相談事
短めでーす
「ユージンさん」
後期シーズンが始まってからしばらくしてのこと。カーマインでの試合の後、着替えを終えてからチームの出発待ちで少しフラフラしつつ自動販売機で買ったジュースで喉を潤していたら、背後から声を掛けられた。
「ふぁい?」
口からジュースを離せばいいのにそのまま振り返ったから返事が、くぐもった声になる。
振り返った先には黒髪ショートカットの少女が立っていた。秋葉ちゃんだ。そういや今日はこの後同じ会場でアズリエルの試合があったなと思い出しつつ、俺は飲んでいたペットボトルを口から離すと、キャップを締めつつ改めて声を掛けなおす。
「こんにちは、秋葉ちゃん」
「こんにちはですっ」
いつものように元気な返事を返してくる秋葉ちゃんの格好は、チームコスチュームではなく普段着のままだ。まぁまだ試合までちょい時間はあるからな。
「試合見てました! おめでとうございますっ」
「ありがと」
先程終えた今日の試合は俺達の快勝で終わっている。相手がB2からの昇格チームだったのでさほど苦戦はしなかった。こちらは全機生存だ。ぶっちゃけB2クラス相手だとウチは明らかに格上になる。実際B2は一気に駆け抜けたしな、ウチ。だがそんな俺達でもB1では現在3位にとどまっている。やっぱり壁があるよなぁB1上位。そう考えると目の前にいるAランク上位チームの上位にはその壁の向こう側の存在なんだよなぁ……見た目は可愛らしい女の子だからとてもそうは見えないけど。
……見た目に関しては人の事は言えないか。外見上で言えばB1というか、そもそも精霊使いやってるのがおかしいくらいの年齢ですし。
実年齢的には中堅かもっと上にいてもおかしくない年齢ですけどね!
「秋葉ちゃんも次の試合頑張ってね」
「はいっ、がんばりますっ」
秋葉ちゃんが小さくガッツポーズをする。この子は喋る時に割と体が動く。
「そういえば金守さんは一緒じゃないんだね?」
こちらの世界だと、大抵の場合二人は一緒にいるイメージがある。
「千佳ちゃんはいろいろ支度中です。私はユージンさんに用があってちょっと抜けてきたんです。多分まだいるかな、と思って」
「俺に?」
聞き返すと彼女はコクリと頷く。
「用事って何かな?」
「えっとですね。ちょっとユージンさんに相談というか聞かせて欲しいことがありまして……」
「相談?」
なんだろう? 正直予測がつかない。
本人や金守さんに聞いた話ではなあるが、秋葉ちゃんの交友関係は良好だ。友人も多いらしいし、家族関係も問題なし。それにアズリエルのチーム関係者もいるし、何より間違いなく親友であり秋葉ちゃんの状況をすべて話す事ができる金守さんがいる。わざわざ年が離れていて所属チームも違うし、何なら元の性別も異なる俺に相談することなんてあるのか?
はっ! もしかして好きな男が出来たから男の好きなモノとか聞きたいとか!?
……ないな、秋葉ちゃんのキャラじゃない。
「ええっと、俺でいいの? ミズホとかじゃなくて?」
女性としていろいろミズホは博識だしいろんな経験もあるので、相談相手としては優良なんだが。
だが秋葉ちゃんは首を振る。
「相談できる相手がユージンさんしかいないんです」
俺だけとな?
「ええっと……何か深刻な話?」
話せる人間が少ないという事は、そういう可能性があるのではないか──そう思って聞いて見たが、これには秋葉ちゃんはぷるぷると首を振って否定した。
「いえいえいえ、そんな深刻とか大げさな話じゃないです。ちょっと先輩から話を聞いて参考にしたいというか」
先輩から?
精霊機装関連の話じゃないよな。そんな内容だったら普通にチームメイトに聞けばよい。そもそもキャリアだけなら確かに俺の方が2年長いけど、実力は秋葉ちゃんの方が上だ。悲しい事にな。
で、まぁ、以前鈍感と評された俺でもさすがに気づいた。
日本人の先輩ってことか。そういう事なら確かに選択肢は俺になるわな。
日本人精霊使いは俺以外にも当然何人もいるが、向こうでの活動時間が俺よりも短くほぼチーム内で行動している秋葉ちゃん達にとっては、ある程度親しいと言えるのは俺と、あとはサヤカくらいだろう。
浦部さんもいるっちゃいるが、あの人の場合格上で年も離れすぎてて相談はちょっとしづらいだろうしな。
んで、俺とサヤカのニ択となった場合は俺になるだろうね。秋葉ちゃんとサヤカは別に話したことはあるけど、そこまで接点ないし。
成程成程。
「オーケーオーケー。俺でいいなら話聞くけど、今からにする?」
「あ、いえ。これから試合の準備がありますので……私としてもそこまで急ぎじゃないですし、今度電話でお話させてもらっていいですか?」
「構わないけど……こっちで?」
「えっと、問題ないようであれば明日か明後日の夜辺りに連絡させてもらえると」
「オッケー。9時以降なら大丈夫だよー」
最近は仕事が忙しくないため、帰宅はほぼ定時だ。帰っていろいろ済ませても9時頃には片付いている。
「ありがとうございます! そしたら先にメールで連絡しますね」
「うん、了解」
「それでは、今はこれで失礼しまっす!」
秋葉ちゃんは元気よくペコリと頭を下げると、身を翻し走り去っていった。
ふむ。それにしても相談って一体なんじゃろな? 秋葉ちゃんだからわりと真面目な内容だとは思うけども。




