深夜の戦闘②
「ロボかな?」
『ロボっぽいわね』
いつもの前兆現象の後、俺たちの前に現れたのは光沢を放つ白色の機体だった。俺たちの乗る精霊機装と比較すると鋭角的な印象のある機体だ。──全体的な構成は俺たちと同様の人型のロボットに見える。ただその判断が疑問形になるのは、
……動かないんだよな。
出現してすぐこちらは即座に動けるようにして様子をみたのだが、まったく動かない。
突然見知らぬ場所に出現して、混乱している──ということもなく。膝をついて腕を下ろし力尽きたみたいな体勢のまま、まったくピクリとも動かないのだ。
『これ、中身いないんじゃないか?』
「ありうるな」
これがロボットだとして、操縦者がいなければそりゃ動かないだろう。
「ナナオさん、生体反応は?」
俺たちの精霊機装に装着された機器から取得されている情報を、離れた場所の指揮車でモニターしているナナオさんに声をかけると、反応はすぐに返ってきた。
『……ぱっと見、生命体らしき反応はないわね。もちろん絶対ではないけど……』
異世界の生命体だから熱源など普通の生物を判別するような情報だけでは見極められない。だがナナオさんの回答だと、少なくとも何かが動いている反応はないということだろう。
『ただ動力源らしきものは生きてるわ』
『となると、やっぱり機体だけがこっちにやって来た感じっスかね』
漂流で流れてくるのは生命体に限った話ではないからありえなくはないが……
「とりあえずどーするべきだ?」
『このまま待機して、論理解析局の指示待ちかしらね? 見知らぬ機械って触るの怖くない?』
「わかるわ」
変な所触ったら爆発したとか、そんなギャグみたいな目に会いたくはないしなー。
「しかし、そうなると時間かかりそうだな……ふぁ」
言葉と共に、緊張がぬけたのか欠伸が漏れてしまう。
これから論理解析局の到着を待つことになるとして、その後の調査にまで付き合うとなるとどこまでかかるのか。少なくとも夜が明けるだろ、これ。いや、今回は論理解析局所属の精霊使いも出張ってるはずだから引き継げるか。
でもなぁ……完徹か、或いは諦めて休んで明後日出社した時の言い訳を考えるか、どちらかの覚悟をしないとだめかなぁ……これ。
『どうするユージン? 先に帰る』
ミズホがそう言ってくれるが、そう言うわけにもいかないだろう。
「今動かないとはいえ、万が一の事もある。俺が残ってないとまずいだろう」
ちょうど、そう口にした瞬間だった。通信機からひどく焦った怒声が響いた。
『みんな、正面機体にエネルギー反応!』
ナナオさんの声に正面に位置している機体へ視線を向けると、沈黙していた鋼鉄(じゃないかもしれんが)の一部に光が灯るのが目に入った。
その瞬間、脱力していた体にも意識にも力がが入る。シートからずり落ちるような体勢になっていた状態から背筋を伸ばす。放していた操縦宝珠に手を置きなおし、タマモに意思を伝えて機体も体勢を正した。
機体に見えた反応は明かりがついただけ。まだ体勢は元の膝をついたまま──いや、違う! 機体の各部、胴や肩の部分の装甲が開いて、その向こう側の……あ、これ見たことある絵面!
気づいた瞬間、俺は声を上げていた。
「一斉射撃だ!」
その声と同時だった。機体から光とミサイルらしきものが放たれる。
……駄目だ、躱すの無理!
虚を突かれた事、距離が比較的近かったこと、そして何より動きを止めていたことが仇になった。あるいは俺が近接型なら問題なかったかもしれないが、残念俺はがっつり遠距離型だ!
「ぐっ!」
機体に二度ほど被弾の衝撃波が走る。……だが、思ったよりダメージが少ない。
ダメージを減衰させる"世界の壁"は別にこちらからの攻撃だけではなく、向こうからの攻撃にも適用される。そして直接の肉弾戦や魔法的な特殊攻撃より、道具による遠隔攻撃の方がより減衰しやすい。見た目通りの科学よりの兵器か。
命中しない直近弾もあったのか、モニターは土埃と煙に包まれている……もしかして視界妨害用の攻撃もあった?。幸い受けた衝撃は体勢を崩すまでにはいかなかったので、俺は機体を動かす。止まっていたら追撃が来る可能性が高い。実際なんらかの着弾音が響いている。
その音が響く反対側……誘いの可能性もあるが、あの一斉射撃状態でそれもないだろう。何より見えていない以上単なる二択だ。悩んで止まるのが一番の悪手。また、この巻き上げられた土埃と爆発により生じた煙の範囲外に出ないと何もできない。ほかの連中の情報を待つ余裕もない。
……結果として、俺の判断は外れとなった。
煙の向こう側から、白い機体が現れたから。
「なっ……」
速い、という声を口に出すより先に、先ほどより大きい衝撃が俺の機体を襲う。同時、機体が傾くのを感じ、俺は揺れる操縦室の中で慌てて体勢を維持するようにイメージしたが──まぁ、無理だよな。すでに傾いている上に巨大な質量が勢いをつけてぶつかってきた状態だ。耐えきれるわけがなかった。
体が横直しになると同時に、背中側から大きな衝撃。ベルトでシートに固定されてなかったら間違いなく俺の体がシートから跳ね上げられていただろう。
『ユージン!』
通信機から声が響く。重なっていたので、二人かあるいは全員からか。だが俺には声に反応している余裕がなかった。
視界……というかモニターに映っているのは白をベースとした機体の姿。俺の機体は勢いのまま、謎の機体に押し倒された状態になっていた。
まずい、ご存じの通り俺は近接戦闘はクソ雑魚だ。だから通常は近接武器なんて装備してないし、最接近されたので使える武器も威力の低い内蔵機銃だけだ。こういった状態の機体の動かし方だって熟知できていない──この状態、以前の試合にもあったんだからせめて抜け出し方くらい訓練しとくべきだったな! 今更遅いけど!
機体を動かそうと思うが、動かない。こちらの右の肘と胸の辺りを抑えている相手の腕をはねのけようとしても、パワー負けしているのかびくともしない。だがこの状態ならそっちだってこっちを攻撃できないんじゃないのか?
そう思った時だった。轟音と衝撃。轟音は真上、操縦席のすぐ外から聞こえてきた。それに反応した俺の意識に応じて、タマモがモニターを機体の胸元に向ける。
その視線の先には、胴体のどこかから左右に砲撃を行いつつ、腕の側部にある出っ張りから勢いよく何かを撃ち出そうとしている相手の姿が見えた。そして再び響く轟音。
パイルバンカー!
「ひっ……」
見なきゃよかったと一瞬思ってしまった。いや見なきゃ状況が分かんなかったんだけど!
こいつ的確に、操縦席──いや、俺のいる位置を狙ってないか!?
それに気づいた瞬間に、俺は背筋に寒いものが走るのを感じて小さな悲鳴を上げてしまった。
精霊機装の操縦席は、一番安全な所だ。精霊の融合を解除するか俺の霊力が切れる
までは決して撃ち抜かれることはない、ハズ。
だが、これまでに受けたことのなかった"中の俺を狙う"という意思を感じたことで、恐怖が湧き出てしまった。とはいえ、俺自身に殺意を向けられたことはないとはいえ、砲弾飛び交う戦場に普段から身を置いているんだ、取り乱すまではいかない。
くそっ、右のライフルが動けば一気に逆転できるのに……いや、もしかしてだから右腕を抑えられているのか!? 嘘だろ、界滅武装の存在に気づいている?
気が付いたら総合3000ポイント超えていたようです、ありがとうございます!
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