優勝祝いに一緒におでかけ
用を済ませ、手を洗いながら鏡を見る。
伊達メガネを掛けた、うっすらとだけ薄化粧をした幼い顔がそこにある。……とりあえず化粧が崩れているってことはないかな、よし。
「悪い、お待たせ」
女子トイレから外に出て、ベンチに座ったミズホとそれに向かい合うように立っていたサヤカに声を掛ける。
──今期の最終節が終わり、無事俺達のB1リーグ優勝とAリーグへの昇格が正式決定した。ついに上位リーグと呼ばれるAリーグ到達である。ここまで長かったような短かったような……いろいろ間にあった出来事の密度が濃すぎるせいか不思議な感覚だ。
以前と違い試合が終わって俺がそのまま向こうに帰るという事もなくなったため、その日の夜はチームとしての祝勝会となった。今回は実質もう優勝が決まっていたので、準備も万端だったしな。
そして日が明けて翌月曜日、俺とミズホ、サヤカは街へと繰り出していた。
「お帰りー。ちゃんと間に合った?」
「当たり前だろ」
ちょっと目尻を下げて言ってきたミズホに対して即答する。
嘘である。いや、やらかしてはいないけど、結構ギリギリだった。三人で映画を見終わってからトイレに向かったんだけど、普通に行列できてたんだよね。
男の時より我慢利かないし、男子トイレに比べて女子トイレが混むのは当然理解しているから普段は早め早めに行くようにしているんだけど、丁度少し催してきたのが映画のクライマックス付近だったんで我慢した結果がこれである。埋まる席がそこまで多くない、比較的人気の少ない映画館を選んでいたので大丈夫だと思ってたけど、甘くみたぜ……まぁセーフだったので良し。
「もうちょっと早く行けば良いのにな」
「あんなに可愛いおめめうるうるさせた状態じゃ、スクリーンから目を離せないでしょ。仕方ないわよ」
「ええい、うるさい」
何というか自分で言うのもなんだが映画とかでもらい泣きしやすいタイプなので、ラストの近くは割とジーンとしてしまっていた。なんか泣け!って感じの死亡シーンとかだと平気だったりするけど、なんかラスト近くでピンチの時にいろんな人間が助けに来る奴に特に弱いんだよね。特に無名の人たちが手を貸してくる展開に弱い。ほら、逆〇ャアのラストシーンみたいな奴。
さっきトイレの中で化粧を念のためにに確認したのは、ちょっとほろりとしちゃったからなんだけどな。二人には気づかれないとは思
「ああ、ユージンの泣き顔は可愛かったな」
「こぼれた涙をぐしぐしとこすっちゃったりしてねー」
見られてるじゃねーか!
ああ、もう! まぁいい、涙脆いのはとっくに知られてることだし……
「ラストとか、ユージンに思わず見とれちゃった」
「いやスクリーンを見ろよ」
映画館まで来て何してんだ。
「ねぇユージン」
「なんだよ?」
「今度アタシのお膝に座ってあの映画見よっか?」
「なんでだよ、しないよ」
「いや泣き出した時に後ろから優しくぎゅっとしてあげたいから」
「ユージン同じ映画で同じ場所で泣けるの私はすごいと思う」
いいだろ別に。
「んな事よりほらいくぞ。というかお前らはトイレいいの?」
「私は問題ない」
「アタシも平気ね。……ふふっ」
ミズホがゆっくりと立ち上がる……と、何故かその途中で含み笑いを漏らした。
「……どうした?」
「いや、昔と今の違いでつい、ね?」
「昔と今?」
「ほら、ユージン昔は基本的に混んでる女子トイレ使わなかったじゃない?」
「あー……」
あれ恥ずかしいの? とかドキドキしちゃうから? とか当時勘違いされたけど、あくまで顔も知らない女性利用者が隣で(外見上は女の子とはいえ)男が利用しているとしったら嫌な気分になるだろうと思ったからそうしていた。おかげで今回みたいに際どい所だったことも何度かあったけど。
「あー、ユージンは今は全く気にせず女子トイレ利用しているな」
「いや風呂だって一緒に入る事もあるのに今更だろ」
……そういや、あの以前他の精霊使いの女性陣と一緒に風呂に入ったので、ある程度吹っ切れた気はするな。
「というか、こっち世界の人間で俺の事男だと認識しているのって俺しかいない事に気づいたからな。最早気にするだけ無駄だ」
記憶が改ざんされている日本側は勿論の事、こっちの世界でも元の影の薄さが幸いして(あるいは災いして)か、殆どの人間が俺の女としてしかの認識がない。さすがに付き合いのあるチーム関係者は当初の頃は元男だっていう意識があったみたいだが、今となってはその気配すらない。最も距離の近いチームメイトにしろ、サヤカはそもそも俺が女になってから会ってるし、レオは自分の性癖を満たす存在として俺の事見てるし、ある意味この姿になった当初から俺の事をそういった目で見ていたミズホが一番俺を元男として扱ってくれる事が多い気がするけど、そのミズホも見る事や見られる事はまるで気にしていないわけで……途中で馬鹿らしくなったのは事実だ。なので、最近は女子更衣室もトイレも普通に使うようになった。もうこの姿になって2年も立つしな。一時的なものじゃなく一生のものなのに、当時の俺は本当に考えすぎていたんだなと思う。まぁ最初の頃はそういった目でみてしまう可能は高かったと思うので、その距離の取り方は必要だったと思うけど。
「ようするにユージンは身も心も女の子になったということでいいか?」
「いや性自認は変わらず男だからな?」
「行動とか生活スタイルもどんどん女の子になってきてるけどね~」
「女所帯で暮らしているんだから仕方ないだろ!?」
何せこっちの世界では概ねミズホとサヤカと一緒にいるし(まぁレオが見守っている事が多いが)、それ以外もこっちで付き合いの多い相手は女性が多い。フェアリスのメンバーとか秋葉ちゃん達とか聖女様とか浦部さんとか。そして、日本側でもなんか女性社員に過保護に囲われてたと節があるからなぁ……しかも一か月とかじゃなくて年単位だ。そりゃ影響も受けるっての。
だから性自認が男でも、女の子にしか見えないってのはもう認めてはいるからな。
「じゃあ、そんな女の子のユージンちゃんの新しいお洋服見に行きますかぁ」
「俺のじゃなくて皆の、だろ」
「全員でプレゼントしあうって約束したからな」
セルフの優勝祝いって事で、チームメイト内でプレゼントしあおうって事に決めたのだ。仲良しチームだよな、俺ら。そもそもレオ以外は半同居しているようなもんだから当然といえば当然だけど。
ちなみにレオは今日彼女とデートにいっているのでいないけど、別の所でちゃんと用意するとのこと。センスがないので、彼女に手伝ってもらうって言ってた。
「よーし、お姉さんユージンちゃんを滅茶苦茶可愛くコーディネートしちゃうぞ~」
「私も手伝おう」
「繰り返し言うけど、”皆”でプレゼントしあうんだからな? 後ちゃんと普段使い出来る奴にしてくれよ?」
「ミズホさんに任せなさい」
「私にぬかりはない」
……こいつら、二人ともそっち方面のセンスがいいせいで、きっちり俺がいやがらないで「まあこれなら……」というギリギリのラインを攻めてくるんだよなぁ。
「ちゃんと可愛い下着を選ぶぞ」
「いやお前下着選ぶつもりだったのかよ?」
「だってユージン割とシンプルなのしか持ってないじゃないか」
「それで充分だろ……」
ファンあっての商売ではあるから外見はきっちり気を遣うようになったけど、下着は見せるものじゃないからこだわる必要はないだろう。
「見えないところまで気を使ってこそ、出来る女よ?」
「そこは出来る女じゃなくていいので」
下着は見た目より着け心地の良さで選びたいです。
ツンとした態度で答えた俺に、ミズホはくすくす笑い、
「まぁそこはユージンの好きにさせましょ。あまり言ってお洋服の方まで断られたくないしね」
「ふむ、そうだな」
いや、さすがにそんな拗ね方はしないけど。
「というか、ユージンが選んでくれる服も期待しているからね?」
「……がんばる」
二人に比べるとセンスは全く自信ないけど、ミズホ達の好む服はちゃんと解ってるし、まあなんとかなるだろう。
「あ、そういえばお洋服で思い出したけどさ」
「うん?」
「来週のエキシビジョンと一緒にやるファン感、コスプレ企画あるけど当然参加するよね?」
「何それ初耳なんだけど」
「ほら、ミニゲームとかもやるっていってたじゃない?」
「あれの罰ゲーム的な奴。チームからはOKだしてるから、ユージンが拒否しなければ参加だけど」
「ああ、そういえばそんな事いってたな……勝てばいいだけだし、まあせっかくのお祭りだから参加するか」
そう答えると、何故かサヤカが眉を顰めた。
「どうしてユージンはそうやってフラグ立てるのかね」
立ててねえって。
「てか、そういう企画なら別に際どい奴……水着とかはないんだろ?」
「そういうのはないとは言っていたな」
「だとしたら問題ないな」
そういったイベントだったら着ぐるみとか、男装とかその辺りだろ? その程度なら全然問題ない。
「ユージンはCMとか撮影で、いろんな可愛い衣装きなれちゃってるもんね~」
「慣れてはいないからな?」
お仕事だから着てるだけですからね! そもそも大抵は普段着の延長上レベルの奴で、特殊なのはゲーム系とかそれくらいだけだから!




