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週末の精霊使い  作者: DP
4.カオスの楽園
301/346

カフェにて


リーグ戦最終節を翌日に迎えたシーズン最後の土曜日。


トレーニングとその後のシャワーを終え、軽いミーティングを済ませて帰ろうとしたところでフレイさんからメールが届いた。近くに来ているから会えないかのこと。


そういや、フレイさんのチームの最終節はカーマインだったか。


だから俺じゃなくて女の子に声掛けようよーとは思うけど、最近は普通に女性と接せれるようになっているらしいからまぁいいか。この時間だと訓練的なあれじゃないから、友人としての普通な誘いかな。


ぶっちゃけると俺、こっちの世界では男性の友人関係少ないから繋がりは大事にしておきたい。本来はこの後ミズホの車でサヤカと3人で帰る予定だったけど、先に帰っててくれと断りを入れて俺は事務所を出た。


指定されたのは、事務所からそう遠くないカフェだ。少し早歩きでそちらに向かい顔見知りの店員に挨拶すると、店の奥の方の席へ案内される。


そこでは、フレイさんが優雅に珈琲を飲んでいた。イケメンだから絵になるね。


「お待たせしましたー」

「いや、急に呼び出してしまったから、気にしないで」


カップをテーブルに置いたフレイさんに頭を下げつつ、俺は彼の反対側の席に腰を降ろす。


ん? なんかフレイさんが微妙に目を背けたな。なんだ?


……あ、そうか。元々後は帰るだけと考えていたので、シャワーを浴びた後着替えた恰好は、キャミソールのトップスだった。それで頭下げながら座ったから目を逸らしたのか。ちゃんと下にインナータイプのも身に着けているから変なものが見えちゃう事はないんだけど。ミズホの家に帰った後ならともかく、他のスタッフもいる事務所でそこまで無防備な恰好しませんよ。


てか、まだこういったの駄目なのかな? それとも紳士なだけか。どちらにしろ以前みたいな露骨な反応ってわけでもないし、そこまで気にする事もないな。見なかったことにして、俺はやってきた店員に紅茶と抹茶のシフォンケーキを注文してから彼に向き直る。


それから、来る途中で気になっていた事を口にした。


「今更な事かもしれないですけど、明日大事な試合なのにいいんですか?」


先ほど述べた通り、明日はリーグ戦の最終節がある。


ウチは前節一機も落ちる事なく勝った事で事実上優勝が決まっている(次の試合を負けても、勝率が同率の場合は総撃破数と被撃破数が影響するから一機でもおとせばこちらが上になるし、万が一一機も落とせなくても同数になりその場合直接対決の結果が影響する)ので次の試合は消化試合だが(手を抜くわけではないけど)、フレイさんの所は現在Aリーグトップだがまだ優勝が決まっていない。次の試合の結果次第では順位を落とす可能性もあるため、滅茶苦茶大事な試合の前なのだ。


だがそんな言葉に、フレイさんは小さく笑って答えを返してくる。


「現地についてしまえば後はホテルで休むだけだし、問題ないよ。チームメンバーも思い思いの場所に向かってるしね」


 まあ確かに施設がある本拠ならともかく、遠征先ではあまり満足行くトレーニングはできないかもしれないけど。


「だからリフレッシュに来ただけなので、気にしないで」


俺と会う事がリフレッシュになるのかな? 友人と談笑する事は息抜きにはなるか。まあ当人がいいといっているのならこれ以上言う事でもないので、そのまましばらくは最近のリーグ戦の事などで話を弾ませる。電話やメールなどで会話はしているけど、直接会うのはこうやって試合の開催地が重なった時くらいなので会うの自体は一か月以上ぶりだ。なので話の題材に困る事もない。


そうして過ごしているうちに紅茶とシフォンケーキがきたので、俺はフレイさんに一言断ってからシフォンケーキに口をつける。すると、丁度そのタイミングでフレイさんが思い出したようにあることを口にした。


「そういえば見たよ、ユージンさんの手作り弁当の動画」

「んっ、ごっほ!」


咽た。丁度シフォンケーキ飲み込もうとしたところだったんで。


「ちょ、大丈夫?」


心配そうに立ち上がろうとするフレイさんを手で制して、シフォンケーキを紅茶で流し込む。というか貴方が絶妙のタイミングでアレな事を口にしたせいですからね? ミズホならともかくフレイさんなら狙ってたわけではないだろうけど……


「……あれもう見たんですか」


ひとまず落ち着いたのでそう問いかけると、彼はこくりと頷く。


彼が見たのは、以前話のあったアルテールグループとのコラボ商品に関する動画だ。まだ商品は完成してないんだけど、宣伝用にそれぞれ動画を撮ったのである。商品の内容がそれぞれ違うので、撮影自体は個別だった。尤も他の三人は服や化粧品だったので似たりよったりの内容だったが、俺だけ料理番組みたいな撮影となった。俺の商品だけ弁当だからね……


商品の内容自体はすでに決まっているので、それをプロのアドバイスを受けつつ作っていく感じ。まさか撮影されながら料理を作るとは……いや、たまにミズホやサヤカが撮影していた気がするけどそれは置いといて。恰好が何故か料理には向いてないだろうという可愛らしい服と可愛らしいエプロンだったのがこっぱずかしかった。なんかその恰好のぬいぐるみやらイラストのアクリルキーホルダーをコラボ商品の引換グッズで用意するんで、その恰好だったっぽい。まぁお仕事なので着ましたけどね、一応事前にデザインは聞いてたし。


ちなみに、動画の最後に以前のCMでやったような「ユージンの手作り弁当、召し上がれ」的な事もやったよ。こういったのを大分心を乱されずにやれるようになってきた当たり、成長を感じる気がする。果たしてそれを成長ととらえていいのか微妙ではあるが。


ちなみに勿論市販されるのは量産品である。撮影で作った料理はスタッフ(とミズホ達)が美味しくいただきました。


こういった撮影の動画を知人に見られるのは今更なのであれだが、今回は公式サイトと動画サイトでの公開でテレビには流れておらず、また配信当日はこっちの世界にいない日だったので頭から飛んでいたので油断していた。


「発売したら、すぐ購入させてもらうよ。もうちょっと先だっけ?」

「予定ではそうですねー」


コラボ商品は一斉ではなく順次発売で俺の商品がトップバッターだが、それでも発売は来月予定になっている。


「ヴォルクは三食それにするって言ってたね」

「それはとめてください……」


普通なら冗談とかお世辞の類だと思う話だけど、相手がヴォルクさんだとないとは言い切れない。

だが、彼は笑顔で答える。


「僕の言う事で彼が止まると思うかい?」

「……後で直接連絡しておきます……」


コラボ相手の商売の邪魔になるが、さすがに三食あの弁当はよろしくない。グッズが貰える程度の数にしておいて欲しい。


「というか、手作り弁当って名打ってますけどあれ量産品で俺が手作りで作っているわけではないですからね?」

「それは解っているけど……それ公言するのまずくない?」

「当たり前な事だし別にいいでしょう。というかそんなに俺の弁当食べたいなら一回くらい作ってもいいのに」


ヴォルクさんは言動あれだけどいろんな所で世話になっているので、お礼も兼ねて弁当くらいは作るのはやぶさかではない。たまにミズホ達に弁当を作っているのでそれの延長線上と考えれば手間でもないしな。


そう思って口にしたら、フレイさんがガタっと腰を上げた。


「作ってくれるのかい!?」

「へ?」


俺が思わず間抜けな声を漏らすと、先ほどの言葉がヴォルクさん宛てだったという事に気づいたのだろう。「あっ」と声を上げた後彼の顔が少し朱に染まり、肩を落とした。


「あの……フレイさんも食べたいんだったら作りますよ?」

「本当かい!?」


あ、元気になった。まあいいか。


「だったら、エキシビジョンの時にでも作っていきましょうか?」


今回は2年前の時と同じにシーズンが前期シーズンだけで終了するが、あの時にように機体に大きなダメージを負ったチームがあるわけではないので、せっかくだからと考えたのかどうかはわからないが2週ほどエキシビジョンの戦闘とファン感謝イベントのようなもの……ようはオールスターが予定されている。そこでなら皆が集まるから丁度いいだろう。


「ありがとう、期待してまってる」

「あまり期待しないでくださいよ、ただの家庭料理みたいなもんなんですから」


ミズホやサヤカなど人に食わせるようになってから腕は上達はしたと思うけど、それでもあくまで素人レベルだからなぁ。あの弁当と同じ内容ならプロにレクチャー受けた奴だから美味しくは出来ると思うけどさ。


なんか思わぬところからやる事が増えたが、まあいいか。その後もうしばらく談笑を続けていると、フレイさんのスマホのアラームが鳴った。チームスタッフが迎えに来る時間らしい。俺の方もケーキと紅茶は食べ終わっていたので一緒に席を立ち、店を出る(フレイさんが奢るとのことで、甘えさせてもらった)。


「ユージンさん」


丁度店を出たところでフレイさんの迎えが来たので別れを告げて俺もタクシーを捕まえようとしたら、背後から声がかかった。振り返ると彼はまだ車に乗り込んでおらず、じっとこっちを見ていた。


「……どうしました」

「明日の試合で僕のチームが勝てば、エキシビジョンの後にアワードでまた会うと思うんだけど」

「はい、そうですね」


上位リーグへの昇格チームは基本呼ばれるからね。


「もしその時は、ちょっと話したい事があるんだけどいいかな?」

「? 構いませんけど、今この場じゃなくてですか?」


彼はこくりと頷いた。


「ありがとう。それじゃ明日の試合はお互い頑張ろう」


そう告げて彼は車に乗り込むと、車はゆっくりと走り去っていった。窓の向こう側に手を振りながら、俺は独り言ちる。


「……話ってなんだろ? まさかスカウトじゃないだろうしなぁ」


少し考えてみても特に思い当たることはなかったので、俺は考えるのはやめて二人が待つ部屋へと帰るためにタクシーを探すことにした。











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― 新着の感想 ―
[一言] まだ男性的な感覚が抜けきらずに男性と友達のように接している(つもりの)TS主人公が告白されてうろたえてる様子からしか摂れない栄養がある
[良い点] ……これは、告白フラグが立ったのでは? そして、それにまったく気づいていないユージン。可愛い。^_^
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