過去事例などなど
スタジオに連れてこられた俺達は、それぞれが指定された席に腰を降ろす。
(やっぱり俺がこの位置かあ……)
少人数向けのそれほど広くはないセットの中、俺が指定されたのはインタビュアーの女性に一番近い席だった。
この位置はこれまではグェン──移籍したチームのエースが座っていたし、そうでなければミズホが座る位置だった。俺は基本末席……そもそも俺本人がそれほど目立ちたくなかったし、キャラクター的にも地味で目立つところがないタイプなのでその位置が定位置となっていたからやはり落ち着かない。気が付けば無意識にスカートをいじったりしていてミズホに落ち着きなよと苦笑いしながら突っ込まれたりした。(ただそう苦笑いしつつおれの方をガン見していたがそこまでだ。さすがに副業に響きそうないつもの醜態を公衆の面前で出す気はないということだろう)
そうこうしている内に準備は進み、いよいよ収録が開始された。
まず最初にインタビュアーの女性──ウルマさんといったか、その彼女によって俺達の簡単なプロフィールや成績が順に紹介され、それに続けてエルネストというチームに関しての説明がなされていく。
それが一通り終わり、いよいよこれまでモニターに向けて喋っていたウルマさんの視線がこちらへ向いた。
(来る……!)
まるで精霊機装の戦闘で間もなく敵と接敵するときかのように、俺は体に力が入るのを感じた。
「それではそろそろ視聴中の皆さまが気になっていることに触れさせていただきましょう……よろしいでしょうか、ユージン選手?」
「ひゃいっ!!」
あやべめっちゃ声が裏返った。思わず頬に熱が昇ってくるのを感じる。
そんな俺の反応にウルマさんは一瞬だけ虚をつかれた顔になるが、そこはさすがにプロというか即座にこれまで浮かべていた笑みに戻ると言葉を続ける。
「……この今の可愛らしい反応を見せてくれたユージン選手、Cランクリーグを追っているファンの方々ならご存知の通りこれまでとは違った姿に変わられています。過去に当番組にも2度程出演していただいていますね」
その彼女の言葉に合わせて俺達の位置から見えるモニターに過去の出演時の映像(数少ない俺がメインで捉えられた部分の編集)として地味な青年の姿が流される。うわー、これ小っ恥ずかしい……
「ご覧の通り前回出演の時には男性の姿だったユージン選手ですが、今はとても愛らしい少女の姿になられています。何故姿が変わったのかお話を伺わせていただけますでしょうか?」
「はい」
よし、今度は声が裏返らなかった。落ち着け、落ち着け、なんか各カメラが俺に集中してる気がするけど気にするな、気にすると落ち着かなくなるから。
心の深呼吸を一つ行ってから俺はウルマさんだけを見て話し始める。別にこっちは芸能人じゃないからカメラを意識して喋る必要はないはずだし、ウルマさんは美人ではあるが隣に座っているロリコンのおかげで美人は見慣れている上にこっちの著名人は俺は殆ど認識していないので人物に対しては特に緊張しないで済む。
さすがにこの質問は当然来るのは分かっていたので、この件に対する回答だけは準備済みだ。落ち着いていれば説明するのには特に問題はないので淡々と説明できる。
防衛出撃、”異界映し"の出現、全開駆動状態での最大出力の射撃による撃破、病院での目覚め、そして論理解析局からの物理崩壊の宣告。これらを順序立てて説明する。特に脚色も隠蔽もせずに淡々と話した。このあたりどうせ調べれば概ねわかっちゃう所だろうしな。途中ミズホやレオが的確なタイミングで補足やフォローを入れてくれたため(気絶中の事とかわからんしな)特につっかえる事なく一通り説明を終える事が出来た。
ちなみに気絶の所を話す時のミズホのテンションが不安だったんだが、特にはっちゃけることなく説明していた。流石メディア慣れした現役モデル、擬態は完璧らしい。
後リミットブレイクコードと直接セラス局長と会ったこと、そしてこれは当然だが日本側でどうしたかは話さなかった。後者は口止めされていることだし、前者は余計な突っ込みを受けそうな気がしたからだ。話の本筋とは関係ないし別に構わないだろう。
「ありがとうございます」
一通り俺達の説明を聞き終え、ウルマさんは小さく頭を俺達に下げてからカメラの方へ視線を移す。
「ユージンさんの身に起きた物理崩壊……あまり聞かない言葉ですが、番組の方で記録を調査したところ、過去に何度か同様の事例がある事を確認しました」
正面のモニターに今度は過去の事例が映し出され、ウルマさんがそれについて説明を始める。
すごいな、俺の事を知ったのがいつかはわからないが、もう調べたのか。或いは論理解析局の方から情報提供がったのかな。これに関しては俺も興味があったので集中して耳を傾ける。
説明によると、物理崩壊の事例はそれなりにあるらしい。それなりと言っても発生頻度は10年に一度か二度くらい、それも殆どが人ではなく無機物への発象だ。
「人に対して効果が発現したケースは近年だとほぼありませんが、"大浸攻"でやはり精霊使いの何名かに発現した記録が残っていました」
大浸攻か。
数十年前に発生した、広域への論理崩壊によりアキツとは更に別の異世界から大量の彷徨い人、というか怪物が流入し、アキツの住人と大規模の戦闘になった事件だ。実は精霊使いの技術もその時に化け物たちに対抗するために生み出された技術と精霊使いの講習を受けていた時に教えられた。
「その時の発生原因も今回のユージンさんと同様に、やはり論理崩壊などが発生する不安定な場所で強力な力を使った事による発現だったと記録には残っています」
そこまで説明を終えて、再び彼女は俺の方へ視線を戻す。
「ちなみに、過去の事例だと完全に人の形を失ってしまった事もあったそうです。こう言っていいものなのかと思いますが、ユージンさんが人の姿のまま美しい少女の姿になったのは不幸中の幸いと言えるのかもしれません」
「マジですか……」
「ええ。刺激が強い内容らしいので私も詳しくは聞いていませんがね」
そう俺に答えてから彼女はまたカメラに顔を向けて、満面の笑みで言った。
「なので精霊使いの皆さん、美少女になろうとして真似するのはやめましょうね? リスクが高すぎますので」
「さすがにそんな人いないんじゃないですかね……」
「わかりませんよ。世の中そういった事に命を懸ける人は居ますので」
なんで急に真顔になったの? なんか過去に何かあったの?
「まぁこの話はここくらいまでにしましょうか。エルネストの皆さんのお話も聞きたいですし」
俺は別にこの話のままで終わってもいいと思うんだが、一応コーナー的には注目のチーム紹介なのでそういう訳にもいかないんだろう。次は後期シーズンに向けてとかかな、その辺なら答えを準備してあるからいつでも来いだぞ。
「それではまず最初に。気になっていたんですがユージンさん本日の衣装とても愛らしくてお似合いですね。自分で選ばれたんでしょうか?」
全然違う質問が来た。というかこれ否定しないと不味いやつ!俺は体の前で慌てて両掌を激しく振って否定する。
「違います違います! 俺はこっち来るまでこの件聞いてなかったんで、ミズホが用意した奴を仕方なく……!」
これ否定しないと俺が”美少女の姿に即馴染んでそういった服を着まくってる変態”とか思われかねない!
俺の慌てた反論に、ウルマさんはくすりと笑い
「ユージンさん反応が可愛いですね。実はこれまでのが仮の姿で、今の姿が真の姿だったりしませんか?」
「あるわけないでしょ!?」
何言い出すのこの人!?
「ああ、一緒にいて気づきませんでしたがそうかもしれませんね。呪いがとけてお姫様は元の姿にって感じなのかも?」
「ミズホも何言ってんの!?」
この後なぜか息ぴったりの女性陣二人に俺は散々いじられる羽目になった。
終了間際には大分(精神的に)疲労困憊になっていて最後の方で聞かれた翌シーズンへの抱負とか頑張りますとかしか答えた記憶がない。これ本番の放送見たくねぇなぁ……




