表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末の精霊使い  作者: DP
4.カオスの楽園
232/346

未来について①


『今夜10時くらいにお電話していいですか?』

『大丈夫だけど、もっと早くても平気だよ?』

『私案外寝るの遅いので大丈夫です!』


メールでのそんなやりとりがあった日の夜。

時計の針がそろそろ約束の時間を指しそうなその時間に、俺はベッドに腰を落として秋葉ちゃんからの連絡を待っていた。


電話がどれくらいになるかわからないので、もう寝る支度は済ませてある。2時間3時間とかはないだろうけど、念のためな。


すでに風呂も済ませていて、ついさっき髪も乾かし終わった。格好もすでに寝間着だ。流石に時期が時期なので、ぶかぶかシャツにパンイチという恰好ではなく、もこもこの……なんというか自分で言うのもあれだが可愛らしいと言えるパジャマ姿だ。


勿論、自分で購入したものではない。サヤカに押し付け──プレゼントされたものだ。


まぁ家の中で着るものだから見られるにしてもせいぜい贈り主のサヤカだけだし、そもそも今更そういった服に大した抵抗もないので普通に使ってるけど。


あ、ちなみに抵抗ないとは言ったけど、以前街で見かけた動物の頭のフード付きのパジャマは全力で拒否った。性別云々の前に、年齢的に流石にアレはない。外見的に似合いそうな気がしてしまうが、ないったらない。


ミズホもサヤカも俺が部屋着にはラフな恰好か、ゆったりとした服を好むことを知っているのでサイズはぶかぶかとはいかないまでも大き目。その袖で半分くらい隠されている手のひらでスマホをなんとはなしに弄っていると、スマホが震えてディスプレイに名前が表示された。秋葉ちゃんだ。


ディスプレイに表示されている時刻は22:00きっかり。律儀な子だなぁ、と思いつつ通話のボタンを押す。


「もしもし」

『夜分遅く申し訳ありません。村雨さんでしょうか?』

「そうだよー。こんばんわ、秋葉ちゃん」

『こんばんわです!』


電話越しにいつもの元気な声が響く。


『今大丈夫でしょうか?』


約束時間きっかりなのにそれでもそう確認してくる秋葉ちゃんに、俺は笑いながら言葉を返す。


「勿論。寝る準備もきっちり済ませてるから、どれだけ長くなっても大丈夫だよ」


冗談交じりにそう返す。


『もしかして、もう寝間着なんですか?』

「うん」

『そうですか。私も同じなので一緒ですね。有人ちゃんのパジャマ姿かぁ』


言っていないのにパジャマと特定された。ま、冬場以外は俺がパンイチなんていうだらしない格好ですごしているのなんて秋葉ちゃんは当然しらないので、俺の外見から単純に想像したのだろう。今としてはあっているしな。


そんな彼女の言葉に、俺は曖昧な笑いを返す。

秋葉ちゃんの俺の呼び名が変わったので、このままだと写真辺り求められそうな気がしたので俺は話の流れを変えるべく、話をこちらから切り出した。


「それで、相談事って何かな?」

『あ、はい!』


たまに俺を妹的に見て暴走することがある秋葉ちゃんだが、根は真面目な子なのでこうやって話を本題に戻してあげれば脱線を続けることはない。


『ある程度長くなりそうなので、寝る準備済みなのはありがたいかもしれないです』

「わざわざ後で時間を取ってって話だったからね」


試合前の時間だったとはいえ、数分で終わる話であればあの場でする余裕はあった。なのに後日にしたということは時間がかかる話なのだということは容易に想像できる。


それにしても秋葉ちゃんの声の雰囲気的に、あまり重たい話ではなさそうだな。正直一安心だ、あんまり重い話に適切な助言を出来る自信がない。


そもそも年齢が一回り近く下の女子高生の悩みに、中身は男の俺が答えられるのか怪しいところではあるが……秋葉ちゃんの言葉を待つと、特にためらうことなく彼女の声がスマホから続けて流れ出た。


『あのですね。実は、ユージンさんがどんな暮らしをしているかを聞かせて欲しいんです』

「……へ?」


思わず口から間抜けな声が漏れ出た。


え、俺の生活? それを聞いてどうするんだ?

確かにミズホやサヤカは割とそういう事を聞きたがる節はあるし、最近気づいたがリゼッタさんも似たような……というかむしろ一緒に行動してない分さりげなく聞き出そうとしてくるが、秋葉ちゃんも同類なのだろうか?


偶に俺を妹キャラにしてこようとする事はあるが、そんな感じの子でもないはずだと思い俺を気を取り直して言葉を返した。


「どうして俺の暮らしなんて知りたいんだ?」


話す事が嫌だというわけではなく、目的が解らないとどういった事を主体にして話せばいいかも変わってくるのでそう聞くと、秋葉ちゃんから返事が返って来た。


『私、来年で高三じゃないですか。そろそろ将来の事も考えないといけないかなって……あ、進路の相談とかじゃないですよ? どちらかというともっと未来な事です』


──成程。


『このまま精霊使いとして活動していったらどうなるのかって。勿論進路自体は自分で考えますけど、実際そういった生活を行っている人の話を聞いて見たくって』


そういう事なら相談相手はまぁ俺になるよな。金守さんは年下だし、浦部さんは二重生活を送ってたのは大分昔、そして今はアキツに完全に移住してしまっている。それ以外の日本人に関しては聞いてる限りあまり交流はないようなので、俺一択になる。


「わかった、そういう事ならいいよ」


聞きたいのはリゼッタさんやミズホが知りたがる細かい事ではなく、もっと大きな事だろう。であれば話す事になんのためらいもない。まぁ秋葉ちゃんのようなスカウト組ではなく、しかも最近では特殊もいいとこである俺の話がどこまで参考になるかはわからないが、それを判断するのは秋葉ちゃんだろう。


それから俺は、ここ数年のこちら側での生活を秋葉ちゃんにいろいろと話した。


向こうに行った直後から一年くらいの話は飛ばす。その時期の内半分は精霊使いになるために必死になっていた時期で、すでに精霊使いになっている秋葉ちゃんに話す意味はない。同様に残りの半分も地域リーグ所属時の話で、これもあまり参考にはならないだろうと飛ばした。話したのはCランク昇格以降の話だ。


目的を考えると脚色しても何の意味もないので、実績を淡々と話す。


──俺の生活は、アキツ側ではいろいろと起伏のある話はできるんだが(特にここ一年ちょい)、逆に日本側になると何の面白みもない平坦な話になる。なにせ基本的には月曜日から金曜日まで働いているだけだ、何の面白みがある話でもない。


だけど秋葉ちゃんはそんな話を相槌を尽きながら真剣に聞いているようだった。なのでこちらも思いつく限りの事を話してやる。アキツに行くようになってからの交友関係や趣味に使う時間などの変化をだ。この辺りどちらかというとネガティブな要素になるんだが、彼女が将来の事を考えるのであれば当然ネガティブな事も知っておくべきか。


そんなこんなでいろいろな話をしたり質問に答えたり、それ以外にもアキツでのことや最近の出来事に関する雑談なども交えていろいろと話をしていたら、気が付けば時計の針は11時を回っていた。


「そろそろお開きにしようか?」

『ですね』


学生さん相手だとそろそろ不味いかな、とそう提案すると即座に了承の返事が返って来た。もしかしたら少し眠くなってきてたのかもしれないな。秋葉ちゃんよく寝そうだし。勝手なイメージだけど。


『今日はありがとうございました。聞きたいことは聞けたと思います。えへへ、村雨さんと話してるの楽しくて長くなっちゃってすみません』

「俺は元々寝るの遅いから平気だよ。でも秋葉ちゃんは早めに寝ないとね?」


そう冗談交じりにいうと、ふふっと笑い声が返って来た。


『もう、子供扱いですね! でも有人ちゃんに言われてるのを想像すると妹が背伸びして言ってるみたいに感じて、なんか可愛いです!』

「秋葉ちゃん!?」

『ふふっ、じょーだんです! おやすみなさい!』


最後にそう残して通話が切断された。


1時間を超える通話時間を表示するスマホのディスプレイを見ながら、俺は独り言ちる。


「将来について、か。秋葉ちゃんほど差し迫ってないとはいえ、俺もいずれは考えないといけない問題だよな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ