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週末の精霊使い  作者: DP
4.カオスの楽園
293/346

B1天王山前夜


「ふう、これでいいかな」


スマホのメッセージを打ち終え、送信ボタンを押す。相手はフレイさんだ。


フェアリスが誘ってくれたアトラクションの日にそろそろ他の女性と接触を増やしましょうと伝えたつもりだったのだが、何故かその後フレイさんからこうやってメッセージが送られてくる事が増えた。解せぬ。俺じゃなくて他の女性にメッセージ送ろ? メールのメッセージなら特に問題ないでしょ?


ちなみにこれで質問が女性に対してどうすればいいかという相談ならわかるのだが概ねただの雑談である。やはり解せぬ。


まぁこっちの世界だと俺は男性の友人がすくないので、ついつい早めに返事返しちゃうんだけどさ。


「ユージン、繋がったぞー」

「おう、今行く」


リビングの方からサヤカの声で呼ばれたので、返事をしつつそちらに向かう。


リビングではローテーブルに向かっているミズホとサヤカがこちらを振り向き……何故かサヤカがばっと両手を広げてテーブルの前に立ちふさがった。


「……何してるの?」

「もうレオとつながっているからな? さすがにチームメイトといえユージンのはしたない姿を見せる訳には」

「いやこれちゃんと下穿いてるからな!?」


今の俺の恰好は自宅にいる時によく来ているようなゆったりとしたTシャツだ。自宅にいる時はこの格好で下はノーブラ、下半身もパンツだけとかいうくっそだらしない恰好をしていたりもするが、さすがに三人で週末は半同棲状態になっているミズホの家とはいえ、他の人間もいるのにそんなだらしない恰好はしない。ていうか自宅の時だってサヤカが来るときはちゃんと下は穿いてる。


「……む、確かに身に着けているようだな」

「当たり前だろ、ったく」


納得したらしくサヤカが元の体勢になったので、俺はそのサヤカの横に移動──しようとしたらガシッと体を捕まえられて、反対側──サヤカとミズホの間に座らせられた。


「ユージンは真ん中じゃないと見ずらいだろう」

「……まぁ」


座らせられた正面には、ノートパソコンが広げられていた。その画面には現在レオの顔が映っている。確かに体格を考えるとこの並び順が正しいとは思うんだけども。あの、そんなに二人とも体寄せてこなくてもよくありません? ほら、レオの顔が緩んできてるから!


「はよ動画流して始めよ!」

「はいはい」


俺がそう告げるとレオがちょっと悲しそうな顔になったが、それはガン無視してミズホがPCを操作すると動画が流れ出したのでそれを画面共有する。


流れ出したのは精霊機装の試合風景だった。明日対戦する相手であり現在ウチと同様B1リーグで全勝を保っているアスヴァーンの映像である。


今シーズンの試合が前半だけで終了するのが発表されて以降もうちは順調に勝利を積み重ね現在6連勝中だ。そして第7戦の相手が昨季までAリーグに所属していた同じく全勝のアスヴァーンという訳である。いわゆる天王山という訳だ。


そう、俺達は明日の試合に向けてのミーティングを行うのである。


本来なら日中、事務所やトレーニング場などで全員揃っているときに行うのだけど、今日は訓練の方をギリギリまでやってしまったため作戦会議の時間があまり取れなかった。なので解散後、自宅に帰った後に続きをやることになった。俺とサヤカは基本週末はミズホの家で共同生活なので、レオだけが自宅からオンラインの参加である。(まだ彼女と同棲はしておらず実家住まいだ)


先ほどまでミズホを除けばふざけた雰囲気を出していたミズホとレオだが、動画が流れればそこはさすがにプロだ。フザケた雰囲気は消え、動画に集中する。


動画は直近の映像ではなく、昨季以前のAリーグでかつエースが怪我する前の試合のいくつかを編集した映像だ。


正直な所、今期のB1は実力をメキメキと上げている内とエースが復帰し本来の戦力に戻ったアスヴァーンが完全に抜けている。実力差がかなりあるため、今期の試合はあまり参考にならないのだ。


この動画自体はすでに何度もチェックしているものだが、繰り返し見れば見落としていた部分が見えて来たりもする。そういった事をそれぞれ口出しながら見ていると、やがて動画は終わった。


「んしょ」


すかさずミズホが動画プレイヤーを閉じ、代わりに別のいくつかのファイルを広く。相手チームの各種データやウチの装備情報、それに明日の戦場情報のデータだ。


そんなミズホを横目に、サヤカが頬杖をついたまま言葉を吐く。


「いやぁ、何度見てもやっぱり強いな、レザント」


アノス・レザント。アスヴァーンの絶対的エースだ。彼女の言う通り、映像を見ているだけで強いのがわかる。相手はB1ではなくAのチームなのにも関わらず大抵の映像では戦闘を優位に運んでいた。


間違いなく個としての実力はAランクの中では上位だろう。多分Sリーグでもやっていける実力はあるハズ。……ヴォルクさんもそうだけど、Aランクの中には何人かそういう実力者はいる。Sのチームへ移籍しない理由はまぁいろいろあるんだろうけど。


何にしろ、これまで俺達が戦ってきた精霊使いの中では一番手ごわい相手になるのは間違いない。とはいえ、浦部さんみたいに相対したら無条件降伏をしたくなるほどの圧倒的な強さではない。今の俺達ならなんとかできるハズとは思える強さだ。イヤ俺がタイマンしたら秒で倒されるけどな?


「改めて確認するけど、止められるか?」

()()()()勝つのは無理そうだけど、時間限定で止めるのは何とかなると思う」


……サヤカはこういった時に無駄に見栄を張ったことは言わないので、足止めを出来るのは事実だろう。レザントはスピードタイプではなくパワータイプなので時間を稼ぐことを前提に動けばある程度は行けるはずだ。ミズホの支援を入れればいっそうその可能性は増す。


アノス・レザントは豊富な霊力を持つ前衛型のファイターだ。タイプでいえばレオに似ている気はするが、経験の差もありレオには悪いが技術の面では比べ物にならない。相手をするのはややタイプが異なるサヤカになるのは間違いない。


「明日の試合、サヤカがレザントを食い止めれるかがキモだからな、頼むぜ」

「ミズホが"ディレイ"を入れてくれればなんとでも出来ると思う。それよりユージンとレオこそ大丈夫か?」

『俺はもう問題ないっすね、ミズホさんやサヤカさん程じゃないッスけど、今日の訓練でもいけてましたし。というか大変さはユージンさんが9割なんで』

「まぁ頑張るよ。シミュレーターではかなり想定通りに動かせるようになったしな」


今サヤカが言ったミズホの"ディレイ"。

それと俺と他のメンバーが連携するもう一つの切り札。


今期開始前から準備し、ここまで使わず隠し通してきた二つの新技がある。それを使えばいけるハズだ。ここまで温存できていたのも大きい。


「なんにせよ早期決着の為には出し惜しみはなしでいかないとな」


レザントの実力を考えれば長期戦になると不利になる。というかまかり間違ってサヤカが落とされるとレザントを止めれない気がするので、明日の試合は短期決戦だ。配置に着いたら早々に動く。


「まぁ試合終わったらグロッキーになるかもしれないけど」

「最近はトレーニングでは落ち着いてきたけど、最初の頃とかかなりフラフラになってたものね?」

「始めの時はふらふらでお風呂も一人で入れなかったものな」

「う゛っ」


その時の事を思い出して、思わず顔が赤くなる。


新技は俺の負担が結構大きくて、しかも最初の頃はシミュレーターとはいえがっつりトレーニングしすた後に実機でも訓練したせいで歩いているだけでふらつくような状態になっちゃったんだよな。


結果としてミズホの家に戻ってきても満足に動く事もできず、危ないからと風呂もミズホ達に入れてもらったのだ。


さすがに今回はそこまではならない、ハズ。ただ実戦で使うのは初めてだからちょっと終わった後の状態はなんともいえない。


「安心して、ふらふらになっちゃってもちゃんと全部面倒見てあげるから」


いや明日日曜日だから試合終わったら日本に帰りますんで……大分テレワークに移行しつつあるけど、月曜日はちょっとこなさないといけない仕事ありますし。


風呂で寝て溺れないように気を付けないとな……。





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