突撃敢行⑤
そういやミズホとか部屋で以前Gさんが出た時大騒ぎしていたなぁとか思い出していると、レオが話しかけてきた。
『ユージンさん、アレは大丈夫なんスか?』
……いや、本当に俺弱点塗れって思われていない? まぁさっきの様子を見せた後だと否定をしづらいけど……
「あれは別に……飛んでこなければ」
俺が苦手なのは目がない奴とかぬるぬるした奴なので。あれは外見自体は他の昆虫と大差がないし……飛行した瞬間悪魔と化すが。
ちなみに俺の自宅は生ごみとかは適切に処置してるしこまめにアース〇ッド焚いてるし、コン〇ットも各所に設置してあるので、奴が出現した事はない。
「しかしなんだろうな、あれ」
見た目がGに酷似している上にでかいので一部女性陣に対して脅威になっているが、デカいといっても1mに届かない程度だ。この近辺にいた中ボスくらいの虫共に比べると全然小さい。大した脅威にならない気もするが……などと思っていると、その姿らしく地面をカサカサと動いたGの一匹がサヤカの機体の足元に近寄り、
『うわぁ!?』
爆発した。
突然の足元への衝撃にサヤカの機体が前に傾きかける。そこに更にG達が押し寄せ──俺や浦部さん、レオの銃撃に弾き飛ばされた。
『わっ、わっ、わっ』
その間にサヤカは自身の刀によって、空中に退避する。……フォロー間に合って良かったわ、あれ一撃はそんなにでかくないっぽいけど、さすがに連続で喰らって倒れたりしたらヤバかったぞ。一気に集られて連鎖爆発だ。
しかしまさか自爆型とは……俺だけではなく浦部さんやレオの銃撃でも一撃で吹っ飛んだから、耐久性は全くなさそうなのでミサイルとか自爆ドローンの類と考えた方がいいか。
連中空は飛べないようで、一番近くの獲物だったサヤカが空中に退避した事によって目標を次に近い浦部さんとハザマさんに変えたようだ。二十近い数の巨大なGが彼らの機体に向かって押し寄せる。
「浦部さん、【八咫鏡】で拡散させてもらって消し飛ばします!」
今の状況かで数を誇る相手に対抗できるのは俺だ。だからそう通信機に対してそう言葉を送ったが──返って来たのは否定の言葉だ。
「いらんさね。ゴキブリなら叩いて潰せばいいだけさね」
その言葉と共に。【千手千眼観音】によって生み出された手が戦闘を走っていたG数匹に向かって叩きつけられた。ただそれだけで、Gはつぶれ、無残な姿になり動かなくなる。そして更に振り上げられた手が後方のGへ一撃。そいつらを叩き潰して更に繰り返し。
──たった数秒で、Gの群れは地面の染みへとなった。
「つっよ」
『無敵ですか浦部さん……あ、無敵でしたね』
ロッテさんが自分の呟きにセルフ突っ込みする。現役最強、復帰してからは負け知らずだもんね浦部さん。
『そんな事よりエルネストの二人、準備は大丈夫さね? ルメールがこっちに向かってる。30秒くらいたったらさっきの作戦を始めるよ』
『こっちは大丈夫だ。さっきのも大したダメージじゃない』
「えっと、俺はさっきと同じ一撃をぶち込めばいいんですよね?」
『その通り……っ』
浦部さんの言葉と同時に、再びボス虫が光を発しようとしたので全員が回避行動に入る。……俺とミズホはまたレオにカバーしてもらう事になったが。
『こっちの方は厄介じゃな。威力がそれなりに大きい』
自身は見事に回避しているハザマさんがそう口にする。恐らく俺をカバーしたレオや、回避しきれなかったロッテさんやサヤカの霊力減少を見たのだろう。
『次の一手でケリをつけないと、ちと残量が厳しくなるのぅ』
これまで皆ずっと全開駆動、しかも術を多用している。俺達の回復のために温存しているレオとロッテさんを除けばそろそろ残り霊力に不安がある。
『何、次で終わる……いや終わらせるさ』
サヤカが刀に乗って飛び回り、触手を断ち切りながらそう口にする。
『これだけの面子が揃ってるし、何よりアタシ達のユージンがいるもの。終わるわよ──それに、来たわよ増援が』
ミズホからの信頼の重い言葉。そして彼女の言葉の通り、こちらに2機の機体が駆けつけた。ルメールさんと秋葉ちゃんだ。いつも秋葉ちゃんと一緒にいる金守さんは後方の方で、雑魚どもを捌いているのが見えた。火力の高い秋葉ちゃんをこちらに送り込むために、雑魚どもの処理を買って出たのだろう。
とにかく、これで戦力は揃った。
『ユージン、準備は万端さね!?』
「完璧です! 行きます!」
事前に【八咫鏡】は所定の位置に配置してある。俺は浦部さんの言葉を引き金として、何度もそこに銃撃を叩き込み──先ほどのように収束した力を奴の胴体へと叩き込んだ。それによって再び、ボス虫のでかい図体に風穴があく。そして当然奴は再び身を縮めて……
『させるか!』
その動きを見せた瞬間、刀に乗ったまま高い位置まで跳ね上がったサヤカの機体がボス虫の巨体の上に飛び乗った。そして5本の剣をそれぞれボス虫の甲殻の隙間に叩き込んだ。
楔のように撃ち込まれた刀は、ボス虫が傷跡を塞ごうとしていた動きを止める。が、パワー負けしているのかギシギシと音を立て、その刀身がしなるのが見えた。
……だがその刀身が折れるその前に、更にその殻と殻の間に衝立のようにルメールさんのシールドが発動された。更に浦部さんの【千手千眼観音】の手が掴みかかる。
それによって、虫の甲殻の動きが止まった。大きな風穴を開けたまま。
その後は、合図はいらなかった。他の皆がその穴に向けて攻撃を叩き込んでいく。その度に今度は虫が何かが軋むような音の悲鳴を上げる。
だが、決定打になっていない! 図体がデカすぎて全体のダメージにダメージが与えられていないんだ! だったら!
「レオ! カバー頼む!」
『了解っす!』
俺は銃撃をやめ、機体をボス虫に向かって走らせる。今の位置からだと角度が悪い、穴の近くに寄って拡散弾を叩き込む。
俺の意図を察してくれたのだろう。カザマさんは穴への攻撃を中止し、俺に向かってくる触手を叩き落とす役に回ってくれた。更に落としきれない触手はレオがその身を挺して防いでくれる。
そして俺は穴の側へとたどり着く。ここまで来るとレオも触手を防ぎきれず軽く一撃を貰ってしまったが、もう問題ない! 俺は【八咫鏡】を風穴の中に配置して渾身の力を込めた銃撃を放つ。
──ボス虫の体が大きく震えた。
俺の放った銃撃は中に配置した【八咫鏡】にて全方向に拡散され、奴の全身を貫いたのだ。だが、
「まだ動くのかよ!」
これでも致命傷にならないのか! 奴の足元から伸びた触手はまだうごめいている。だったら動けなくなるまで叩き込んでやると再び銃を構えなおした時、通信機から秋葉ちゃんの声が響いた。
『ユージンさん、前開けてください!』
その言葉に、何故、とは問わない。俺は即座に機体を横に滑らせて、秋葉ちゃんの位置からの射線を通す。
その横を、水の竜が通り抜けていく。秋葉ちゃんの【水竜招来】だ。
竜はまっすぐに寸分違わず、俺の開けた風穴へと突っ込んでいく。そしてその頭部がその中に消えた時、秋葉ちゃんの声が通信機から轟いた。
『"八岐大蛇"!』
その叫びと共に、ボス虫が大きく体を震わせた。先ほどより遥かに大きく。
"八岐大蛇"……その言葉の通り、一匹の竜を八頭の竜へと変化させる秋葉ちゃんの術式。今の一撃で奴の体に高圧の水流による一撃が全方位で叩きつけられたハズだ。
これでどうだ……?
息を飲んで、ボス虫の姿を見る。まだ動くようだったらすぐに追撃を放てるように銃を構えたまま。
だが──これまでとどまることなく蠢き続けていた職はわずかにプルプル震えた後力なく地面に倒れ、そして奴の本体は大きく開いた風穴から体力の黒い液体を噴出しながら……動きを止めた。
「やったか……?」
『なんでフラグ立てに行くんスか、ユージンさん……?』
『正直もうヘロヘロだから更に次の形態が、とか本気で勘弁して欲しいんだけどアタシ』
『これでもし続きがあったらユージンちゃん折檻ね』
「なんで!?」
そんな意図で言ったわけじゃないからな!?
なんか真面目に妙な事されそうだし、もう動くなよー。動くんじゃないぞー。
……
……
「よし! 間違いなく死んだな!」
『ちえー』
『ちょっと残念ね』
アルファさんにロッテさん、さすがに怒りますからね? というかさっきと言ってる事違うじゃねーか!
『とにかくこれで終わりさね?』
『みたいっスね。周囲も殆ど片付いているみたいだし、これでほぼ終戦っスかね』
『さすがに、限界だ……』
サヤカがずっと展開したままだった巨大な刀を消す。彼女は魔術常時発動状態だった上に最前線にいたから、言葉の通り本当に限界間近だったんだろう。
だが、これでこちらの勝利だ。後はゆっくり休め……
『ちょっと、そっち終わったならゲート早く閉じて! アタシも限界が近いんだけど!?』
やっべ、忘れてた!
ミズホの悲鳴に本来の目的を思い出した俺は、慌ててライフルを構えるのだった。




