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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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変わる日常


「おはよーッス! ……あれ、ユージンさん寝てるんスか?」


いつも通り元気な挨拶と共に部屋に入って来たレオが、ソファにうつぶせで身を投げ出している俺に気づいたらしくそう問いかけてきたので、俺は顔を伏せたまま腕だけを上げて起きていることを伝える。


「……どうしたんスか、これ?」

「うちのお姫様はお疲れらしいわ」

「……お姫様じゃなーい……」


怪訝そうな声でレオが発した問いに、すでに部屋にいたミズホがアホな回答を返したので力なく突っ込みを入れる。

いや、疲れているのは事実だが。


エニシング・エレメンタラーズの収録があった週の翌週の土曜日、時刻はまだ朝と呼んでいい時間。日本から異世界アキツへやってきてまだ間もなく、普段であればよしこれから訓練なり敵チームの分析なり始めるぞーという活力に満ちているハズの時間帯だが、今の俺には何も手を付ける気力が起きてこない。なんならこのまま眠ってしまいたいが、今寝たら確定で悪夢をみてしまいそうだ。


「ここに来るまで大変だったらしくて、来て早々この状態よ」

「あー……エニシングの件で?」

「そうね。まぁあれだけ拡散されてればそうなるわよねぇ」


耳に入ってくる二人のやりとりを聞きながら、俺は今日自分の身に起きたことを思い出す。


始まりは、転移施設最寄りの駅にたどり着いた時だった。

改札をくぐり、エルネストの本拠のある駅イーストサンへ向かう電車を待っていると、少女達二人(といっても外見上は俺より年上だ。日本でいえば高校生くらいだろうか?)に声を掛けられた。


「もしかしてユージンさんですか?」


そうだけど何か? と返すとどうやら二人はエルネスト・エレメンタラーズの視聴者で番組を見てファンになってくれたらしい。──あの番組を見てファンになったということは完全に”可愛い”とかそういった扱いだろうが、一応こっちもファンあっての職業ともいえる精霊機装のプレイヤーだ。その場は愛想笑いで応対し、くっそへたくそなサイン(慣れてないからごめんねと謝りつつ)を書いて二人と別れた。


今考えれば、この時点で予測すべきだったのだが、この時の俺はのほほんとしすぎていた。何も考えずに電車に乗り込んでしまった。とはいえ転移施設のある区域は都市の中心部からは離れており住宅街もあまりない場所で乗客の数もさほど多くない。なので、乗った時点では多少の視線を感じたものの大した問題はなかった。


事態が急変したのは乗ってからいくつめか、大きな駅についた時だった。


乗り込んで来た乗客の一部が俺の姿を認めると、こちらの名を呼び話しかけてきたのだ。


それがトリガーとなった。


それまでは俺をちらちらとみていた他の乗客たちもそれにつられて集まってしまったのだ。車輛の隅で座っていた俺は瞬く間に囲まれてしまった。

そこから先は質問攻めだ。彼らの大半は殆ど精霊使いとしての俺のプロフィールなど殆ど知らず、中には何をしてる人なのと聞いてくる奴すらいた(そいつに関してはさすがに別の人が突っ込むように答えていたが)。


──番組の出演にあたり、多少は人目を引くのは覚悟していた。実際電車の中でもいつもと比べ物にならないほど視線は感じていたし。だがエニシング・エレメンタラーズへの出演でそれ以上の注目は集めないと思っていた。


エニシング・エレメンタラーズが人気のない番組というわけではない。とはいえ、Cランクリーグのチーム紹介のコーナーはさすがに視聴者はそんなにいないだろうと判断していた。


実際の所、俺を囲んだ連中は番組を見ていない人間も多かった(だから俺を精霊使いということすら認識していないような奴もいたのだ)。じゃあどこで知ったのかと聞いてみたところ、なにやら番組の切り抜きやらスクショやらと物理崩壊(フィジカルブレイク)したという情報だけがこちらの世界のTwitter(もどきで勿論そのものではない)みたいなもので拡散されたらしい。そのせいで中途半端な情報で俺の事を知っている人間が大量発生しているという状態になっていたのだ。


正直、想定外の事態だ。駅を超えるたびに俺の周囲の囲いは増え、更にその周囲からの視線も増えてゆく。明らかに邪魔になっているので解散してくれるように言っても聞き入れられない。更には勝手に撮影したり俺に触れてこようとする連中も出てきて(さすがにその辺りは周囲の人間が止めてくれたが)俺は耐えられなくなり(何よりエルネストの事務所までついて来られても困る)、次の停車駅で用事があるといって強引に電車を降りる事にした。


その後、電車を降りて迄ついてきた連中とそれに気づいて更に集まってきた連中に更に囲まれそうになったがなんとか離脱し、そこからタクシーに乗ってようやくエルネストの事務所にたどり着くことが出来た。だがここまでで俺の精神はすり減っており、今の状態である。


なにせ俺は日本側ではただの一市民だし、こっちだって3部リーグの1プレイヤーに過ぎないのだ。こんな経験は過去に一度もしたことないので疲労感が半端ない。こっちの有名人はみんなこんな目に()ってるのか……?


「なあミズホ……」

「何かしら」

「お前もこんな目にしょっちゅうあってるの?」

「ないわよ。流石にファンとかももう少し常識はわきまえてるわ。今回は物理崩壊(フィジカルブレイク)っていう情報が大きいんじゃないかしらね」

「ああ成程……」


要は珍獣扱いってことだ。しかも外見と情報だけ流れて素性があまり知られていないことで逆に興味を引いてしまったということか。


「うがぁー……」


ソファの上で呻き声を上げながらじたばたと身悶えする。


ここ数週間で自分を取り巻く環境が一変しすぎだ。宝くじで一等当てたとしてもここまで変わる事はないだろう。正直そろそろ精神が追い付かない。日本側でもこの年で補導員に声をかけられるってのをすでに2回も経験してるしさぁー(ちなみにどちらも免許証の掲示で事なきを得た。身分証明書大事)。他にもいろいろあるが特にアレに感じているのがトイレだ。いまだに女子トイレを使う事に抵抗がある。自分が変質者になった気分になるんだよな……おかげで無駄に我慢してしまったりする。


いやそんなことはどうでもいい。


ああ、とりあえず何も考えずにこのまま寝てしまいたい。だけどこっちの時間は貴重だからなぁ……明日試合があるし。


そろそろうだうだするのをやめて起きないとと思いつつどうにも気が乗らずソファの上でうつぶせのままもぞもぞやっていると、レオが声をかけてきた。


「ユージンさん、そろそろ起きてくださいよ。というかせめて顔は上げて欲しいっス」

「分かってるけどなー……」


そう答えつつなかなか俺が顔を起こさないでいると、レオが再び声をかけてくる。


「いやでもいいんスか?」

「何がだ?」

「ミズホさんがユージンさんの尻の辺りガン見してるッスよ」

「あ、こら余計な事を!」


俺はソファから飛び起きた。そしてその勢いのままに体を捻り、ミズホの方に向き直る。


「ちょっとレオ、なんで言っちゃうのよ。貴方私達の仲応援しているんじゃないの?」

「イチャイチャはして欲しいっスけど、視姦してるのはちょっと求めてるのとは違うっス」


視姦いうな。


俺はレオとそんなやりとりをしているミズホに声をかける。


「おいロリコン」

「はい」


返事するのか……俺はそんな開き直っているミズホに向けてジト目で言ってやる。


「ミズホさん、職場でのセクハラは止めてもらえませんかね?」

「いえ、これはセクハラではないわ」

「じゃあなんだよ」

「芸術鑑賞」


真顔で言い切りやがった。


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