深夜の戦闘④
正直な話、人と同じような動きを出来る、逆にいえば人を超えた動きはできない精霊機装では、弾が発射されたのを認識してから回避とか無理なんですよ。攻撃を回避するには動き回り、相手の銃口の向きなどから予測して躱すのだ。撃たれる前に回避行動に入ってなきゃ無理ゲーなのである。
いや、極一部の連中は刀ではじいたりするけどな! 俺はそんな人外な真似はできないので、先読み回避が基本である。
なので。
うん、被弾した。
ただ想定した爆音は響かない。ダメージもそれほど受けた気配もなかった。これは一体……と一瞬思ったのだが、すぐに何が起きたのか理解する事になった。
「ちょっ……なんだこれ!?」
機体が、思った通りに動かない。いや、足や左腕は動く、動かないのは右腕だ。ライフルを持っている方の腕。掴んでいる手のひらは動くんだが、肘と肩が動かない。
手のひらが動くということは、今の攻撃で右腕が故障したというわけではない。というか今は全開駆動中なので、故障したところで霊力パワーで問答無用に動く。それなのに動かないとは……機体のモニタを下に向けて確認すると、機体の胴部右側から肩、肘にかけて白い何かがへばり付いていた。
「これは……」
『さっき私たちが喰らった奴だ! 命中すると即座に硬化し、こちらの動きを封じてくる!』
さっきサヤカの機体の足にへばり付いていた奴か! 確かにサヤカの言葉の通り、多少の弾性はあるようだがすでに硬化しているようだ。
だが右半面だけで済んだのが助かった。
俺は相手の機体がちょうどサヤカに接近されておりこっちに砲撃がなさそうなのを確認すると、一度機体の腰を沈め、右手に持ったライフルを地面に落とし、左手で掴みなおした。
左手だと若干命中精度は落ちるのだが、全開駆動中の今であれば問題ない。【八咫鏡】でいくらでも調整が効くからだ。そもそも散弾銃状態だから、そこまで正確な狙いはつけてないしな。そういう意味では、これを胴体に受けたのが俺でよかったかもしれん。
恐らくピンポイントで腕ではなくライフルの方を狙ったんじゃないかと思うが、かろうじてセーフという感じだ。
結果として下半身に貰わなかったのもよかったな。喰らわないのが最善だけど、不幸中の幸いといえる結果でいいだろう。
というか、だ。これ乱発されるとそれこそ面倒なんてレベルじゃないんだけど、これまで殆ど使ってこないあたり、弾数制限があるんだろうか。
そこまでピンポイントでそうそう狙えないとは思うが、運悪くライフルの引き金辺りに貰うとさすがにまずいな。
「サヤカ!」
『なんだ、そっち行ってそれぶった切るか?』
あ、やっぱり刀とかで切れるのか。そりゃそうだよな、でなきゃさっきのサヤカ達も脱出できてないだろうし。だが、今はそれはいい。
「こっちはいい! それより、この攻撃の発射の兆候とかわかるか?」
『さっき確認した! 次は発射前にわかるから皆に伝える!』
「頼む」
受けたら一番まずい攻撃は間違いなくこれだ。だが発射前にわかればなんとかなる。最悪俺の場合躱しきれそうになくても右半身を犠牲にすればいいし。
『尤も、攻撃がビーム系に偏ってきてるわ。実弾系はもう殆ど残ってないかもしれないわ』
『っすね、最初はむしろ実弾系ばっかの感じだったっスけど』
「確かにな」
恐らくこちらが4機いるのを見てか、あるいは最初から俺を落とすためにしょっぱなから出し惜しみ無しに仕掛けてきたのだろう。そこまで弾倉が多い機体にもみえないからな。向こうからすればじり貧じゃないか? さっきのトリモチ攻撃が起死回生の一手を狙ったものだったのかもしれない。
まぁとはいえ、そういった攻撃がもうこないとは断言できないので、こっちは警戒したまま攻撃を続けるだけだ。
あちらがじり貧に陥っているとして、止まる気配はない。そもそも撤退するにしてもその先がないし、中に生命体が載っていないのなら命惜しさの投降もない。恐らく目的を達成するか機能停止するまで動き続けるだけだ。
だとしたら、削りきるしかない。
左手に持ち替えたライフルの銃撃を、再び【八咫鏡】で拡散させて叩き込む。その攻撃を被弾して動きが鈍った所に今度は一気にサヤカが接敵し、巨大な刀の一撃を叩き込む。致命傷は与えられないが、機体の一部に変形はみられるし、俺とサヤカの攻撃は着実にあいつを削って行っているハズだ……そろそろ煙でも吹いて欲しいんだが?
それに対してミズホは攻撃はあくまでけん制レベルで、機体を走らせていた。あれは下準備中だな。通信機でレオとこまめにやり取りしているのが聞こえる。
そのレオはやはり確実に俺を狙ってくる敵の攻撃を、その身を挺して護ってくれていた、攻撃はもう完全に捨てているようだ。おかげで俺は大部分攻撃に専念できるのでありがたい。
それにしても、ダメージ与えてもアイツの速度は全く落ちないな。相変わらず機動も無茶な動きをしている辺り、まだ内部的なダメージは少ないのだろうか。出来れば火力を上げた一撃をぶち込みたいんだが、やはりこの状態だと拡散させないと厳しい。
だとすれば、ミズホの一手待ちか。
早く片付けたいのに、本当に長引く相手だな……こないだのドラゴンと逆になってくれたらよかったのに!
ミズホさんまだですかー、と心の中で唱えつつ攻撃を加えていく。
と、それにこたえるように、ミズホが声を上げた。
『サヤカ、アイツの左側塞いで!』
『了解だ!』
「ミズホ、準備ができたのか?」
『ええ、仕掛けるわ。レオも準備はいいわね?』
『指定されたポイントには設置したっスよ』
ミズホの言葉に従い、サヤカが左側から押し込むような動きを見せる。その動きから、何かを狙っているのを向こうも察知したのだろう。サヤカの大刀から身を避けつつも、右側に寄らないようにスレスレの所を移動していく。
『レオッ、ユージン!』
ミズホが俺とレオの名前を吼えた。
それに半ば無意識に反応するように、俺はライフルを向ける。いつでも引き金が弾けるように。
そして、その動作とシンクロするように、ミズホの銃撃が奴の側面に叩き込まれた、──俺たちのモニターのみに表示されている、振動地雷の設置場所に。
進行方向と移動可能範囲を絞ったうえで、通りうるであろうルートのどこを通っても効果がでるように、彼女は地雷を設置していた。その一つが彼女の銃撃を受けて爆発する。
その爆発の勢いに、奴の機体が傾く。そのまま転倒するかと思われたが、なんとかそれは左足を大きく踏み込むことで堪えた。
が、そこもトラップ設置済みだ。
『かかったっス!』
奴の足元から、茶色の土が瞬く間に盛り上がると足を飲み込んだ。それにより、奴は進む勢いを殺され……だが、片足を固定されたためつんのめる事も出来ずにその場に留まった。
そして。
その状態を確認する前に引き金を引いた俺のライフルより放たれた光が、【八咫鏡】で増幅されて白い機体を貫いた。
直前に回避行動に入ったようだが、足を固定された状態で満足な回避ができるわけもない。胴体の中央を狙った攻撃はわずかに逸れたものの、奴の右半身を包み込み……その光が消え去った後には、奴の右肩とその先の腕が消失していた。
……だけど、まだ動いている!
追い打ちを放つために、俺は再びライフルへと力を籠め引き金を引こうとした時だった。
奴の右腕にブレードのようなものが出現した。
動きを拘束された状態で近接武器、と疑問に思ったその瞬間。
──奴はレオによって固められた自らの左足をそのブレードで躊躇いなく斬り捨てた。




