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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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少女の姿は広大な海へと放たれた

「天が与えたもうた完成された造形……これこそ正に芸術品に他ならないわ」

「えっと……脳味噌わいてあらせられる?」


いやわいてたな、最近のこいつは。


「とりあえず妙な事いっても誤魔化されんからな」

「えー、でもさー。美しいものに視線がいっちゃうのは仕方なくない?」

「まず尻が芸術品扱いはおかしいし、仕方なくないだろ」


そう返す俺の言葉に、ミズホは唇の端を吊り上げた笑みを見せる。


「だけどユージンも、アタシが胸元の開いた服きた時胸元にちらっと視線を向けてたじゃない」

「ぐっ……」

「割とそういう視線は気づくものよ?」


……そりゃ俺も健康なまだ20半ばの男だ。いくらそういう対象としては見ていないといっても、見目麗しくスタイルも整った女性が夏場などにそういった服を着ていればつい視線が行ってしまうこともある……いや、はい、ごめんなさい。


「自分はしてOKなのに、自分がされるのはダメなの~?」


くそう、反論できねぇ。

はぁ、と俺は負けを認めため息を吐く。


「……とりあえずガン見は止めろ。俺もガン見はしてないんだから」

「はぁい」


そうか……今まで自分が向けていた視線をこれからは自分に向けられる可能性があるのか……しかも自分もしていたことだからまるっきり否定もしづらいっていう。

特に俺の場合そもそもあまり見られる事自体得意じゃないというのもあるので、これからの事を考えると億劫になる。正直な所、突っ込んだものの付き合いの長いミズホ辺りにみられるなら(ガン見でなければ)それほどでもないが、見ず知らずのそれも男にそういう目で見られるのは……あああ、想像しただけでも背筋がゾワゾワするぅ!


「? どうしたんっスか、急に震えて」

「余計な事を想像して背筋が寒くなった」

「何を想像したんスか」

「言いたくない」


というか考えたくない。

救いは外見が幼いからそういう視線を向けられる可能性は低いことか。ただ身長のわりに胸はあるからなぁ……解析局で言われた通り実際の所は子供ではなくて童顔・低身長なだけの大人ってことだからなんだろうが。


せめてもう少し大人しめな外見であればここまで目立つ事は……ってそういえば。


「そういや、拡散ってそんなされてるんか?」


俺を囲んできた連中のほとんどはその拡散された情報を見て俺の事を知った人間だったが、そんなに広域で拡散されているのか。まだあんまり自分という認識が薄いとはいえ、自分の姿がネットの広大な海に広がっているって考えると辛いんだけど。


「いやぁー、すごいっすよ。そこら中で話題の的になってるっス」

「動画サイトにも『ユージンたんまとめ』とかいうエニシングの切り抜き動画が上がっていて、かなりの再生数になってたわね──普通に違法アップロードだから番組に連絡入れといたら翌日に消えてたけど」

「あれ、ミズホさんならへビーローテしてるのかと思ったんスけど」

「録画を自分で編集したもっと完璧な動画があるもの。自分専用だけど」

「流石っスミズホさん」


いや流石じゃねぇよ。お前普通に生で毎週みてるのに何してんの?


「リアルタイムで見るのと、映像で繰り返し見るのは別の楽しみがあるのよ?」


人の心を読むな。

しかしそんな拡散されてるのか……


「あ、でも大部分は好意的な意見っスよ。ええっと……ほら」


それだけ広まっているならしばらくは今日のような状態が続くのかと億劫な気持ちになっていると、それを何か誤解したのかレオがフォローの言葉と共に自分のスマホを操作しこちらに差し出してきた。


受け取ってみると、そこにはいわゆるまとめブログのコメント欄のようなものが表示されていた。なんとはなしにその表示されている内容を読んでみると……


匿名:俺Cランクリーグ見たことないんだけど、ほんとこの子元は男なの?

匿名:前にもエニシングに出ていた事あったけど、その時は普通に男だったよ。暑苦しい系じゃなかったけど[画像]

匿名:元が髭もじゃおっさんだったらアレだったけどこれならいけるな。

匿名:いけるって何が?

匿名:いやでも本当に可愛いな。このチーム、ミズホ・オーゼンセもいるしもう一人のレオって奴羨ましすぎるだろ。

匿名:Bランクのアイドルチームフェアリスからライバル視されそう。

匿名:この外見なのに胸がそこそこあるのはいけません。性癖に刺さります。

匿名:というか実年齢24歳ってことは通報されないんだな!?

匿名:↑何する気かしらんけど取り合えず通報した。

匿名:ユージンたんは合法

匿名:というか動画みたけどところどころ可愛い動きしてたけど狙ってやってたのかな。

匿名:いやぁ、どう見たってあれは素でしょ。逆にアレを演技でやってたら天才と言わざるを得ない

匿名:つまりユージン殿には元々美少女の才能があったということでよろしいか?

匿名:俺としては番組内でいってた実はこっちが本来の姿なのを押したい

匿名:精霊使いに新たなアイドルが降臨したな

匿名:元が男だと分かっててもこの可愛さは推しにせざるをえない。

匿名:むしろ元が男だからこそいいのでは?

匿名:激しく同意する


俺はそこまで目を通したところで頭痛を感じ、起動されているアプリを閉じた。思いっきりスマホを床に叩きつけたい衝動をなんとか抑えて持ち主に返す。


「……なぁアキツってアホが多いのか?」

「なんで一回こっち見てから言ったの? ユージン」


今言った通りの理由だが?

というか元の姿の画像を貼るのやめてくれ……別に元の自分の姿を卑下する意味ではなく、単純にそっちの姿の方が自分だという意識がまだ強いので恥ずかしさが大きい……今の姿は画像自体は貼られていても割と他人事で見れるんだが。


「どこもこんな感じなのか?」

「割とどこもこんな感じっスね、俺が見た限りだと」

「ちなみに自分で検索して見たりするのはやめた方がいいわよ」

「する気は欠片もないけどなんでだ? ……あー、もしかして悪意バリバリの奴も多いとか?」


日本人であるというだけで毛嫌いする連中も中には居るし、単純に唐突に出てきて精霊使いとしての実力以外の部分で目立つ事に否定的な奴らもいるだろう。そう思ったのだが、ミズホは首を振った。


「そういうのもあるかもしれないけど見た感じ殆ど見ないわ。そうじゃなくてなんというか……子供に見せられない感じの話? 具体的に言うとネチョい奴」

「……マジかよ」


ミズホが言いたいことを理解し、俺は愕然とする。というかだな、俺がどうの以前に生物(ナマモノ)に対してそういうのは止めようぜ……。


とりあえずミズホの提案通り、ネットにはびこる情報に関しては俺は一切検索しない事を心に決めた。悪口程度ならまだしも、そんなものを見たら心に消えない傷を負いかねない。


「うん、やめやめ。この件に関してはとりあえず忘れよう。俺達にこんなことしてる暇はないはずだ」

「さっきまで突っ伏して身悶えしてたのはユージンさんっスよ?」

「いやそうだけどさ」


悪かったよ……。

明日は、後期リーグ戦の開始日だ。ウチは不戦敗で一試合飛んでるから実質一ヶ月ぶりの試合になる。しかもその間の内半分くらいは機体や霊力の問題でろくに訓練もできてないのでわずかな時間でも無駄にすべきではない。


「……っし!」


俺は自分の顔を平手で軽くたたいて立ち上がる。


望んだことではないとはいえ注目を集めてしまったのは事実だ。これで明日の試合で無様な姿を晒せば、俺は色物路線まっしぐらだ。ヒーローになりたいわけじゃないが、色物キャラもまっぴら御免である。


「ミズホ、レオ! トレーニングと最終調整行くぞ!」

「うっス!」

「ふぁい」


ミズホさん、もうちょっと気合いの入った返事欲しいなぁ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] むしろ元が男だからこそいいのでは? [一言] 激しく同意する
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