着替えの時間
「ミズホ、やっぱり衣装交換しねぇ?」
「……まだいってるの? 往生際が悪すぎるわよ。ルールなんだから諦めなさい」
「ううっ……」
昼食とその後の食休みを終えた俺達は、今回のエキシビジョンの運営スタッフに用意された控室に移動して着替えを行っていた。
──罰ゲームとして用意された衣装に。
「うう、なんでこんな目に……」
「いや何から何までユージン自身のミスだろう」
「うぐぅ」
ぐぅの音もでねぇ。いや、出たけど。
まぁ事前に罰ゲームがあるのはちゃんと告知されていたし、拒否権もあったんだから受けた時点で泣き言いう権利は確かにないんだけど。なんか妙にイキったセリフを吐いた記憶もあるし。
ちなみに今回Sランク+Aランクの計20チーム(今期のではなく来期の該当チーム。なのでウチも含まれる)が参加しているが、拒否権行使したチームは一つもなかった(秋葉ちゃん達のアズリエルもきっちり参加していた)。さすがにAランク以上になるとメディア露出も多く様々な恰好をすることも多いため、コスプレくらいはなんてことはないらしい。露出が多い衣装というわけではないし。
……多いわけではないんだけど。
「ううっ、なんかスースーする気がする」
「気のせいよ」
俺が呟いた言葉は、即座にミズホに叩き潰された。俺はそんなミズホの姿を仰ぎ見る。
彼女にあてがわれた衣装は黒色のスーツだった。スタイルのいいミズホにはよく似合っている。キリっとして見えて割とボディラインも出ているせいか色気も感じさせるさすがの着こなしだ。
俺はサヤカの方にも視線を映す。
彼女の方は紺色に裾の方に大きく花の絵柄が掛かれた浴衣姿だ。明らかに日本人ではない外見のサヤカだが、不思議と調和がとれているように感じる。
……。
「いや、そんなもの欲しそうな目で見るな。そもそもサイズが合わないだろう」
まぁ、そうなんだが。ミズホやサヤカと俺では身長に差がありすぎて、だぶだぶ程度でじゃすまないだろう。でも俺本当にそっちが良かった。浴衣とかスーツなら全然抵抗感もないからな。
「大丈夫、ちゃんと可愛いぞユージン」
「ユージンみたいな子が店員でいたら、間違いなく通ってしまうわね」
「そういう言葉が欲しいわけではないんだよなぁ」
そう答えを返しつつ、俺は二人に見つめられている自分の姿を見下ろす。
──俺の来ている服はメイド服だった。白と黒が基調のオーソドックスなデザインの。そこまではまだいい。
問題は丈だ。スカートの丈は膝上のかなり高い位置までしかなかった。そのかわり純白のニーソックスが太腿を途中まで包んでいる。……そう、俺が着ているのはクラシカルなメイド服ではなく、日本側の某電気街で見かけそうなミニスカメイド服だった。
「なんで俺だけこんななの? 俺が引かされたくじだけおかしくない?」
今回の衣装はそれぞれ箱に入ったくじを引かされたんだけど、その箱が大中小ユの4種類あった。ユはユージンのユである。なんで俺だけ専用の箱があるんだよ。
……まぁ俺だけ各段体のサイズが小さいのが理由なんだけど……俺に次いで小柄なリゼッタさんとでも10cm近い差があったりするし……
「サイズに合わせて準備できた衣装が入っていたみたいだから、中身は違ったみたいだけど……後で見せてもらったけど、結構普通のもちゃんと入っていたわよ」
「まぁ中には園児服とかも入っていたがな。それよりはよかったんじゃないか?」
「まぁ、さすがにそれよりは……」
団栗の背比べな気もするが。てか園児服、体の大きい人が着るとネタ感が出ていいけど俺が着るとガチ感出てあれじゃない? さすがにそこまで小柄なわけじゃないけどさ。
うー、しかしやっぱりこの格好お尻がスースーする気がして、なんとなくスカートの後ろを抑えてしまう。
「相変わらずミニスカート穿くと、ユージンはお尻気にするわね。その抑える仕草可愛いから好きだけど」
「普段ユージンはミニスカートは穿かないからな、慣れないのは仕方なかろう」
いまでは基本的に着る服は女性ものになったし、スカートも普通に穿いているけど、サヤカのいう通り俺はミニスカートはあまり穿かない。基本的にはロングスカートか短くても膝くらいまではあるスカートだ。これ以前にも言った事があるかもしれないけど、動き回った時にパンツ大解放になりそうで気になって仕方ないからな。なので夏場はショートパンツとかが多い。足に向かう男共の視線を鬱陶しく感じたりはするが。
「そこまで気にしなくても、激しく動かなければ捲れたりはしないわよ」
「そもそもスパッツ穿いているだろう?」
「うん。まあそうなんだけどな」
ステージとかの上にはあがるし一応事故防止としてスパッツが渡されてるので穿いているけど……滅茶苦茶ライン出るし穿いているからって見られていいってわけじゃないじゃない? ショーパンと大して変わらない? いや全然違うだろう。
「ええい、本当に往生際が悪い! 私達が罰ゲームする事になったのはユージンが原因なのを忘れるな!?」
「うっ、それに関しては誠に申し訳なく」
今回の罰ゲームは午前中に別れたゲームによるものだ。20チームが4グループに別れてゲームをし、それぞれのグループの最下位が罰ゲームとなっている。ちなみにウチのチームは最後の高得点のゲームで俺が大ポカをやらかしたせいで最下位となった。……企画参加を決めたのも俺自身だし、本当に俺は文句をつける先がないのである。
「全く。フェアリスや聖女様を見習いなさい」
「彼女達が半ば自分達から罰ゲーム受けに行ったからなぁ……」
フェアリスも聖女様のチームもポイント的には微妙な所で最終ゲームに突入し、最終ゲームを落として最下位となった。……そこまでわざとらしくはなかったけど、見た感じ最後意図的にゲームをおとしたように見えた。多分フェアリスは企画内容的に自分達が罰ゲームを受けた方が皆が喜ぶと考えていった可能性が高いよな。彼女達はそっち方面でもプロフェッショナルだし。
聖女様は多分楽しそうだからってだけだと思う。最近あの人はそういうところがあるって解って来た。
でもまぁ、そうだね。自分が原因でのこの格好だし、諦めようね……
「この格好でそのまま接客しろって言われたら憤死しそうだけど、別段そういうわけじゃないしなぁ」
「あら面白そうね、それ。次のチームのファン感謝祭でやってみる?」
「やりません」
受けは良さそうだけどな。あとそんな事やるっていったら、ヴォルクさんが紛れ込みそうではあるけれども。
「ステージの上である程度は弄られそうだが、その後はチームに移動して精霊機装の中だ。そんなに気にする事もあるまいよ」
「今回はカメラ付きだから、映らないわけでもないけどねー」
「20機もいるから集中して映されるわけじゃないだろうし、そこは大丈夫かな」
この後午後の部は、トーク企画の後に5チーム参戦のバトルロイヤルが実行される。とはいえあくまでエキシビジョンだからいつものように殲滅まで行われるわけでもなく、一試合10分程度の短期決戦だ。コスプレのせいで少し長めに移されるかもしれないが、それでも一人頭の割り当て時間はせいぜい数十秒だろう。それに精霊機装で試合中は体を完全に椅子に固定するから、お尻の方を気にする必要性なくなるし。当然捲れあがる心配もない。
むしろゲーム内容自体の方が心配だ。バトルロイヤルはほぼ確実に俺とは相性悪いので。
なので俺はわざとらしく胸の前で腕を組み、思いっきり棒読みで二人に向けて言った。
「二人とも……ちゃんと俺の事守ってね?」
「無理だな」
「無理よねぇ」
ですよね。




