いつもの流れ
「っスね。もし前の時の事も公表してたら、面倒な奴ら完全にユージンさんを標的にしてたかもしれないっス」
「面倒な奴等?」
「異世界人を排斥しようとしている連中っスよ」
「……アイツらまだ活動してたんか」
純粋なアキツの人間を至高とし、異世界からの漂流者や俺達日本から来ている精霊使いを排斥しようとしている連中は、以前は割とおおっぴらに活動していた。だが、深淵の一件で精霊使いの中でも俺達日本人に対して攻撃的だった連中が(操られていたとはいえ)やらかして以降、奴等は表に出る事はほぼなくなっていた。
だが、ここ最近の異変続きで、また表に這い出してきたらしい。こんだけ異変が起きているのも異世界人のせいだと騒いでいるんだそうだ。
その場合、メインターゲットは最近の漂流者や物理崩壊を引き起こしそれ以降様々な異変に巻き込まれている俺になるのは明白だ。
それこそ物理崩壊は置いておくとしても、通常なら一生に一回も会わない人間の方が圧倒的に多い論理崩壊を二回も体験しているなんていったら確かにいい的だ。それがなくても的だけど。
ま、今の状況なら街に出るつもりもないし、俺はこっちのネットは基本見ないから何言われてても別段ダメージないけどな。以前みたいに直接絡まれない限りはな。
そんな事を口にしたら、そのネットも大丈夫そうだぞ、とサヤカが伝えて来た。
現状Bランクの精霊使いの中に日本人や異世界人達を嫌っている人物は見当たらず、更に現在精霊使いの中で上位の人気を誇る面子の中には多数日本人が存在する。現役トップの浦部さんやまもなくSランクに届きそうな秋葉ちゃんと金守さん。それに、恥ずかしい話だが俺だ。
そんな中、ただ感情的なだけでなんの論理もなく、また極少数派に成り下がっている連中の発言は殆ど無視されているそうだ。
「そもそも、それ以前に今は昨日の話題一色だしね?」
「……だろうなぁ。猫耳だしなぁ」
今の俺はこっちの世界では人気上位の精霊使いだ。そんな存在に突然猫耳が生えればそりゃ話題になるだろう。
「まぁ猫耳もそうだけど、あの時の反応も話題になってるわよ?」
「反応?」
「スカートが捲れている時の反応。もう完全に女の子の反応で"ユージンちゃん最早中身まで完全に女の子"ってみんなで大いに盛り上がってるわ」
「うおい!」
「必死にスカート抑えている姿が可愛かったって、思いっきり切り抜き画像貼りまくられるっスね」
「女の子座りしてしかも抑えるために体逸らしてたから思いっきり胸を突き出してたからな。下世話な話だが、そういった理由でも画像は貼られるだろう」
ああああああ。
いや、あの状況だったら普通にスカート抑えるだろ! 思いっきり表でしかも生放送撮影中だぞ? もしまかり間違って映っちゃったらカーマイン全域……いや、カーマインの局だけど確か全域放映している局も流していたはずだからアキツ全域に流れるんだぞ? そりゃ必死で隠すわい。あの日の俺はわりと可愛い下……いやなんでもない。
あーもう、猫耳画像は普通に流れると思ってたし、そっちは偽物とはいえファン感謝祭の奴が過去に出回った事があったのでもう今更かと思ったけど……そういう理由で流れるのは想定外なんだよー。
なんで俺は定期的に恥ずかしい呼び名や写真を提供しちゃってるんですかね! 俺悪くないと思うんですけど!
「はぁ……」
まぁ、何にしろ流れてしまったものは仕方ない。ここ2年、スキャンダルは別にないにも関わらず数多くのネタをメディアに流されて来た俺である。今更長々とわめくつもりはない。自分の目に入らなければいいんです、目に入らなければ。今週こっちにいる間はネットだけじゃなくて精霊使い関連のテレビ番組も見るのやめておこ。
……あくまでここはミズホの家なので、ミズホが見たがったらアレだけど……その場合は部屋から移動しておこう。ミズホこういう時は俺の前では見ないでくれる事が多いから大丈夫だとは思うけど。(なお録画はしているとの事)
とにかく、あれだ。最悪の事態である、パンツフルオープン映像が流れなかった事でよしとしよう。さすがにそんなもの流れたら俺はしばらく心の壁を作って引きこもる。
……そう思うって事自体、"中身まで女の子"ってのの一貫とは思われそうだなぁ。男の時だったら多分格好悪いか、汚いものをお見せしてすみませんとかくらいしか思わなかっただろうしなぁ。
こういうのは日常の意識の問題の影響を受けるだろうから仕方ない事なんだが。風呂とかも気にしなくなったことでまた一段進んでしまった気がする。
まあいっか。この件に関してはなるようになれだ。その辺まではもう割り切っている。女の子に何かならないとか今更言ってもどうにもならんしね。ここまで体も周囲の扱いも概ね女の子なので、無駄な抵抗なのは明白だ。自分の中で護るべき一線はあるけどそれ以外はもう別にって感じです。そう思ってた方が精神衛生上良い。ある意味惰性で俺は女性的に近づいて行っている私です。
そんな事よりも、だ。
「話戻すけどさ。排斥派の連中、ネット以外の場所でも見かけたりするの?」
さっき考えた通り今の姿の間はこっちの世界では引きこもるつもりではあるけれど、そういった連中が表でも見かけられるなら、姿が戻っても今回の一件……猫耳事件じゃなくて論理崩壊が多発している件な、それが落ち着くまではしばらくは最低限しか動かないようにした方がいいかな、そう思って口にした問いにはサヤカが首を振った。
「いや、そう言った話は特に聞いていないな。というか今の状況で公の場所でそんな言動したら冷たい目で見られるくらいじゃすまないだろう」
「あー、そりゃそうか」
こっちの世界での精霊使いのポジションを考えると、メジャーリーグの中でも人気の選手の事を街の真ん中で特に明確な根拠も何もない内容で馬鹿にするみたいな感じだもんな、それが犯罪行為にはならないしても、遠巻きにされるならまだまし、実際は結構な相手から批判の声が上がるだろうし。
となると一安心だな。俺はまだしも、アイリがそういった連中に絡まれるとか考えたくもないし。
……早く今の状況改善しないかね、いや論理解析局の皆さま頑張ってくれてるんだろうけど。セラス局長も出張ってるらしいし。今回の件が落ち着けばアイリ達ももっと自由に動けるようになるだろうし、そしたら一緒に泊まったりしようかな。俺の家じゃないけど、ここ。
解決策が待つしかないっていうのは、ちょっともどかしいね。
「あー、そういえばユージン」
「ん?」
「来週の撮影、OKだしたんだって?」
「ん……まぁ」
実は来週Aランクのフェアリスと同会場での試合になったんだけど、その時に"ケモミミ合わせ"で撮影を求められたんだよな……リゼッタさんと、後タイミングが悪い事に対戦相手のチームに狼耳の獣人さんがいるそうで……そりゃメディアさんとしては撮影したくなりますよね。
シーズン中は撮影概ね断ってるから、今回も断ろうかと思ったんだけど……リゼッタさんから狙ったように"撮影楽しみですね"っていうメールぶち込まれまして……断れませんでしたわ。




