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週末の精霊使い  作者: DP
4.カオスの楽園
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状況について

説明会なので、まとめて2話上げます。1話目。

床に崩れ落ちながらも局長に向けられたままだった視線からも、力が失われた。それだけでなく首からも力が抜けて、こちらからはその顔が見えなくなる。


そんな彼女の元から立ち上がり、こちらに近づいてきたセラス局長に、俺は思わず縋り付いてしまった。目の前で起きた事に、足の力が抜けてしまったのだ。……なんとか下半身は近づきすぎないように気を付けたけど。


そんな俺を局長は柔らかく受け止めてくれた。その顔にも先ほどまでは消えていた、いつもの柔らかい笑みが戻っている。いつもの局長。


「あの……」

「ひとまず部屋を移動しましょうか」


何を言っていいかも整理できていないのに口を開いた俺の言葉を遮るようにして、局長が俺に話しかけてくる。


「封鎖の解除にはしばらく時間がかかりそうですが、動け回れる範囲はもう少し広いようです。……幸いその範囲に、休憩できるスペースがあります。そちらに移動しましょうか」

「……はい」


諭すような優しい口調で掛けられた言葉に、俺は頷いた。


確かにこの力の入らない足の状態で立ち話はできそうにないし、なにより──


ちらりと視線を向けた先には、動かなくなった女が倒れ伏している。


──そんな場所で、ゆっくりと話なんて出来るわけはなかった。


◇◆


俺が転移してきた場所は、論理解析局の施設ではなくセラス局長の私邸だということだった。


なので部屋からでても他の職員の姿はなく、そのまま俺は局長に別の部屋に案内されることになった。


ちなみにその途中でトイレも見かけた。良かった。先ほどの話を聞いている限りしばらくの間ここに閉じ込めらる事になりそうだから、トイレ無しはさすがに不味かった。替えがないから着替える事はできないけど……


案内された部屋は、給湯室のような感じだった。冷蔵庫やポットなどがあり、椅子とテーブルもある。空間が封鎖されているのに水とか電気は大丈夫なのかと思ったけど、よく考えたらそもそも部屋の電気がついていた。理屈はわからないが、局長の謎パワーで問題ないのだろう。


「紅茶でいいですか」


頷くと、局長が手慣れた手つきで紅茶を入れてくれた。ティーパックの奴だけど。

それを俺と自分の前に置き、椅子に座る……その前に、局長は深く頭を下げた。


「まずは謝罪を。ユージンさんを危険な目に合わせてしまいました。まことに申し訳ございません」

「いえ、それに関しては仕方ない事だったので!」


慌てて俺は顔を上げてくださいと促す。


事前にリスクは伝えられていたのだ、自身の安全を考えればそれこそ他の彷徨い人(ワンダラー)達のように保護してもらっておくべきだったのだ。だがいつ事がおきるわからない状況の中日本側での生活を投げ捨てる事はできず、向こう側に戻る選択をしたのは自分である。


更にはセラス局長は身を護るのに必要な事をしてくれたと思う。銃撃を弾いたのは、セラス局長が何かしてくれたいたハズだ。あのきもいヒルみたいな奴も外見だけで恐怖でパニクってしまったが、触れられた感触はなかったのだ。恐らくバリアみたいなものを張ってくれていたのだと思う。


だから、怖い思いは正直したけど、結果として危険には晒されていない。そう伝えると、だがセラス局長は首を振った。


「いえ、本来はもう少し早く駆けつけられたのです。ですがアレを確実に処理するため、少し遅れてしまいました。本来ならしなくていい思いをさせてしまいましたので」


そう言って、再び頭を下げる局長。だが俺が困っている様子に気づいたのだろう、顔を上げると今度は俺の対面の席についていろいろ説明をしてくれた。


まず、謝罪の理由である遅れてきた理由について。


どうやら現在、あの女の仕業で以前深淵の一件で開いたような異界とつながる穴が開きかけているらしい。


「いやそれ、めっちゃ大事じゃないですか!」


その事を聞いた瞬間、俺は口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになった。洒落にならない大事である。正直セラス局長の立場を考えると、俺の事なんか放っておいてすぐそちらの対応に全力を注ぐべきな状況なのでは?


そう思うが、俺以前にアイツを放置できなかったんだろう。アイツがいる限り今後も同じ事が繰り返されるのだから。


局長が遅れたのは、それに応対する指示と、アイツを確実に捉えるための仕掛けの起動を行っていたためだという事だった。勿論状況は監視していて、局長が準備してあった防衛手段が破られそうなのであれば早期介入する予定だったそうだが。


空間封鎖は予想していたそうだ。ただ異界の力を使われる以上事前に封じる事はできなかったらしい。なので、今の状況になっている。


現在解析と力を消去するための処理を実施しているが、解除できるのには恐らく2時間前後だという事だった。──その頃には、異界の扉は開いている。


そのため、すべての活動可能な精霊使いに出動要請が出ているそうだ。秋葉ちゃん達にも行っているらしく、俺にも当然来ているらしい……それに気づく前にこっちに来ちゃったけど。距離の問題で間に合わない連中もいるが、間に合った奴は総勢で迎撃に当たる……らしいのだが。


「俺と局長ここにいる状況で、穴って塞げるんですか?」


俺は深淵の時に異界の穴を閉じた実績がある。恐らくあの時と同じことをすれば閉じられるだろう。セラス局長は……この人はなんでもできそうな感じがするので。


そんな俺の考えを読み取ったのか、局長は少々困ったような笑みを浮かべて答えた。


「私でも、すぐには無理ですよ。最速でアレを塞げるのは間違いなくユージンさんの界滅武装だけです」


なので、今の状況は取れるうちで最良の状況ですと今度は彼女は小さく笑った。

本番は俺と局長が現地に駆けつけた後。そのためにそれまでは無理して攻めず迎撃に努める事、更にいざ俺達が到着した後の突撃の為にエルネストを含めるいくつかのチームは温存しているそうだ。


「なので、申し訳ありませんがここから脱出出来次第即座に戦場に向かわせて頂きます」

「了解です」


精霊使いにとって、こういった防衛任務は重要な仕事だ、勿論文句などない。というか、今すぐ駆けつけられないのが申し訳ないくらいだ。どうしようもないけど。


その後も、いくつか状況説明を受けた。望んだことではないが、時間はたっぷりある。聞けることは出来るだけ聞いておきたかった。


そうやって、一通り話を聞き終わった後。──俺はずっと気になっていて、だが聞くべきか否か悩んでいたことを結局口にした。


「局長。──結局あの女は」

「生命活動は停止しています。もう動くことはないでしょう」


返答は淡々と帰って来た。アイツのさきほどの姿、そしてアイツがしでかしてきたことを考えると当然予測されることなので、驚きはない。


「アレは、深淵、グラナーダからの侵攻、そして直近のすべての論理崩壊(ロジカルブレイク)に関わっていた事が確認されています」

「深淵の一件もですか!?」


グラナーダと最近の事象に関わっていたことは知っていたが、深淵の件にまで絡んでいた事はしらなかった。という事はここ最近で起きたトラブルほぼ全部アイツのせいじゃねーか! 害悪ってレベルじゃねーぞ!


「更に彼女は世界を渡る事ができます。なので、捕まえておくことはできません。──よって早急に処理は必要と判断しました」


局長の言葉にコクリと頷く。深淵の件も、グラナーダの件も、そして今起きている事も、俺たち精霊使いが防衛に失敗していれば大惨事が起こっていた。更にまともに捉えておくこともできないのであれば──殺害は致し方なかったとしか言えない。


「それに、アレは恐らく他所の世界にも多くの問題を起こしていたようですからね……」

「へ?」





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