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週末の精霊使い  作者: DP
4.カオスの楽園
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彷徨い人に起きている事


撮影は無事完了し、これから戦場に向かう二人を送り出し。


俺自身は一人タクシーで転送施設──ではなく、その途中にある施設へ向かった。論理解析局の施設である。


そして今、俺の胸にはアイリが顔を埋めている。


……ほんとアイリはこの体勢好きだよな。やはり無意識にでも母親的な物を求めてるのかねぇ。外見上は5歳前後のアイリだけど、卵から生まれてからまだ2か月も経過していないのだ。生後2か月なので、そういった物を求めるのも仕方ないと思う。


なので、ちょっとくすぐったいのを我慢してしたいようにさせて、頭を撫でてあげている。少ししたら落ち着いて離れてくれるしな。これくらいならまぁなんともない、相手子供だし女の子だし。


うん、顔埋められるくらいならね。おっぱい飲みたいとか言われたら逃げるけど。そもそも出ないし。


「ママァ……」


……ママ呼び定着しつつあるなぁ。響きが気に入っちゃったのかね。


今日こうして、帰りに論理解析局にやってきたのはここ最近アイリと直接会えていなかったためだ。


シーズン開始前の時に職員さんが言っていた通り、今アイリの行動は制限されているため彼女はあまり外出する事ができない。なのでオンラインでの会話ばかりになっている。


特に先週は他の都市へ遠征しての試合だったため、まったく会う余裕がなかった。ただ今週はカーマインでの試合で昨日は事務所に居たにも関わらず、直接会いに来ることはなかったんだよな。


──それからしばらくアイリにべったりとされ、その後ちょっと遊んだり一緒におやつを食べたりして2時間くらいたった頃だろうか? お腹が満たされたら眠くなってしまったらしく、アイリは座った俺の太腿の上に頭を乗せ、しがみつくようにして眠ってしまった。


そんな彼女の髪に軽く触れつつ、自分の子供が出来たらこんな感じだったのかなぁ、とふと思う。


この体になった事により、俺が自分の子供を持つ事はほぼなくなった。いや、作ろうと思えば作れるんだろうけど、うん……可能性としては0%に近いだろうとは思っている。2年たった今でも周囲にいる男性に対してそういった感情は全く抱くことはなかったし。


だから息子なり娘などを持つ可能性はほぼゼロだ。そういう意味では疑似的にとはいえアイリにこうやって懐かれているのは有難いのかもしれない、そんな事を思うようになってきた。


まあしてる事や会う頻度を考えると、どう考えても娘じゃなくて姪みたいな感じだけどな! 一番手がかかるであろう乳幼児時代はそもそもほぼなかったし、普段の面倒自体は論理解析局の方で見てくれているから、俺がしているのはお話して、一緒にご飯食べて、一緒に遊んでってだけだ。


うん、どっからどう見ても親じゃなくて親戚のお兄さん……外見的にはお姉さんか。それにしかならんな。ママと呼ばれてはいるものの、俺などが親代わりと名乗るのはおこがましすぎる。


アイリは一気にこのくらいの年齢までは成長したものの、それ以降は体も精神も急成長する事もなく子供のままなので、いずれはどこかの養子になるだろうと話は聞いている。普通はいろいろ支援などは受けつつも彷徨い人(ワンダラー)は自活を始めるんだけど、さすがにアイリの年齢では一人暮らしは無理だからな。そうなればちゃんとした両親が出来るだろうから、俺はそれまでの仮初の親って感じかね。


ま、そうなるまでは俺の出来る事はやってあげるようにしよう。その程度の事を考えるくらいにはアイリに愛着は湧いているので。


時間的にはもう夕方だが、ここから転送施設はそこまで遠いわけではなくタクシーを呼んでもらえば十数分で着く距離だ。家に帰ってから用事もないので今日くらいは長めに付き合って上げるかと、眠るアイリを起こすこともなくぼうっとしていると、いつもの職員さんが飲み物と共にやってきた。


そして、今回俺がカーマインにいたにもかかわらず直接会いに来なかった理由を教えてくれた。


「ここ最近の彷徨い人(ワンダラー)に共通して異常が見られる?」

「はい、微々たるものなのですが……」


彼女の話によると、例のアイリ達が現れた同時多発論理崩壊(ロジカルブレイク)以降に出現した彷徨い人(ワンダラー)に、論理崩壊(ロジカルブレイク)が発生する前の予兆と似た傾向の数値異常が出ているらしい。とはいえ彼女の言う通り非常に微々たるもので、数値が増加傾向にあるわけでもなく何かが起きるといった感じのものでもないらしいが。


ただ、


「だからといって、その状態で街に出すわけにもいかないと」


俺の言葉に彼女は頷く。


確かに、そんな状況では外に出すわけにはいかないだろう。そのせいで、今回は俺がカーマインにいるにも関わらず訪れなかったようだ。もし急に数値が変動して論理崩壊(ロジカルブレイク)が起きたら大問題だもんな。


「解析局の施設内であれば、いろいろ対策を取ることも可能です。現在、人手も増やして警戒態勢にて対応しています。アイリちゃん達は軟禁状態みたいになってしまい申し訳ないですが、これは彼女たちを護る事にも繋がりますし」

「そうですね……」


護れるというのは、二つの意味があるだろう。

一つは単純に論理崩壊(ロジカルブレイク)によって生じる物理的なトラブルから。

もう一つはそれが起きてしまった時の世間の目から。


現状、一部を除けば頻発している論理崩壊(ロジカルブレイク)彷徨い人(ワンダラー)のせいで起きている等と考えている人間はいない。むしろ現状では彼らは被害者と見られており世間の目は同情的だ。

だが、彼らの元で論理崩壊(ロジカルブレイク)が起きてしまえば、間違いなく彼らを見る目はプラスからマイナスに転じてしまう。その点論理解析局の施設内であれば、情報封鎖も行える──とここまで考えてちょっと気になったので、俺は彼女に聞いた。


「この件、俺が聞いちゃっても大丈夫なんですか?」


その問いに彼女は柔和な笑みと共に頷く。


「勿論、許可は貰っていますよ。ユージンさんはアイリちゃんの関係者ですし、こうして会いに来ていただくこともあるのですから、お話はしておかないとだめでしょう。ただ他言無用でお願いしますね」

「それは勿論」


話さないといけない情報でもないし、アイリがチームの方にこないのであればチーム関係者に話す必要も特にないだろう。というかそっち方面に話が必要なら、普通に局の方から連絡がいくだろうし。


「でもそうなると、出来るだけ俺はこっちに顔出した方がいいですかねぇ」


すやすやと幸せそうに眠るアイリの姿を見下ろしながら、そう口にする。今日は特に甘えて来たしべったり離れなかったのは、寂しいのもあるだろうし表に出れないこともあるだろう。


その言葉に彼女は頷いて


「精霊使いのお仕事がありますので忙しいでしょうが、空き時間があれば少しだけでも顔を出していただけるとアイリちゃんも喜ぶと思います。──ただ、この状況は恐らく長くは続かないと、うちの局長は予測しています」

「それは……やっぱりこの件は黒幕が関わっていると?」

「はい。この状況が見られるのはあくまで直近の彷徨い人(ワンダラー)だけ。同時多発論理崩壊(ロジカルブレイク)以前の彷徨い人(ワンダラー)、それこそ去年のグラナーダの方々にもその傾向は見て取れません」


だろうな。その傾向が出てるなら、俺やサヤカにも声が掛かっている。となれば、今回の一連の出来事に関わっている黒幕の関与はほぼ確定。となればだ。


「近々なにかしらまた動きがある、ということですね」

「ええ。ですので、各チームにその旨の連絡は近々発報される予定です。また事が起きた場合はユージンさんに協力要請が行くと思います」

「ええ、解ってます」


アイリや解析局の人たちのように状況に縛られている人たちがいるから、いずれ起こるならとっとと来て欲しいという思いは強い。


ただ個人的に出来れば土日に来て欲しいなぁ、とかは思っちゃったりしちゃうけど。有給……








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― 新着の感想 ―
[一言] やはりユージンお前がママになるんだよ... 堕ちろぉ...
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