みんなであそぼう③
酔った。
別にアルコールにではない。
このアミューズメント施設はヴァーチャルリアリティを売りにしているらしく、VR/MR/ARを活かしたアトラクションが多数存在していた。
そのアトラクションで酔ったのである。
俺が乗ったのは、アイリが興味を示したVRのアトラクションだ。頭にHMDを被り、コースターに乗る体感アトラクション。幾つもの異世界を渡るコースターという設定で、HMDにはファンタジー色溢れるモンスターのいる世界や、宇宙空間を翔けるロボットが映し出される。……後者はともかく前者はリアルでも偶に現実でも見てるけどなぁ。論理崩壊で。いや後者も最近似たようなのと戦ってたな……
そしてその映像に合わせて、コースターが揺れたり風が吹いたり音が鳴ったりするわけだ。
正直アイリはめっちゃはしゃいでいるのが声から分かったし、俺も途中までは楽しめてたんだけど……途中からくらくらしだして、終わる頃にはグロッキーになっていた。──VR酔いしたらしい。
あれぇ、俺VRやったことあるしその時は大丈夫だったんだけど? てかこれ、そこそこ時間が長いからちゃんと注意文とか出して置いた方がいいね。正式オープンじゃないからないのもかもしれないけど。
「ママ、大丈夫?」
HMDを外すと、アイリがこちらのことを心配そうな顔で覗き込んでいた。
見回せば、一緒に体験していた他のメンバーはすでにコースターを降りていた。どうやら酔いからくる気持ち悪さのせいで、一人だけ遅れていたらしい。
「大丈夫だよ、アイリ」
とはいえ、吐きそうだとかそこまでじゃない。ちょっと気持ち悪さを感じているだけだ。だから俺はアイリの頭を撫でてそう言葉を返してから、ゆっくりとコースターを降りようとして、
「あっ」
踏み出した足の膝から力がガクッと抜けた。
高いところから降りるところだったから当然前に向かってバランスを崩す。まずっ、とそうおもったが、次の瞬間俺は横から伸びて来た腕に支えられていた。
その腕を支点にさせてもらってなんとか体勢を立て直してからその腕を見上げると、そこには一緒にコースターにのっていたフレイさんが立っていた。彼が支えてくれたらしい。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえ……」
彼からゆっくりと体を離しながら礼を言うと、彼からはやや力のない応答が返って来た。見れば、耳が紅くなっている。……うーん、この程度の接触でそんな反応とは、成長が……と思ったけどよくよく考えたら身体的な接触はそんなしてないな。まぁ手を繋ぐとかくらいならともかく今みたいに半分抱き着いたみたいな状態はさすがに実践して上げる気はないので、その辺は産まれながらの女の子で体験して頂きたい。フレイさんのスペックなら問題なく話せるようになったら相手は楽勝で見つかるだろう。
「アイリ。俺はちょっと休んでるからサヤカ達と遊んでおいで」
「ママ、大丈夫?」
「ちょっと休めば大丈夫だよ」
「──うん、わかった!」
俺の言葉にアイリは元気よく頷くと、隣のアトラクションで遊んでいるサヤカとレオの方にかけて行った。サヤカはこういったのが好きなようで、今日のメンバーの中で一番楽しそうに遊んでいる。
「ふう」
そのアイリを見送った後俺は一つため息を吐いた後、ゆっくりと視界の端に映るベンチへと足を向けた。アイリに言った通り少し休めばすぐ直るだろうけど、とりあえず座りたい。
……というか、だ。
フレイさんと、ヴォルクさん。なんで俺の横固めてるの? 護衛じゃないんだからさ。
まぁヴォルクさんに関してはもういいとしてだ。この人俺が居るところ以外では全然まともらしいし。でもフレイさんは駄目だろう。せっかくの機会なんだから、修行してきて。
ということで俺はヴォルクさんをちょいちょいと指で誘うと、彼にあることを囁いた。
それを聞いたヴォルクさんはちょっとにんまりとした笑みを浮かべると、頷いてフレイさんの腕を掴んだ。
「え、何を」
「姫が騎士にもっと他と交流しろとのお達しだ。ほらいくぞ」
「ちょ、ちょっと」
フレイさんは少しだけ抵抗の様子を見せるが、ヴォルクさんは気にせずそのまま引っ張っていく。本人に直接言おうかなと思ったけど、ヴォルクさんに頼んだ方が早そうなのでお願いしてしまった。それに一人で送り込むより、ヴォルクさんも一緒の方が助かるだろう。一応遊んでる中にはレオと引率のパストロさんもいるけどさ。ヴォルクさんには感謝だ。ただ姫呼びはやめて?
「よいしょ、っと」
一人になった(いや視界に入る範囲にみんないるけど)俺は、ゆっくりとベンチに腰をおろす。少しこれでのんびりするか。
「ユージン」
……と思ったら、速攻で声が掛けられた。
振り返ると、そこには女性陣が3人立っている。ミズホ、ロッテさん、リゼッタさんだ。この3人はあまりアトラクションで遊ばず雑談していたようなので、多分俺が一人になって休憩に入ったのをみて寄って来たんだろう。
「いる?」
ミズホがペットボトルを差し出してきたので。ありがたく受け取る。スポドリだったので、3口ほど口に着けて飲み干していると、三人は前に回ってきて俺を囲むように座って来た。まぁ横幅の広いベンチだったからぎゅうぎゅうってわけではないけど。
「お疲れみたいね、ユージンちゃん」
「……若い子達に付き合うと、やっぱり疲れますね」
ウチの若い子二人は今も楽しそうに遊んでいる。俺自身はアイリに付き合っていろいろアトラクションで遊んでいたので、多分その疲れもあって酔ったんだろうな。
「それ、貴女の口から違和感バリバリね」
「……こんなナリですけど、俺今日の面子の中では上から三番めですからね?」
今日の面子の中で俺より上はパストロさんとヴォルクさんだけだ。女性陣の中では俺が一番上。まぁリゼッタさんはともかくミズホやロッテさんは年下とはいえ1~2歳差だから同世代みたいなもんだけど。
「だとしたらお姉様と呼ぶべきかしら」
「やめてください」
ロッテさんがからかうような笑みを浮かべて告げた言葉に、半目でそう返す。ところでリゼッタさん、なんか目を輝かせてるように見えるけどなんで? 貴女レオみたいな性癖なかったですよね?
「というか、皆遊んでこないんですか?」
「遊んだわよー。ゾンビバンバン撃ったりとか」
ああ、そういえばVRではない普通のガンシューとかもあったね。三面ディスプレイ使ってて150度くらいから敵が襲ってくる奴だけど。正直あれめっちゃ疲れると思うんだけど。
「私もチームのメンバーで遊んできましたけど、ちょっと疲れたので」
「同じく」
リゼッタさんとミズホは俺と同じか。ミズホは体動かす系の奴ばっかりやってたからそりゃ疲れるだろうな。俺もアイリと一緒に半分くらいは付き合ったけど。
「それじゃ皆しばらく休憩ですかね」
「そうしましょそうしましょ」
俺の言葉にロッテさんをはじめとして皆が頷く。今日のこれは一応たまにカメラマンが撮影に来るとは言え仕事ではなくほぼプライベートみたいなものだから、疲れている中無理して遊ぶ必要もないかな。
さすがにベンチに4人並んでは喋りづらかったので、遊んでいるアイリやサヤカ達に断ってからカフェらしきスペース(さすがに飲食の提供はしていなかったので席を借りただけ)に移動し、最近の仕事や試合の話、ファッションや化粧品(さすがに最後の奴はわからないので「へー」とか「ふーん」とか相槌打っているだけになったが)していると、耳にヴヴヴと何かが震えている音が飛び込んで来た。




