能性のある至近弾を除いてすべてハリボテだった。見た目だけ同じようにし、実際は殆ど霊力を込めていないスカッスカの霊力弾。小手先の技術が得意な俺やミズホだからこそ持つ技術だ。(というか霊力を一定以上持つ連中なら必要としない技術)それを使いわけることで、霊力の消費をカモフラージュしたわけだ。
減り方が一定ではないから、霊力ゲージをずっと見つめられたら違和感に気づかれるだろうが──戦闘中にそこまでゲージを凝視する奴はいない。結果、見事に仕込んだ罠にはめる事ができた。
一気に膨れ上がった光は消滅し、その中から現れた被害者の精霊機装は……ガクンと地面に膝をつき微動だにしていなかった。霊力ゲージは5割を切っている。戦線離脱である。
「っし!」
思わずガッツポーズが出る。
全開駆動と2~3発被弾させていたので多少は霊力削れていたとはいえまだ大部分が残っていたから削り切れるかはいささか不安があったが、どうやら足りたらしい。まぁ俺の銃撃数発に更にミズホやレオにまで協力してもらってため込んだ銃撃を、更に八咫鏡の増幅までかけて放ったのだ。割と洒落にならない威力だったろう。
とにかくやりきったのだと、安堵のため息を吐いた──その時。完全にこちらを向いているレザントの機体が目に入った。
……あ、そーだね。君がいたね。
「あー……できれば優しくお願いします」
いや聞こえてないと思うけどな。
◆◇◆◇
「いや、あの状況下で空打はないだろうよ!!」
操縦宝珠からタマモに意思を伝えてもうんともすんとも言わない、横倒しになった
機体の中で俺は憤りの声を上げた。
レザントの野郎、もう軽い一撃でもこっちは沈むっていうのにわざわざ空打叩き込んできやがった。いやさすがに威力は大分絞ってはいたけどさ、わざわざ霊力消費の多い魔術使用してトドメ差す必要ある? 確実にこれまでの鬱憤はらそうとしたでしょ。私怨を持ち込むのはよくないよ、私怨は。
お陰でこっちはもう一度地面に叩きつけられる羽目になった。今も俺の体は椅子と一緒に地面に平行になっている。
その体勢のまま、むきーと上の方へ向かってシャドーをする。イマジナリーレザントの機体を殴っているのだ。
数発殴って少し落ち着いたので、俺はため息を吐いてから体の力を抜く。
……まぁ終わり方はともかくとして、事前に計画していた切り札が上手く決まって良かったよ。おかげで最初の脱落者にならずにすんだし、見せ場も作れた。そこまで情けない印象は与えないで済んだと思う。小賢しいとは思われたかもしれないが。
ちなみに切り札をこんなエキシビジョンで使って良かったのかと思われるかもしれないが、あんな切り札むしろこんなエキシビジョンでないと使いどころないんで。
一度銃撃ぶち込んだ八咫鏡は動かせないし、打ち込むごとにとどめておくのがしんどくなって「もうだめだ」って放出したくなるし、ガンガン霊力減るし。通常の1対1の試合であそこまで上手く相手の動きを誘導することなんてできやしないので。いや過去に振動地雷を使って上手く誘導した事はあるけど、あれはC1だったんで。Aの熟練者には通用しないだろう。
だけど今回のこれに意味はある。実戦で使いどころが難しかったとしても"そういう手段"があると相手に思わせられる事は充分なメリットだ。それに今回本来の試合よりは緩いとしても一応は実戦で相手の攻撃を回避しながら八咫鏡を操作し、尚且つそこに銃撃をカモフラージュしつつ打ち込んでいくというマルチタスクな動きを実践できたのが大きい。今後の課題の一つだったからな。今後更に磨き上げていかなければいけないが、希望がみえてきた感はある。さすがにレザント戦でやったアレをマルチタスク状態でやるのはまだ無理そうだけど……でも最低限機体を動かしつつやればAランクでも強力な武器になるはず。
そう考えると有意義な試合ではあったな……いや、まだ試合続いてるけど。レオとサヤカはまだ大丈夫そうだけどミズホはしんどそうだな。まぁ頑張れ、俺にはもう何もできん。
それにしても数が多い上に早々に沈んだからまだ時間かかりそうだけど、ずっとこの横倒しの体勢しんどいな。……ここ戦場から離れてるし流れ弾もこないだろうから、体起こすか。背もたれの方に座ってればいいだろう。
まずは上半身を固定している3本のベルトを外す。それから最後に、足を固定している最後のベルトを外した──その時だった。
固定を失ったフリル付きのスカートが当然重力に負けてずり下がってくるのと、機内に設置されたカメラに撮影中を現すランプがついたのは。
「ふあっ!?」
この時、咄嗟にスカートを抑えられたの奇跡に近かった。カメラの位置は顔を中心に映すように設置されているので、完全に捲れあがらなければ中まで見えてしまうことはない。危うくお茶の間にトンデモないものを映してしまうところだった。
というか、
「何ですでに脱落した人間の操縦席映すんだよ! 戦闘中の奴等映せよ、ばかー!」
公共の電波にめっちゃ口の悪いセリフが流れる事になったけど、俺は悪くない!




