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週末の精霊使い  作者: DP
4.カオスの楽園
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戦場到着


それからしばくして。ちょうどトイレに行って戻る途中の事、キィンと何やら甲高い音が響いた。


「これは……」


その音に足を止めると、正面の部屋から扉が開きセラス局長が姿を現した。


彼女はいつのまにか耳にインカムのようなものを付けていた。そしてそのマイクに向けて何やら喋ってからこちらに視線を向ける。


「局長、今の音は」

「はい。封鎖が解除されました」


事前に局長から封鎖が解除された時には音が響くと聞いていた。今の音がその音だったわけだ。


「やはり、すでに30分程前にゲートが開き戦闘は開始されているようです」

「……ほぼ予想通りでしたか」


俺たちが封鎖された空間に閉じ込められていたのは大体2時間。恐らく開戦には30分程度間に合わないと局長は予測していたが、ドンピシャだったようだ。


「急いで現地に向かいます、ついてきてください」


セラス局長はそう告げると、足早に通路を俺が来たのと反対側へ向かって歩きだす。俺はそれに慌ててついていこうとして……穿いていたスリッパを脱いで、元居た部屋に放り込んでから彼女に続いた。ぶっちゃけ速く歩きづらいので。


「このまま転送用アイテムを設置した部屋へ向かいます」


以前俺が攫われた時に使用されたアイテム。一時期グラナーダに設置されていたそれは今は回収済みで、今回は論理解析局の車両に設置しておいたらしい。なので、この屋敷から一瞬で転移できる。


……できれば下着は変えたいんだけど、現在皆が戦闘中と考えるとそんな甘えたことはいっていられない。まぁとっくに乾いて不快感はないので気分的な問題だけでしかないから我慢しておく。……事が終わった後ミズホの部屋にいって着替えよう。


そんな事を考えていたら、セラス局長がとある扉の前で足を止めた。


「ここです」


扉を開き手招きされたので続いて部屋に入ると、そこは殺風景な空間だった。その中央に少し高くなった台座のような所がある。


「この台座の上に乗ればいいんですか?」

「ええ。──どうぞ」


セラス局長が手を差し出してきたので、ちょっと首を傾げてからその手を取る。──と思ったら、次の瞬間体が浮遊感に包まれた。


「ちょっと局長!?」


気が付けば、俺の体はセラス局長に横抱きにかかえられていた。え、ちょっといつの間に? というかセラス局長線が細いのに力あるな? いやこれもセラス局長特有の謎パワーか?


「動かないで」


思わず反射的にじたばたしてしまう俺に、そうすぐ側から声が掛けられる。


「ユージンさん靴を履いていないでしょう。現地は屋外ですし、私が運びますよ」


いや別に靴下のままでも問題ありませんけど!? 混乱から落ち着いてそう口にする前に、セラス局長は俺を抱きかかえたまま台座の上に立ち何かを呟いた。


ただそれだけで、一瞬光に包まれた後、景色が変わる。


無機質だった部屋の景色は消え去り、現れたのはトラックのコンテナのような場所の中だった。正面の扉は開いており、小さなタラップが設置されている。局長はそこを優雅に降りていく。俺を抱きかかえたまま──というか、


カメラいるんだけど!? TV局か!?


確かに迫力ある映像は取れるだろうけどさ、だったら戦場の方を取っていろよドローンとかさ! なんでこの場にいるの!?


向けられたカメラに反応して、咄嗟に顔を隠す。


「どうしました」

「……降ろしてください」

「ちょっとだけ待ってください……ああ、こちらです」


俺以外の誰かに向けて声を掛けている様子だったので、ちらりと指の隙間から様子を見ると、チームのスタッフがこちらへやってきていた。手にはチームユニフォームの靴を持っている。ああ、持ってきてくれたのか。


そのスタッフの女性はそのままこちらへ近寄ると、俺の足を取り靴を履かせ──いや、普通に地面に靴おいてそこに降ろしてよ! 自分で履くからさ!


抵抗する暇もなく、片足に靴を履かされる。ここまで来ると下手に抵抗すると余計に時間を食うと諦め素直にもう片方も履かせてもらうと、ようやく俺は地面に降ろしてもらえた。


「それでは、よろしくお願いします。貴女が扉を閉じるためのキーです」

「……了解」


セラス局長から掛けられた声に、俺は最低限の頷きを返してからスタッフに視線を向ける。


「こちらです……あ、ちょっとまって!」


意図を察してくれたスタッフが先導して駆けだしたので、俺は後につい走り出そうとしたらすぐに立ち止まって振り返った彼女に抑え込まれた。


「何!?」

「いえ、その恰好で走ると多分見えちゃうので」


あ。


体を離した彼女の視線は俺の腰より下に向いている。そうだ、今スカートだし、更にまだ尻尾も消えていない。そんな状態で走ったら後方フルオープンだろう。痴女まっしぐらである。


ああ、もう! これだからスカートはめんどくさい! いや別に超ミニとかじゃないんだから多少走ったくらいじゃ普通はそこまでにはならんので、尻尾がすべて悪い! いつ消えるんだよこれ!?


「これ、腰に巻いてください。それで大丈夫でしょう」


彼女はそう言って、自分のジャケットを差し出してくれた。俺はそれをありがたく受け取ると腰に巻き付けて、改めてスタッフの子と一緒に走り出す。……うん、これならスカートは大丈夫そうだな。


そのまま二人で200mくらい走ると見慣れたトランスポーターや精霊機装のある場所に辿り着いた。


「召喚用の端末は!?」

「トランスポーター内に設置してあります!」

「了解! あとこれありがと!」


借りていたジャケットを返してからスタッフと別れトランスポーターの中に駆け上がると、確かに設置された簡易テーブルの上に端末が置かれていた。俺はその前に置かれたパネルの上に手を乗せて、声を上げる。


「タマモ、行くぞっ!」


俺の呼びかけに応じ、ディスプレイの中からきゅぽんっと間抜けな音と共に相棒が出現する。タマモはそのまま俺の腕を伝って駆けあがると、左肩の上にちょこんと座った。


それを確認する事もなく、俺はタラップを駆け上がり自分の機体に飛びつくと操縦席の中に体を滑り込ませる、


横倒しのシートに体を寝かせ──スカートがとんでもない事になったが、ここまでくれば見ているのがタマモだけしかいないのでどうでもいい。ハーネスを締めて体を固定しつつ、俺は外部スピーカーのスイッチを入れて叫ぶ。


「リフトアップお願いします!」


俺の声に応じて機体の角度を感じながら、改めて態勢を整える。


「タマモ、融合(フュージョン)


タマモが操縦宝珠(コントローラー)の中に消えていき、精霊機装の全身に俺の意思が通じてゆく。


それに合わせ、体が地面に対して垂直になった。リフトアップが完了したのだ。機体の拘束箇所が解除されるのを確認し、


「<<精霊駆動(エレメンタルドライブ)>>へ移行」


機体を動かし始める。


「……よし」


準備万端だ。俺は一度だけ息を吐いて気合をいれなおしてから、スピーカーのスイッチをオフにし、代わりに通信機のスイッチを入れなおす。と、最初に響いたのはナナオさんの声だった。


『この後のミッションに参加するメンバーはみんな同じチャンネルに接続しているわ。ユージンもそちらに接続して』

「了解」


そういや今回はこの後ラヴジャやフェアリス、アズリエルとかと連携して行動するんだっけ。俺はナナオさんに伝えられたチャンネルに改めて繋ぎなおし、


「すみません、遅く」

『『ユージン無事(か)っ!?』』


口に出した挨拶の言葉は、その途中で上げられた聞きなれた声が重なった言葉にかき消された。









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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりにそういえばこの作品には一応メカ要素があるんだったと思い出した なんでも起動シーンはわくわくしますね〜! もしかして8月25日以降は投稿頻度が若干落ちたりしてしまう…?
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