ユージンちゃんは見られてる
出勤早々想定外な事があったが、今日の予定自体が特に変わる事はない。
先週末から何かと忙しく……はなかったが(むしろ殆どホテルや局でのんびりしてた気がする)、いろいろとイレギュラーな事があった。それに伴い止まっていたスケジュールが、一週間遅れだが正常なものに戻る。
そう、シーズン最終戦だ。
もう2位に届く目はないし、降格とはだいぶ遠い順位にいるので、思いっきり消化試合ではあるんだけど。それでも公式戦は公式戦だ、手を抜くつもりはない。精霊機装はスポーツでありショーの側面もある。観戦してくれる視聴者の方々の前で気の抜けた戦いはできない。
それにその翌週の事に比べたら、精霊機装の試合は全然楽しい事ですね。
はい、来週は超過密スケジュールです。本来なら今週に予定されていた撮影やらなにやらが軒並みずれ込んだからな。──今回の成績だとアワードへの参加はないだろうから、まだマシだったかもしれんが。もしアワードへの参加があったら来週俺は死んでいたかもしれない。精神的に。
うん、忙しくても体的には大丈夫なんよ。わりと今のこの小さい体タフだったりするし。ただな、撮影やら取材の連続は……恥ずか死してしまう。女の格好はもう今更、カメラもいい加減慣れてきてるとは思うが、大勢に見守られつつポーズとったりするのはやはりクル。しかもどちらかというと可愛い系のポーズばっかりだし。きっとこれはずっと慣れる事はない。
そんな次週の事を考えると死んだ目になりそうなので、頭の隅に追いやる。それに今は別に気になる事もあるしな、うん……
ロボット物アニメとか見てきた身としては、こういう操縦席の中はいろいろな計器とかボタンとかあってごちゃごちゃしていそうなイメージがあるが、そのイメージに反し精霊機装の操縦席の中は割とあっさりしている。
なにせ、操縦に関するものはただ一つ。操縦宝珠だけだ。精霊機装はその機体全体自体が精霊を通じて操作をすること前提で作られている為、それ以外の操縦に関する機器はまったく存在しないので。一応操縦席のシートの肘掛部分で操縦宝珠の反対側にはいくつかのボタンやらボリュームなりがあるコンパネがあるが、これはほぼ通信に関するものばかりだ。少なくとも機体操作に関するものはない。
ちなみに通信系が精霊を通じての操作ではないのは、思考操作にするといろいろ誤爆が多いからだそうで。
また各種データなどの表示も正面及び側面の大型モニターに表示されるから、各種計器もない。中に存在するのは持ち込まない限りはモニターとシート、それに同乗者用のサブシートと持ち込み私物を格納するボックスくらいである。割とシンプルな作りなのだ。
精霊使いによってはこの中をいろいろカスタマイズしたりしてるのもいるらしいけど、俺は特にそういった事もないのでこの中の光景は昔っから殆ど変わっていない。今日もその景色は殆ど変わっていなかった。
──ただ一つの異物を除いて。
「ねぇ、ナナオさぁん……」
『どうしたの可愛らしい声だして』
「そんな声は出してないですけど……これ、やっぱレンズ塞いでいいですか?」
『ダメよ、アイリちゃんがかぶりつくようにして見てるんだから』
「うう……」
通信機から返ってくる情け容赦ない答えに肩を落としつつ、俺は異物に目を向ける。
そこにあるのはレンズだった。レンズというか、カメラだ。乗り込んだらすでに設置されていた。
なにやらナナオさん含むチームスタッフが職員さんの話を聞いて、速攻で設置したらしい。対応早すぎない? 聞いた話だとこの件、チームに連絡があったのも昨日だって聞いたぞ。そこからカメラ購入してまで設置したのかよ。
目的は勿論アイリの為だ。
明日が試合なので、当然その前の機体の稼働テストは必要となる。精霊機装は精霊は精霊使いの意志で動くとはいえ、全開駆動時を除けばあくまで精霊経由で信号を受けて各部の機械が稼働するという形なので、そこに不備があれば……それこそ関節回り辺りに問題があれば精霊駆動では満足に動けないという事になりかねない。そこまでいかなくても戦闘中に引っかかったりしたら大問題だ。なので事前のテストは重要である。
んで。
前述の通り、精霊機装は完全に精霊使いが動かす事前提で作られているので、精霊使いが乗り込まないと稼働テストができない。いや、正確にはテスト用のモーションデータが設定されたテスト用精霊を借りて動かしたり、外部から力を加えて動かす事は可能だけど。その辺ではオーソドックスな動かし方しかできない。
精霊機装は考えた通りに動くという利点を生かしていろいろ複雑に動くので、それを再現してテストするには結局精霊使いが乗り込まざるを得ないのだ。
だから、こうやって乗り込んでいるわけだけど……基本的には操縦席は密閉状態なので(そうしないと操縦者の身を護る繭が展開できない)表からその中を覗き込むことができない。
それだとアイリが俺の姿を見れないだろうということで、うちのチームスタッフが気を効かせたというわけだ。
うん、まぁ理由はわかる。わかるよ。アイリは以前と違い俺が側にいなくても姿が見えていれば大人しいらしいし。だとすればこうしておけば、俺としても彼女の事は気にせず稼働テストに専念できるというメリットはある。
ただなぁ……カメラが、その、めっちゃ気になる。落ち着かない。
「ナナオさん……」
『今度は何?』
「これ、試合の時は外してくれるんですよね?」
『さすがにね。ものすごく気になってるみたいだし、流石に本番で集中が途切れさせるような真似はできないわ』
その答えを聞いて、俺は安堵のため息を吐く。
まぁ、それなら、うん。稼働テストならそこまで集中しまくる事もないし(勿論気を抜きすぎることはないが)、無意識に変な行動をとる事もないだろう。
『というかっスね』
「ん?」
『ユージンさんここ2年で散々撮影されてると思うっスけど、それでもそんなに気になるもんっスかね?』
「それとこれとは全然別物でしょぉー!?」
やべぇ、変な言葉遣いになった。いや外見的には問題ないのか?
「撮られるための場所でカメラ向けられるのと、本来撮られる事のない場所で撮られてるのは全然違うだろ!」
『そういうもんっスかねぇ』
そういうもんなの。
『そういうものかしら? 別に大して変わらなくない?』
レンズを向けられ慣れてるであろうお前と一緒にしないでくれ、ミズホよ。
『だけど、ミズホが撮影とかしてても気にしてたりしないではないか?』
「身内がスマホで撮ってるのと一緒にすんな!?」
そういやお前もカメラ物怖じしなかったなサヤカ!
というかこれは口に出して言わないけど、撮影している人間が見えるところにいるのはまだいいんだ。まだまだ恥ずかしいのが消えたわけじゃないけど、ある程度は慣れてきているのは事実。
だが、撮影されている姿が自分の見えないところで見られているっていうのが……なんかムズムズするというか……アレなんだよ。
テレビとかそうじゃないかって? テレビで不特定多数に見られるのと、リアルタイムで特定少数に見られているのは違うんだよ! 上手く説明できないけど! あと、本来は人に姿を見られることがないある種プライベートな空間で撮られてるってのがまた気になる! 上手く説明できないけど!
すみません、更新遅れました! 年末年始全然作業進みませんでした!
あとなんか年始に一回更新してないのにPV数が跳ねてたけど何があった……?




