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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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きせかえ有人ちゃん


さて、どうしてこんなことになっているのだろうか。


手を広げた状態で取っ替え引っ替え服を当てられている自分の姿を鏡越しに他人ごとのように見ながら(実際まだこの姿に慣れてないので自分という感覚は薄い)そんな事を考える。


職場の最寄り駅の駅前近くにある大きめの衣料品店。その一角で俺は同僚二人の手で着せ替え人形になっていた。


「……いや、本当になんで来たんですか鳴瀬さん」

「あら、私は仲間外れ?」

「そういう話でなく」


最初は、俺の質問に対する二宮さんの「案内するので一緒に見ましょう」という返答からだった。流石にそれは悪いと一度断ったが、駅前だから帰り道だということと仕事も終わっているのでという彼女の言葉に最終的には甘えることにした。正直なところ女物の服の売場の勝手などさっぱり解らないのでそうしてもらった方が助かるのは事実だ。


で、そこに一個上の先輩である鳴瀬さんが自分も一緒に行くと割り込んできた。まぁ彼女は一緒のプロジェクトで仕事をしたこともあり会社の女性陣の中では一番親しいと言える人物ではあるし、二宮さんとも仲がいいようだから特に断る理由もないなと言うことで3人で向かう事になった。


そこまではいいのだ。店舗に着いたら二人も自分の服を見て回るだろうし、わからないことがあれば聞けばいいかなと思っていた。


思っていたのだ。


ところが彼女たち、店舗につくなり俺のサイズを聞き出して(というかサイズなんてわからないので店員さんに測定してもらった)自分たちの服など探しもせずに俺向けの服ばかり物色しはじめたのだ。


ここに向かう最中で二人に話した服を買う理由の言い訳がまずかったかもしれない。


俺がした理由の説明はこんな感じだ。


実は体調自体は昨日の夜に回復していて今日は普通に出勤するつもりだったんだが、朝方着替えを用意しながら珈琲を入れていたらつまずいてそれをぶちまけてしまい、着る服がなくなってしまった。表に出る事も出来なくてどうしたものかと考えていたら、以前友人が無理やり押し付けていったこの服を仕方なく来て出勤した。


歩いている最中に今日こんな服を着てきた理由を鳴瀬さんに聞かれ、その場でなんとか考えてでっちあげて話した内容がこれだ。話し終わったあとに正直出鱈目すぎて無理筋が過ぎたかと思ったが……なぜかそのまま通った。


通ったのはいいんだが……体調の件は余計な事を言ってしまった気がする。二人ともその辺で無理を言ってくるようなタイプじゃないから体調問題ないなんていってなければこんなことには……


「これも似合いますねー」


二宮さんがまた新しい服を俺の体に当ててくる。


救いは、二人が選んでくるのは今着ているロリータワンピースのような派手なものではない、ちゃんと会社に着て行っても問題なさそうな大人しめな服や、動きやすい服を選んでくれていることだ。要するにこっちの要望はちゃんと聞き入れてくれている。逆にそのせいで断りづらく今もこんな状態になっている。というかもう二人に任せる気分にはなってきていた。


正直店の中でいろんな服を当てられているのはちょいと恥ずかしいし割と体のあちこちを触られるのはこそばゆいものがあるんだが、そもそも俺は女性のコーディネートは正直さっぱりわからない。自分で選んでおかしな風にみられるくらいなら、本職の女性に選んでもらった方が間違いないだろう。この二人ならミズホみたいなアホな服を選ぶようなことはなさそうだし(というかこの店自体そういう服は置いてないっぽい)。


「上下それぞれ6~7着くらいは買うのよね?」

「そうですね、一週間分くらいは欲しいので……」


期間限定ではなくこれからずっとこの姿でやっていく以上当然もっと服は必要になってくるが、とりあえず一週間分用意できればしばらくはローテーションでなんとかなる。自宅用の服や寝間着も欲しいが、そっちは別に見た目とか気にする必要ないから後でトレーナーや大き目のシャツでも買えばいいだろう(俺は基本自宅にいる時はゆったりとした服ですごしたいタイプなので)。


「先輩、この服も買います? お値段はちゃんと予算範囲ですよ」


二宮さんが俺に当てていた上下セットの服を掲げて聞いてきたので、頷いておく。


「これも試着はしなくていいんですか?」

「いい、いい。サイズはさっきのと一緒でしょ?」

「ええまぁ……」


最初に選んだズボンの二着とその次のスカート二着は試着をしたが、さすがにもう面倒くさい。サイズが一緒なら問題ないだろうということで五着目からは体に当ててみるだけで試着はしていない。上に関しては一着だけ試着したが後は試着なしだ。


「これで後一着くらいですか?」

「ええと……上は7だからもういいかな。後はもう一着ズボンが欲しいかも」

「あら、もう2つ買ったのに?」

「……ズボンの方が落ち着くので」

「先輩って本当に男性みたいな恰好好きですよね、喋り方も結構男性っぽいし。外見はこんなに可愛いのに」


うっぐ。


どうやら俺に関する記憶についてだが、それまでの基本的な言動や恰好に関しては元の男のまま、姿とか一部の男性的な行動だけが今の女性のものに変わっているらしい。セラス博士の手によって俺の姿の情報だけが更新され、それに基づいて記憶が補正されているような形になるのだろうか?


喋り方に関しては……そういう認識になっているならもうこのままでいいか。日常会話だとどうしても今までと同じ喋り方になってしまうし、無理して女性っぽく喋っても不自然なオネエキャラみたいにしかならない気がする。だったら無理に変える必要はないだろう。


「もう一着は……これでいいや」

「さっきのと色違いの同じ奴ですか?」

「とりあえずの奴だしね」


俺は近場にあった、すでに選んだものと同じサイズのズボンを手に取り店員を呼んだ。


それからしばらくして。


「さすがに結構な量になったわね……ねぇ、やっぱり駅まで持つわよ?」


両腕にいくつもの店の袋を抱えた俺に対して鳴瀬さんに対して、俺は両腕の荷物を持ち上げてみせる。


「大丈夫、余裕ですよ」


強がりじゃなく本当に余裕だった。見た目上は元に比べて酷く細く感じるようになってしまった腕だが、腕力は落ちたような気がしない。体のパラメータはそのままで見た目だけが変わった感じだ。そんな馬鹿な、という気はするがそうなってるんだから仕方ない。


まぁそれにしたって数が多くて持ちづらいのは事実だが。

なにせ服を上下7着ずつ、それにソックスに下着まで購入している。下着はアキツ側にはミズホが買ってくれたのがあるが(ふと思うがなんでアイツちゃんとサイズ計ってないのに完璧にフィットする下着買ってきてんの? 恐いんだけど)こっちに持ってきているのは今着ている一着だけだ。勿論下着の替え無しとかありえないのでサイズだけ合わせて適当に購入した。ちなみに昨日の朝の時点では上の方はいらんだろと思ったが考えを改めて上も購入している。うん、あのね、ほどほどにはあるから擦れてね、うん。


「それにしても下着まで全部ダメにしたって……あなたどうやって服仕舞ってるのよ」

「いやぁ……あはは」


少々呆れるような感じで笑いながら言う鳴瀬さん。

服を入れてあるのはタンスやクローゼットだが当然そこにコーヒーをぶちまけたくらいで衣類が全滅するわけもなく、とっさの思い付きで言ったことなので上手い言い訳も思いつかず俺はあいまいな笑みを返す。幸い鳴瀬さんはそれ以上そこに突っ込んでくるようなことはなかったので、俺は話を切る目的も兼ねて二人に頭を下げた。


「二宮さん、鳴瀬さん、二人ともありがとう。これでしばらくは何とかなりそうだよ」


そう言ってから顔を上げると、二宮さんがニコニコとして


「こちらこそ! 仕事以外で先輩と一緒だったのって初めてだったんで楽しかったです!」


あー……鳴瀬さんはともかく、二宮さんが入社してからは終業後の付き合いに参加したことなかったからなぁ……さすがにもう少し参加するべきか。


「あはは……今後はもう少し俺も誘いに乗らないとな」


今日みたいに頼りたい事が今度もでてきそうなので、女性陣の中でも付き合いやすいこの二人との交遊はちゃんとしておいた方がいい気がする。


そんな打算まみれの俺の言葉に、だが二宮さんは嬉しそうに笑い


「本当ですか!? 楽しみにしてますね!」


……そう純粋そうな笑みを浮かべられると罪悪感感じるなぁ。次に飲みに行く時は少なくともこの二人にはせめて奢るとしよう。


ただ今週末はダメだ。用事が云々じゃなく、身分証明書無しで動きたくないので。


その後駅まで行って二人と別れ、俺はタクシーで帰路についた。

とりあえず今週一杯はタクシー通勤だ、補導員あたりに絡まれたくないので。ああ早く帰ってきて俺の免許証。


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