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週末の精霊使い  作者: DP
4.カオスの楽園
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保護対象


()()に気づいたのは、引き金を引き終わった後だった。


……後から考えたら、ここで反応できたのは奇跡だったと思う。


銃口から放たれる銃弾は、当然といえば当然の事だが一度引き金を引いてしまえばその軌道を変化させることはできない。それが霊力弾だとしてもだ。霊力弾は射出後に相手を追尾したり急速な変化したりすることもあるが、それはあくまで射出前にそういう変化を登録しているだけであり、射出後に操作しているわけではない。


だが、魔術に関しては話が別だ。あれに関しては射出後でも操作が可能になる場合がある。俺の【八咫鏡】もその特性がある。


だから俺は気づいた瞬間、一度銃撃を取り込んだ【八咫鏡】から再射出される霊力弾の射出方向を変化させた。


その結果本来なら真下へ向けて降り注ぐはずだった銃弾の雨は、わずかにだが右側に寄る形で降り注いだ。


『ユージン!?』


通信機から響くミズホの声。恐らく俺が当初予定した銃撃の範囲を変えた事に気づいたのだろう。


──ミズホの位置からは恐らく見えないだろうから。


俺はミズホに答えを返す事はせず、通信機に叫んだ。


「レオッ、左っ、保護!」

『っ、了解っス! 全開駆動(フルドライブ)、【祝福の運び手(ブレスブリンガー)】!』


単語だけで構成された俺の叫びを聞いたレオは、その意図を察して即座に魔術を発動した。その身を貫かれ叫びをあげるドラゴン擬きの横を、赤茶色の土が滑るように地面の上を走る。


そしてそれは対象の元にたどり着くと、かまくらのように周囲を覆うようにして展開した。


うちのチームの面子は本当に察しがよくて助かる。あれだけでこっちが望んだ行動をしてくれるんだからな。思わずお前等素敵! 愛しているとか叫びそうになるが、そんな事を冗談でもすると大変な事になるのでやらんけど。


「レオ、あれの耐久性はどれくらいだ?」

『かなり霊力込めたんで、集中砲火されない限りは大丈夫っス!』

「そうか」


返事を聞いて、俺は一つ息を吐く。とりあえずこれでひとまずは安心か。


『ちょっと、どうしたのっ!?』


状況を把握できていないミズホの声が響く。


「保護対象がいたんだ。詳しい説明は後で!」

『……っ、了解!』


長い付き合いの相棒は更に追及してくるような事はしてこなかった。今は戦闘中だ、のんびり説明している時間はない。幸い体を打ち貫かれたドラゴン擬きはその動きを鈍らせていたが。


ん? おかしいな。このサイズの"異界映し"の鏡獣が動きを鈍らせている? 倒しきったわけでもないのに?


『なぁ』


そう疑問を得たとき、通信機からサヤカの声が流れる。


『鏡獣って血を流すんだっけ?』


へ?


『だって流してるぞ』


言われて、ドラゴン擬きを改めて注視する。


自分の位置はドラゴン擬きの正面だ。攻撃は胴部と翼を中心に降り注ぐようにしたから正面から見た位置からはあまり傷がみえなかったが……注意してみれば、ドラゴン擬きの体のあちこちから体液らしき赤い液体がしたたり落ちているのが見えた。


「出血……?」

『にしか見えないな』


鏡獣は生物を模した姿を取ることが多いが、それはあくまで意識や異世界の生物の姿を写し取っただけであって、決して生物ではなくただの力の集合体だ。勿論血など流れていない。


スプラッタ映画を見た奴の意識を読み取った結果、流血状態がデフォルトだったりする例外はあるが……見た感じ目の前のドラゴン擬きはそういったものには見えない。


それに"意識映し"であれば、こちらの攻撃が通らない強度というのはありえなかった。


ということは、つまり──


「えっ、もしかしてこいつ彷徨い人(ワンダラー)なわけ!?」


俺やサヤカと同類の可能性が高い。その事に気づき俺は青くなった。


「えっ、これ不味い? 不味いんじゃね!?」


彷徨い人(ワンダラー)の場合、保護に動きゃなきゃいけないんじゃ……?


彷徨い人(ワンダラー)に対して保護に動かなきゃいけないのは相手が意志の疎通を取れそうな相手であり、尚且つこちらに害意を示していない時よ。だから問題ないわ』

『っスね。意思の疎通は出来そうにないし、アイツしょっぱなからこっちを殺すつもりの攻撃放って来たっすスよ』


ミズホとレオの言葉にホッとするが、そうすると今度は生物を撃ったということが胸にのしかかって来た。


これまで戦ってきたのは精霊機装か生命体ではない鏡獣、召喚獣だけだ。唯一深淵だけは生命体だったとはいえるが、あれは俺の意識の中にある生命体とはかけ離れていたためそういう意識は少なかった。


だが、目の前の生物は生命体だ。勿論有人としてこれまで虫を殺したこともないというわけではない。ただ、アイツが本当に意志の疎通をできない存在だったのかという事を考えてしまっていた。


『ユージン、気にし過ぎよ』


口に出したわけでもなく、俺の姿が見えているわけでもないのに俺の様子を察したらしいミズホが声を掛けてくる。


『開幕のあの熱線の時点で完全に討伐対象扱いだわ。あれが街に向けて放たれたりしたらどうなると思う?』

『っス。こういったモンスター系が流れてきて討伐するのはたまにある事っスしね。むしろ割合としては討伐のケースの方が多いっス』

「……ああ」


それ自体は精霊使いになる時に学んだ事にもあった。確かにアキツは彷徨い人(ワンダラー)の保護をしているが、それはあくまでこの世界に害を成さない相手の場合だけだ。先程のドラゴン擬きのように開幕早々大きな被害を発生させそうな相手は撃退している。


自分達の世界より彷徨い人(ワンダラー)を優先する理由がないからな。


俺は胸に手を当て、一つ深呼吸をする。


「──うん、大丈夫だ。ありがと、二人とも」


別に俺は聖人君子じゃねーんだ、考えすぎるのはやめよう。アイツが普通の生物なら即死するレベルの攻撃を放って来たのは変えようのない事実だしな。


改めてドラゴン擬きに目を向けると、奴は地面に横たわり息も絶え絶えになっていた。


『これ急所かどこかに直撃したんじゃないか?』

「そんな気がする……」


俺自身はあの一撃で終わるとは思っていなかった。鏡獣には急所なんてないし、あの図体のでかさだと一撃で削り切るのは難しいと思っていたので。だが生物だったら急所を貫ければそれで倒せる。恐らく先程の攻撃が心臓あたりに該当する器官を貫いたんじゃなかろうか。


『追撃いるかしら?』

「いや……いらないんじゃないかな」


答えつつ、俺は全開駆動(フルドライブ)を解除していた。気が早いかもしれないが、この状態だったらもし何かあっても最後の一撃くらいだろう。であれば消耗を避けたい。


追撃しないのもそれが理由だ。攻撃すればそれだけ消耗するからな。


ドラゴン擬きはもうほぼ動いていない。恐らく大丈夫だろう。


だとしたら、だ。


『あ、ちょっと、どうしたの?』


機体をドラゴン擬き──から見て左方向へ向けて進め出した俺に、ミズホが声を掛けてくる。

今度はその質問に答えた。


「さっき言っただろ、保護対象がいたんだ。多分……」

『多分?』

「判断に困るっつーか……まぁ見ればわかると思うよ」

『……はぁ?』


いや俺もな、さっきは判断する時間がないから咄嗟に保護対象にしたけどな。

下手すれば見間違いかもしれんしなぁ……


とりあえず、ドラゴン擬きの状態に注意を払いつつ、再確認だ。




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