B1天王山②
レザントが最も得意とするのは徒手空拳の格闘戦だ。その距離でのインファイトなら間違いなくSランク級だと言っていい。そんな相手に拳での殴りあいを挑む人間はほぼいない(浦部さんのように一部正面から受けて立って勝利する精霊使いはいる)ため、当然相対する相手は武器を持つ。そうすればどうしたってリーチ差が出てしまう為、レザントも基本的には武器を用いて戦う。
彼の武装は戦槌だ。それを彼の機体は片手で振り回して戦う。
先に仕掛けたのはレザントの方だった。牽制で機銃を放ちつつ、彼の機体は大きく振りかぶった戦槌を叩きつける。サヤカはその戦槌に刀を叩きつけて受け流し──そして返す刀でレザントを斬りつけたがそれは機体を捻られて躱されてしまった。
攻撃を受け流した後、踏み込まなかったせいだ。いつものサヤカならここで踏み込んで斬りつけに行く。だがレザント相手にそれをやった場合は間違いなく空いている方の腕で迎撃されるだけなので自殺行為だ。
サヤカは強い相手と戦うのが好きだし、自分の能力に自信も持っているタイプではあるがだからといって自分の事を過剰評価はしないし、何より与えられた役目はきっちりこなす娘だ。
基本攻めるタイプのサヤカにとって引き気味の戦いはあまり得意ではないだろうが、間違いなく時間は稼いでくれるはず。向こうもそれは解っているだろうが、サヤカに背中を向ける事は出来ないだろう。──ダメージ覚悟の攻勢に出られた場合は押し切られる可能性が高いが、その時のフォローの担当は俺じゃない。
そのフォロー担当となるミズホは上手く自分の距離に相手を引きずり込んでいた。つかず離れずの距離からお互い銃撃を繰り返している。……更に上手いのが相手の遠距離射撃型の精霊使いの有効射程と思われるギリギリ範囲内に陣取っている事だ。あちらさんは最初に落とす狙い目は霊力が多くタフなレオではなく、平均値より劣るミズホだと考えているのだろう。結果2機の攻撃がミズホの方に向かっているが、彼女は絶妙の距離感で(さすがに多少は被弾しているが)捌いていた。
ミズホも大丈夫そうではあるが、さすがに好き勝手やらせる訳にはいかないので連装LRMや滑腔砲を用いて牽制しておく。……ぶっちゃけ遠距離射撃の腕は俺の方が上だ、奴の有効範囲外だろうが直撃は無理だとしてもすぐ近くに弾着させる事ができる。自分が迫られていない状態なら2体同時に狙撃するくらいは余裕だ。いや余裕は言い過ぎだけど。
メインの標的はレオの相手であるポルテスなので。
実弾系のライフルと肩の滑腔砲を用いて奴を誘導するように攻撃をぶち込んでいく。本当は霊力弾の方が追い込みやすいが、今回俺は出来るだけ霊力は温存しておきたいので基本実弾系兵器が基本になる。霊力弾と違って途中変化は着けられないが、そこは読みと腕でカバーだ。こっちもダメージを与える事をメインに考える必要がない。中距離型の敵の機体にレオを接近させるために攻撃と退避の阻害を行えばいい。無論それを無視して下がろうとするならぶち当たるように撃ってはいるが。
レオは多少のダメージは覚悟の上でポルテスの機体に向けて突進している。今回のエリアはARの遮蔽が存在するマップだから上手くそれを遮蔽にして進んではいるが、まだ少し距離があった。
最悪今回の作戦は多少距離があっても実行可能だが、それぞれ出来るだけ距離を詰めてくれた方が効果は強く出る。遮蔽を利用して接近していくレオから離れられないように間断なく攻撃を叩きこむ。最悪実弾系の兵器は作戦の発動までに弾切れを起こしてしまったっていいのだ。
──状況的にミズホとレオは順調。やはり崩れる可能性があるとしたらサヤカの所か。
レザントの戦槌はメインウエポンではないとはいえ、やはりA級上位の実力者だ。拳を使わせなければ楽勝という訳では決してない。サヤカは上手く躱し受け流しているが、それでも数撃被弾しているらしく徐々に霊力ゲージが減り始めている。
だが、まだ慌てる時間ではない。この結果は予測から大きくは外れていない。今回の試合は短期決戦の予定だが、焦って切り札を早々と切ってしまうのは悪手だ。
今回切り札は俺とミズホが抱えていて、俺の切り札はレオが接敵後。ミズホの方はレザントが痺れを切らした後に使用する予定になっている。
実際奴の性格からしてレオが接敵する辺りになるまでは間違いなく痺れを切らすハズ。それが出来るだけ後に来るのが理想的なんだが……
「レオ、後どれくらいだ」
『もうちょいっス! あとちょっと近づいたら【祝福の運び手】発動するんで、そしたら援護よろしくっス』
「了解だ」
このまま順調にいってくれれば。
──そう考えてしまったのがフラグになってしまったのだろうか。次に通信機から響いてきたサヤカの言葉が、俺の期待を打ち砕いた。
『レザントの動きのギアが上がった! 多分全開駆動に移行したんだ、こっちも全開駆動に移行する!』
くそっ、そこまで甘くはいかせてくれないか!
レザントにとって全開駆動状態こそが本領だ。思うがままに動く全開駆動状態は彼の格闘センスとの相性が非常に良い。更には彼の魔術もある。一気にサヤカの事を落としに来たと考えて間違いない。
であれば躊躇している暇はないな。
「タマモ、全開駆動」
全開駆動になれば消耗速度は増すが、俺の切り札は仕込みに少し時間がかかる。ここからは全員が時間との勝負だ。サヤカがどうのこうの以前にだらだらしてたら消耗で自滅である。
「【八咫鏡】」
【八咫鏡】、任意の場所にいきなり出せたらいいんだけどな。残念ながらどれだけ術を見直してもそういった機能を持たせる事はできなかったので地道に移動させるしかない。力を発動させる時以外は見えないようにできるのが救いだ。
通信機からは他の皆の全開駆動に移行する声が聞こえてくる。接敵していないレオも含めてだ。続けてレオが【祝福の運び手】を発動させる声が届き、そして──轟音が響いた。
その音が誰の機体から響いたのかは、言葉で確認するまでもなかった。サヤカの機体が大きく体勢を崩しており、その正面ではレザントの機体が正拳突きを放ったような体勢を取っていた。距離自体は少し離れているので、直接打撃を受けたものではない。
『っ、私とした事が判断が遅かったな! 【刀神演舞・天下五剣】』
体勢を崩したサヤカの機体に追撃を行うべく銃撃と共にハルバートを構えて突撃してくるレザントの機体を、サヤカが呼び出した巨刀で薙ぎ払う。同時に3本の剣を使って強引に機体を運び一度距離を取ってからサヤカは体勢を立て直す。
『威力はそこまで高くはないが、厄介だな【空打】』
一つ息を吐いたサヤカの呟きが通信機から漏れる。
レザントの魔術【空打】。空気を打撃する事で衝撃波を起こすという意味がわからない技だ。まぁ精霊使いの魔術は意味がわからないものが多いけども。
一撃の威力はそこまででもないが、周囲に広がるような効果範囲を持つため近接戦闘時には回避がかなり難しい上に威力の方向の打ち分けも可能な為にバランスを崩される。近接戦ではかなり厄介な技だ。救いは連打はできず一発事に数秒のインターバルがいる事だが。
追撃を阻まれたレザントは、サヤカの事を深追いしなかった。そのまま機体の向きを変えるとサヤカに注意を払いながらもレオの機体を進めていく。……恐らくポルテスと連携するつもりだ、サヤカではなく先にレオを叩くつもりだろうか。彼の術はよくレザントと連携して使用される事が多い。
『させる訳がないんだよなぁ!』
その事に感づいたであろうサヤカが自らの刀に飛び乗り、一気に距離を詰めていく。が、その動きは普通に読んでいたのだろう。レザントが脇を締め腕を引いた。




