フラグ乱立
「日本には、三度目の正直って言葉もあってだな……」
『それどっから数えて三回目なんスかね? ユージンさんの出撃自体はこれが三回目ってわけでもないですし』
『ユージンが美少女になって以降と考えるとまだ二回目よね』
「……」
いや確かにそうだけどさ。でもそういう意味では二度あることはの方も……いや、あっちは変な事が二回起きたからどうせもう一回起きるって意味で通るのか?
──いや、そんな事はどうでもいい!
「とにかく、二回目だろうが三回目だろうが今回は特別な事は何も起きない。出現した"意識映し"の鏡獣を殲滅して今日は無事終わり。時間も時間だし、後は帰ってのんびりしようぜ」
『これ自己暗示の類っスかね?』
「どちらかというと言霊を意識しているのではないか? 口に出して発言することでそうなる事を祈っているのだろう」
『逆のフラグが立ってしまった気がするんスけどね、それ』
うるさいうるさいうるさい。
『こういう事言うときにユージンがしてる死んだ目の顔も愛らしくてアタシ好きよ? ──なんかゾクゾクするのよね』
お前の性癖の話は別に聞いてない。
なんだか頭痛を感じた気がして、こめかみをぐりぐりしつつ、嘆息と共に俺は口を開く。
「アホな事言ってるけどさ、お前等何事も無く終わりたくない訳? 何か突拍子もないイベント起きて欲しい訳?」
『んな訳ないじゃないっスか』
『そうよ、早く終わらせて帰ってユージンと一緒にお風呂に入りたいし。洗いっこする?』
「しないが?」
こないだの遭遇事故でそこまで気にする事じゃないってのは理解したけど、それはそれとして家風呂じゃ一緒に入らないっていっただろ。
「まったく……だったら、なんだってさっきみたいな事言ってくるんだよお前等?」
『そんなの……必死で否定しようとするユージンが可愛らしいからに決まってるじゃない』
『ミズホに同じ』
『俺は普通に楽しいからっスかね?』
こ い つ ら。
あーくそ、でもわかってしまう。学生の時もお前レスポンス面白いからとか言われて結構こういうやり取りした記憶があるんだよなぁ!
無反応にはなれないんだよな、どうしても。
はぁ、ともう一度ため息。
「とにかく。お前らも何もない事を祈っててくれ。俺も祈るから」
『あー、まぁ構わないっスけどね。祈るくらいならただッスし』
『……でもさ、真面目な話、今回はその祈りが届かない可能性高くない? だって現時点ですでにイレギュラーな事が起きてるんだもの』
「……そりゃそうだけどさ」
別に今俺達の前ですでに異常な事が起きているわけではない。だが、実は今回の出動はすでに異常な点が一つあった。
俺達の出動自体は別に異常じゃない。ただ、今回の出動は俺達だけじゃない。
正しく言えば、今回の出動は、複数地点に向けて行われていた。
それはカーマイン近郊だけではない。フジワラやロスティア等、他の都市の近郊でも論理崩壊の発生の可能性があり、近隣のチームに出動要請が降っていた。
それともう一つ、通常の防衛出動は明確に個別で出動要請が出る事はない。ただ今回、近郊のBランク以上のチームに"可能な限り"ではあるが出撃して欲しいという要請が出ていた。
──どちらも通常ではないイレギュラーな事だ。
前者に関しては、複数個所に出撃要請が出ることは過去になかったわけではない。二か所、多い時で三カ所という事例は何度か存在する。だが今回はその記録が更新された。
今回の出撃は──全都市合計で七カ所。過去に最高記録の倍を超える値だ。出現予測範囲という意味でいえばスタンピードがあるが、今回は完全にばらけている。異例中の異例だった。
『もうフラグ達成してる気もするっスね』
「……別に複数個所発生予測が出てるだけだし、これは俺のフラグにはなんも関係ないし! そもそも七カ所も同時に鏡獣が出るはずないから、最終的にせいぜい二三カ所くらいでおさまるだろ!」
『フラグ乱立させるのやめないか?』
させてない!
そもそも現実世界にフラグなんてものは存在しないけども、そんなものが存在したとしてもこの多重発生予測は絶対に無関係だ。この後発生した事象が更にイレギュラーだったら「またあいつ(ら)か……」って言われかねないけど。
ここ最近のあれこれでこの世界が不安定になって論理崩壊が発生しやすくなっているのはすでに周知の事実。
更にはこれは正確な情報からと大々的には公開されていないことだが、なんらかの悪意を持った存在がこの世界に干渉している可能性があるという通達が論理解析局から来ている。Bランク以上に関しては論理崩壊発生予測時、今回のように要請があった場合は近隣であれば可能な限り出撃して欲しいとのことだった。
まぁ大抵のチームは元から手が空いてれば出撃してると思うけど。Bランク以上指定ということはこの件に関してそれなりに危険視しているということだろう。ただ毎回じゃないらしいのでどういう基準で判断しているんだろうな?
だが、姿どころか殆ど情報がない相手だ。実像が全く見えない相手、本当にそんな輩がいるのかと疑念を持ちそうなものだが、今回は大抵のチームがその情報を受け入れ粛々と従っている。
理由は……俺も関わっている。実際の被害者がすでに一人存在しているのだ。更にはグラナーダの一連の事件もそうだ。グラナーダの住人達の情報ではあれほど強力な怪物はもう発生しないハズだったのに、実際はあれだけの数が発生した。その上で論理解析局からの異例の通知があったわけで、殆どの精霊使いはその事を頭に入れているはずだ。
結局の所実像が見えないから、頭に入れているだけだし、要請があれば動くってだけだけど。
割とじわじわ疲れるケースだよな、こういうの。ま、俺達としては論理解析局から要請が来たら粛々と動くだけだ。
……こっちにいたらね。それに関しては申し訳ない。
『そろそろ時間かしら?』
『予測時刻の7分前っすね』
「今の所状況に変化なし、と。このまま何も起きないといいんだが」
『どうしてユージンはそんなフラグを立てるのが好きなんだ?』
好きじゃねぇよ。人の発言一つ一つをフラグ扱いするのはやめて欲しい。
『はっ、ユージンがふくれっつらをしている気配! ねぇユージン、やっぱり操縦席カメラつけよ?』
「いやだよ! 落ち着かないだろ!? そしてメリットが何もない!」
『フェアリスの子達はたまにそういうの付けてるわよ?』
「あれはそういう企画だからじゃねーか!」
カーレースとかでたまに車内にカメラを置く感じな。
彼女達はカメラに慣れているだろうから平気だろうけど、俺は間違いなく変に気にしてミスを犯す自信がある。絶対にNOだ。
『俺はどっちかっていうとミズホさんの家にカメラ仕掛けて欲しいっすね』
思いっきり犯罪じみた発言なんだが? 意図は分かっているから今更キモイとかは思わないけども。あと別にミズホの家でそんなベタベタしているわけじゃないからな?
……してない。うん、してないハズ。仲のいい女友達くらいのやり取りだよな? 仲のいい女友達がどういうやり取りしてるか知らないけども。
『さすがに自宅にカメラは私達も落ち着かないから御免こうむりたいな』
「お前の自宅というわけでもないからな?」
『あら、自宅と考えていいわよ。勿論ユージンも。──それより』
ミズホの声のトーンが急に変わった。いつもの感じから真剣なものに。その変化に他のメンバーもその意味を読み取る。
『前方、歪み確認。来るわよ』
ひっそりと50万PV達成していたようです。
皆さま本当にありがとうございます。




