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週末の精霊使い  作者: DP
4.カオスの楽園
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年末イベント会場②


気付かれたか!?


声が聞こえたのは、すぐ真横からだった。位置関係的に、俺達に向けて声を上げた可能性が高い。


この場合どう反応すれば正解なのか──そんな事を考える前に、俺の体は反射的にそちらを振り向いてしまっていた。


あれ? これ悪手じゃね? 気づかれた可能性があるなら、それこそ正面から顔を合わせるような事しちゃだめじゃね?


頭の中にそんな言葉が浮かんでくるが、もう遅い。俺と声の主は正面から視線を合わせ──


なかった。


位置的におそらく声の主であろう黒髪の女性は、何故かこちらの視線を避けるように俯いていたので。


え、なんで? ここは俺が顔を背けて、そっちは目を見開いてこっちをガン見しているところじゃないの?


その女性が俺ほどではないものの小柄で、尚且つ椅子に座っているのでこちらからは頭頂部しか見えない。


えーっと。


まぁせっかく相手も見なかったこと(?)にしてくれるみたいだし、こっちも何事もなかったようにすべきだよな?


そう思いつつも、なんとはなしに女性の視線の先──机の上を見ると、そこには販売物らしき本が積み重ねられていた。


その表紙には森の中の湖を背景に、白いファンタジーっぽい羽衣を纏った黒髪の美しい少女が描かれていた。

やや露出のある服ではあるが、絵柄もありエロさというよりは幻想的なイメージのある絵だった。


素人目にもレベルの高い絵だとは思うんだが……あれ?


絵自体は初めてみるものだけど、この絵柄は覚えがある。確か……


「リゼッタさんが送って来てる絵に似てる……」


その呟きと共に、反射的に女性が顔を上げた。その顔は俺と同じようにマスクと眼鏡を身に着けており、隠されていたが。


だがそんな顔の大部分を隠された女性の顔を見て、横に立つミズホが即座にその人物の名を呼んだ。


「あら、リゼッタちゃんじゃない」


正面の女性の方がビクッと震えた。


え?


正面の女性は目を見開いて、ミズホを見つめる。


え? え?


え、だってこの絵柄は確かにリゼッタさんが送って来た奴ではあるけど。リゼッタさんの髪は金髪で──そこまで考えてから、今の自分の状態を思い出す。


今の俺は金髪。なんでそうなっているかといえばウィッグで変装している。


俺は改めて、彼女の顔の露わになっている部分……目元を確認する。


頭の中のリゼッタさんの顔と、目の前の女性の顔が重なった。


「むぎゅ」


気付いた瞬間声を上げそうになったところを、ミズホに後ろから口をふさがれる。まだ声を上げる前だったのに反応が早すぎる──というか明らかに行動が早すぎる。俺の動きを見て反応したんじゃなくて行動が読まれている。


「こーら。こんなところで大声上げて目立ったら大変な事になるでしょ?」


うん、その通りだね。でもなんでそんな耳元に口近づけていったの? 息が当たってぞわぞわするんだけど!


「むー」


とりあえず口元を塞ぐミズホの手を引っぺがす。こんなところでいつまでも美女が女の子の口を塞いでたらそれはそれで目立つだろう。ぱっと見で見たら気づかれなくても、注意深くみられたら気づかれかねない。そう、目の前にリゼッタさんのように。


その彼女は、どうやら観念したようだった。一つため息を吐くと、同じスペース内にいたもう一人の女性に振り返る。


「セティ。ちょっと外していいかしら」

「いいわよー」


スマホをいじっていたその女性は、顔を上げると鷹揚に頷いた。それからこっちの姿を認めると目を細めたが……特に何も言うことはなく、リゼッタさん(?)の座っていた位置に移動した。


「あんまり長くは外さないでね」

「わかっているわ」


女性の言葉にリゼッタさん(?)は頷くと、改めてこちらに向き直って言った。


「ここで長々と話し込むと()()()()()()()多分不味い事になると思うので……場所を変えましょう」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「で、リゼッタさんなんですか?」


展示会場の隅、立ち並ぶブースからは少し離れた閑散としたスペース。こんだけ人口密度の高い場所でも、こんな空間はあるんだなと思わせられる所に連れてこられた俺が単刀直入にそう聞くと、彼女はコクリと頷いた。


さすがに今更隠す気もないようで、眼鏡とマスクを取ると、そこには間違いなくリゼッタさんの顔があった。


彼女は再び嘆息すると、ミズホの方を見つめて口を開く。


「なんでそうあっさり気づくんですかね、ミズホさん」

「ま、アタシはそういうの気づくの特技みたいなもんだし。大体それをいったら、リゼッタちゃんの方が先にユージンに気づいたじゃない?」

「そりゃ気づくに決まってるじゃないですか」

「あんなの書いてるくらいだしね」

「そうですね」

「あ、否定しないんだ?」

「今更否定してもどうにもならないでしょう?」

「ま、ね」


……えーっと。


「あのー」

「どうしたの?」

「どうしたんですか?」

「一体何の話を……?」


途中からの話の流れがよくわからなくて、置いてきぼり感がある。そう思い恐る恐る話に割り込むと、何故か二人は目尻を下げて笑みを浮かべた。なんだか生暖かさを感じる。


「ユージンさんって、精霊機装の試合中とか鋭いのに、普段はものすごーく鈍い所がありますよね」

「わかるぅー。でも、そういう所も可愛いのよ?」

「それについては全面的に同意です」

「だから何の話!?」


置いてけぼりにしないで! 後こっち見てニヨニヨすんな!


そのニヨニヨ二人組の片方、リゼッタさんは、そんな表情を浮かべながらもフフと上品に感じる笑い声を漏らしつつ、手に持っていた袋から一冊の本を取り出した。


「これの話ですよ」


取り出された本は、先程リゼッタさんの座っていた場所の机の上に置いてあったものと同じだった。黒髪の美少女を描かれたもの。


それを彼女は開くと、こちらの方へ差し出してペラペラとページをめくる。


──そこに描かれているのは、さまざまな衣装の少女の絵だった。背景もしっかり書き込まれており、少女の衣装と調和がとれている。描かれているものも様々で、現代風なものもあればファンタジー風のもの、はてはSFやサイバーパンク風のモノと、バリエーションは様々だ。統一感がないともいえる。


だが、ただ一つだけ統一されていたものがあった。


それは描かれている少女。すべてのイラストに、黒髪の少女が書かれていた。


そしてここまでくれば、先程二人に鈍いと評された俺でもさすがにこのイラスト集のメインテーマが何なのか気付く。


──全部俺のイラストやんけ!







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