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週末の精霊使い  作者: DP
4.カオスの楽園
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深夜の戦闘⑤

拘束された左足を斬り捨てたことで自由を得た白い機体は、バーニアを吹かせて一気に大きく移動する。


それを見て俺は留まる事はなく引き金を引いた。銃の向きは元の位置のまま、但し【八咫鏡】を操作して方向を変える。更には収束した一撃を打ち込むのを再び拡散弾に切り替えた。


拘束を解除したとはいえ、右肩から先と左足を失った白い機体はこれまでのような無茶な駆動ができなかったのだろう。速度を上げて回避しようとしたものの、逃れきれず数段の光条をその身に受ける。


だが、それでも白い機体は動きを止めない。更には、


「おい、アイツこっちから離れていってないか!?」


これまでは距離を取るにしても明らかに俺を狙い続けていたアイツが、こちらの攻撃を向ける事もなく機体を走らせていく。


『逃走するってことっスか!?』

「どこにだよ!」


アイツはこの世界に流れ着いた漂流者だ、帰るところなどないハズ。いや、自己再生能力のようなものがあれば可能性はあるか?


『というか、あっちの方向に向かわれると不味いぞ! 街の方角だ!』

「今更そっちに向かうのか!?」


これまで全くその気配を見せなかったのに突然そう動くのか!?


だがサヤカの言葉通り、アイツの動きはこちらの側面を抜けてカーマインの方へ向かう動きだ。


カーマインまではまだ大分距離があるから、多少抜かれたところですぐにカーマインの街が危機に陥ることはない。だがボロボロの機体でもアイツの速度は俺たちより速い、一度離されれば追いつけないだろう。


カーマインの街とここの間には他の精霊使いもいるからそこで止められるとは思うが、奴がまだ切り札──超長距離のミサイルなど保有していたら不味い。確実性を考えればここで落とすべき。


「サヤカ、追いつけるか!?」

『──厳しい! ユージンは狙えないか!?』

「狙ってるよ!」


攻撃は放っている。だがその攻撃を受けてもアイツは止まらない……明らかな満身創痍だといえる状態にも関わらずだ。かといってあの速度で動かれていると、さすがに散弾以外では厳しい。


「速度落とせれば全力で叩きこむんだがっ……」

『落とせばいいのね!?』


ミズホの声が通信機から響く。


『ガス欠になるけど、一瞬だけ【沈む世界】最大負荷の重圧掛けるわ! あの速度に不安定さで一瞬でもそんな力がかかれば転倒するハズ!』


ミズホの【沈む世界】を進化させて可能になったピンポイント荷重。掛けれる範囲が狭い上に霊力消費が多いから使いどころが難しいが、今の直線的になった移動なら狙えるはず。


「……わかった、その瞬間を狙う。速攻で頼む!」


『了解、カウント3で行くわよ! 3!』


声に合わせて俺は銃を向けなおす、こちらより離れていきつつある白い機体に向けて。


『2!』


引き金に手を掛ける。同時に可能な限り【八咫鏡】を白い機体へ向けて移動させる。


『1!』


1!


『0!』


ミズホの声が響いた瞬間、白い機体が大きく沈み込んだ。完全にバランスを崩し地面にヘッドスライディングする。

そこに向けて、間髪入れず俺が放った銃撃が襲い掛かる。


白い機体は、それを回避することはできなかった。俺の攻撃は奴の背面と頭部、更に残っていた左肩も消し飛ばした。


それが止めとなったか。その一撃を受けて、これまで動き続けていた白い機体が動きを止めた。


『倒せたっスかね?』

「わからんが……何にしろもう高速移動はできないだろう」


背面をえぐったので、これまでのバーニアの出力に任せた高速移動ももう使えない。こうなれば動いたとしても再度攻撃に捉えるのは容易だろう。


『接近して停止してるか確認してみるか?』

『なんか隠し玉があったら怖いわよ。ナナオさん、エネルギー反応はどうですか?』

『エネルギー反応は消えてないわね……いや、ちょっと待ってエネルギーが急速に肥大化してる!』

「はぁ!?」


まだ何か仕掛けてくるのか!?


そう思って銃を再び白い機体へとむけた俺だが──その引き金を引くことはできなかった。


次の瞬間、機体から流れ出た光の奔流に、跳ね飛ばされ、飲み込まれたからだ。


同時に体を襲う脱力感。モニターは白い光に包まれて何も見えないが、その下部に表示されているそれぞれの霊力ゲージがガリガリ削れていくのがわかる。


ヤバい、と思った。だが若干の浮遊感と後に機体に走った衝撃と共に、視界というかモニターの表示が元に戻る。


これは……?


今の衝撃で機体が横倒しになったみたいなので上半身を起こして周囲を見回してみる。


レオ、ミズホの機体はやはり俺と同じように転倒していたらしく、起き上がろうとしている。サヤカは……立ってるのか、すげぇな。全面に刀が展開しているから、それを盾みたいに使用したのだろうか。


そして、この場には俺たち以外の機体の姿は存在していなかった。そう、白い機体は消えていた。


『自爆したっスか?』

『っぽいわね、もうそっちにエネルギーの気配はないわ』


レオの疑問には、答えを返したのはナナオさんだった。


良かった、先ほどの爆発はそこまで広い範囲には影響しなかったんだな。大分離れた場所にいるハズのナナオさんたちは無事みたいだ。


というか今俺たちが立っている場所は周囲から低く──クレータのようになっていた。恐らくこれが直接的な爆発の被害範囲だろう。……こんな爆発を受けても外見上はダメージを受けたように見えない精霊機装は本当に素晴らしいな。


中の人は霊力削られて疲労困憊だろうけど。


「おーい、皆大丈夫か?」


安堵と疲労の両方を込めた大きなため息を吐きつつ、通信機に声を掛ける。


『俺は大丈夫っス』

『私も問題ない』

『アタシは限界~』


霊力豊富な二人からは元気な声が帰ってきたが、ミズホは完全にへろへろした感じの声が返って来た、

まぁゲージを見てもミズホの状態は機能停止ラインである3割切り寸前だからな。ミズホは直前に【沈む世界】の一点荷重で霊力を一気に消費した所にこれだったから仕方ない。


「ミズホ、トランスポーターの所までは戻れそうか?」

『なんとかなるかな? こっちまで来てもらうのは不味いよね?』

『やめた方がいいと思うっスよ。危険な数字はでてないけど、なんか変な白い粒子のようなのがまだ飛び交ってるし』

『奴のエネルギーの残滓かな?』


正直な所わからないが、そのわからない所に生身の人間を越させるのは不味いだろう。動けるならこっちが移動して合流すべきだ。


『とりあえず全開駆動(フルドライブ)は切ったわ、アタシ』

『ああ、もう良さそうっスね』

『じゃあ私も』

「あ、サヤカちょっと待ってくれ」

『ん? 何だ?』

「出してる刀で俺にへばり付いているの落とせる範囲で落としてくれないか?」


このままでも移動するには問題なさそうだが、後で削り落とすのが大変そうだ。素手で削ろうとしたけどなかなかに固かったからな。魔術で生み出したサヤカの刀なら素手でやるよりうまく削れるだろう。ある程度削ったら、後はスタッフの皆に頑張ってもらうしかないけど。特に操縦席のハッチの所、丸ごとじゃないけど一部にトリモチ掛かってるからな。最低限ここだけは落としておかないと機体から降りれないし。


『了解だ、こっちはまだ余裕あるから大丈夫だしな』

「さんきゅ、頼むー。関節部とハッチの所だけでいいからな」


例を言って、俺は機体を地面の上に投げ出すように倒させる。これの方が削りやすいだろう。


はぁ、思ったより時間がかかっちまった。これは徹夜コースになるかなぁ。帰りの車の中でちょっとだけ寝させてもらおう……


シートの上で横になった体で、そんな事を考える俺は知らなかった。


この後に大きな問題が待ち構えていることを。

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