舞台裏
「今回のオフは平和だよなぁ……」
「そうっスかね? 普通に忙しいと思うっスけど」
「いや、暇じゃなくて平和って言ったんだよ」
周囲からは喧騒と、その中に響くサヤカとミズホの声。それらを聞き流しながらスポドリ片手に呟いた俺の言葉に対する突っ込みに、俺は即座に突っ込みを返す。
俺達二人は、今パイプ椅子に脱力して身を預けていた。その椅子にはものすごく似合わない恰好で。
レオは全身黒を基調とした恰好で、前をはだけた状態でジャケットを羽織っている。──着崩しているのではなく、元からこういう衣装だ。ジャケットの下はインナーのみで、胸板は隠されているが鍛えられた腹筋はさらけ出されていた。勿論俺はそれをみても「こいつ鍛えたなぁ……」と思うくらいでドキッとするとかはない。
そして俺は──レオの衣装と対になるような純白のドレスだった。裾も長いので、座る時に床にゾロびいて汚さないように注意した。間違ってもこの格好のままトイレいけないよなぁ……行きたくなったらどうしようと思う衣装だ。今の所は大丈夫なので、最後まで持って欲しい。脱ぐのも着るのも面倒なので。
ちなみにそんな下半身に対し、上半身はガードゆるゆるだ。肩や鎖骨がもろに出るオフショルだし、自分からは見えないが背中も結構出ている。正直肩とかはいいけど、背中はちょっと気になるというか視線を感じてしんどい。まぁ仕事だし、このくらい迄は我慢するけど。
──そう、仕事だ。もちろんこんな衣装が俺達の私服の訳もなく、仕事用の衣装である。
今俺達は、イベント会場にやって来ている。
ファン感謝デーなどの精霊使い向けのイベントではなく、もっと大規模なイベントだ。凄まじい集客を誇る年末のビッグイベント。時期的にコミケを思い浮かべるが、こっちの方はもっと大規模だ。内容的にはコミケ+ゲームショウ+ワンフェスあたりになるんじゃないかね?
俺達はその中のゲームショウ部分──企業ブースに呼ばれていた。いつものソシャゲのメーカーだ。なんか本当に評判いいらしくてことある毎に呼ばれるんだよな。
そんな感じで先程レオが言った通り、今回のオフも決して暇じゃない。最初の週を除けば撮影やら取材、トレーニングに機体の調整などで相変わらず多忙な毎日だ。
ただまぁ、
「今回のオフ、忙しいけどスケジュール通り進んでるだろ? だから平和」
「ああ、成程。そういうわけなら確かにそうっスね」
俺の言葉にレオが頷く。
ここ最近は酷かったなぁ。
性別変換後のオフはドタバタが酷かったし、その次のオフは深淵戦があった。
その後長いオフがあったけど、深淵戦で負った怪我とサヤカの合流で決して落ち着いてなかったし、その次はスタンピードだ。
んで半年前は一か月前に出現したグラナーダ調査隊で、三か月前は化け物退治である。
──こうして並べてみるとマジで酷いな。
それに比べて今度のオフは、忙しいもののそれは予定通りの忙しさだ。女になってから初めての、忙しいなりに落ち着いたオフだったと言える。
「──なんてこと言ってるとフラグ立ちません?」
「なんでそんなこというの……?」
「そんな上目遣いで可愛らしくいっても俺には効かないっスよ? 彼女持ちなんで。単体のユージンさんには反応しないっス」
「そもそもそんな意図ねーよ。ま、今年も残り数日だ、大丈夫だろ」
「だと良いっすね」
いやマジでやめてくれ。年末年始くらいほんとのんびり過ごしたいんで。今日の仕事を最後にこの後はこっちの仕事は入ってないし、向こう側の会社はもう休みに入ってるので三が日までは完全休暇なんだよな。オンナノコになった俺にとって、長期休暇はGWと年末年始くらいなのである。
ちなみに今年の年末年始はほぼこっちで過ごす予定だ。
去年まではこっちでも滞在場所がなかったから自宅でぼーっとしてたけど、今年はサヤカもミズホも先に里帰り済ましたらしく、「ふふ、年末年始はずっと一緒だよ(ぞ)」と誘われた。
俺としても日帰りの墓参りと大掃除を済ませてしまえば後は向こうでしたい事は何もないので、了承した。
とはいっても一応墓参りと大掃除をするので一度向こうへは戻るけどな。それ終わったら後はこっち。正直今となってはこっちの方が友人関係の相手は多い気がするし。ここ一年ちょいで増えたよな、精霊使いの繋がり。
というわけで年末年始はミズホの家でごろごろする予定だ。もう半年近く週末はミズホとサヤカと3人で過ごしているので今更何の抵抗もない。……いや、風呂だけは今もパスだけど。
「もうこれ事実婚じゃない?」とかほざく家主がいるが、間違いなく違う。基本は週末一日だけだし、まだ俺に結婚の意志はない。現状の俺達の同僚以外の関係性は仲の良い親友同士という所だろう。
ちなみにレオも一日だけ泊りに来るそうだ。彼女とか家族はいいのかよと聞いたらその彼女にお宝写真ゲットしてきなさいと送り出されたとのこと。ブレないカップルだな。普通付き合ってそれほど立たない相手を女三人の家に送り出すか? ……まぁこいつの性癖知ってれば別に心配はしないか。
俺は椅子の上で大きく伸びをしてから、口を開く。
「とにかくさ、俺としては長期の休みはほんと久々なんで。マジで妙な事考えるのやめてくれ」
「ユージンさん、本当に休み少ないっすからねぇ。向こうの仕事辞めるつもりないんスか?」
「今の所こっちに完全に活動移す気がないからなぁ。何らかのトラブルで精霊使いできなくなったらそれこそ生活どうするのって話だし」
「そうなってもミズホさんが養ってくれるんじゃないッスかね?」
「その場合はその後の俺の人生が確定するな……」
「それにユージンさんなら別の職業でも全然食べていけるでしょ──アイドルとか」
「その職業だけは絶対にお断りだなぁ!」
「でも今みたいな恰好してるのに今更じゃないっスか?」
「……たまにするのと、仕事にするのじゃ違うだろ。それに歌って踊ってないし」
「ふくれっつら可愛いっすけど、どうせならミズホさん達に見せてあげましょうようそういうのは」
意識してやってねぇよ。というか今そうなってる感じじゃないんだけど、本当になってるのか? とりあえず頬をむにむにとほぐしておく。そろそろ出番だろうし、そんな顔でステージに上がれない。
「ユージンさん、クローガーさん、準備お願いしまーす!」
ほらな。
「んじゃ行くか、レオ」
「うっす」
頷きあって、俺達は椅子から立ち上がる。ちょっと変な体勢で座ってたので伸びを一回。
「あと一回で、出番は終わりだよな?」
「っスね」
「っし。じゃあ最後にひと踏ん張りするかー」
そういって首をコキコキと慣らす俺に、レオが笑う。
「ユージンさんもこういうの動じなくなったっスねー。最初の頃は緊張して転んだり手足が一緒に動いてたりしたのに」
「何回こういうの経験したと思うんだ。いい加減慣れる」
そろそろ二桁に届きそうな回数をすでにこなしてる。ついでに言えばあくまで屋内の一企業のブースだから、ファン感謝デーとかに比べれば人の数も少ないし。それにある程度の台本もあるからあんまりアドリブ求められないしな。いろいろプライベートな事聞かれたりするイベントよりは気が楽。
……比較して、だけどな。
やっぱり俺本質的には人前に出るの得意じゃねーんだよなぁ。さっきレオがいったアイドルとか本気でありえない。本当は今だってすぐに帰りたいぞ。
とはいえ、お仕事はお仕事。受けた仕事は最後まできっちりこなします。まっとうな社会人なので。
さて、今年最後のお仕事頑張ってきますか。




