イケメンと一緒
3の倍数の月は基本的にリーグ戦はオフシーズンとなる。
厳密にいえばその月にも試合が組み込まれるケースはあるし、逆にそれ以外の月でも試合がないケースもあったりするが大まかにはそういう割り振りだ。
特に昇格戦に関わる事になると単純に試合が増える事になるわけで、この場合は3の倍数の月でも確実に試合が組み込まれることになる。
──が、幸いなことに我がエルネストはB1参戦2シーズン目となる今シーズンの前期を、3位という好成績で終えることができた。ちなみに負けたのはAから降格してきたチームとフェアリスである。対フェアリスはもうちょっとだったんだけどな……昨シーズンのリベンジとはならなかった。後期では果たしたいところだ。
……とにかく。降格戦にはかすりもしない順位で終える事の出来た俺達は、12月の頭からオフシーズンへ突入した。
さて、このオフシーズンだが。オフと言っても別に暇なわけじゃないのはお察しの通りだ。以前より話題性は減ったとはいえ、相変わらずCMや広告撮影などの仕事が多い。なにせ見た目の面でいったら美女・美少女が3人在籍する(いい加減自分でこういうのも抵抗なくなったな)エルネストはフェアリスに継ぐ2番人気だ。オファーは途切れることがない。成績面でもフェアリスとほぼ並んだし。
まぁウチはスポンサーとその関連企業、地元企業あたりからしか基本的に受け付けてないんで仕事の受注量自体は2番手ってことはないんだけどな。そもそも俺が週末しか時間取れねぇし。ただその週末しか時間取れない分そこに仕事が詰め込まれるから、密度は割とヤバイことになったりするんだけどな……そっち系の仕事以外にもトレーニングやらなにやらあるしさ。
ただそうすると俺が全くオフ無しになるということで、毎回オフシーズンの最初の週は基本的に仕事を空けてくれている。なので、ここでちょっとしたお出かけをしたりしてリフレッシュしたりするわけだ。なんかいろいろ突発イベントが飛び込んできたりして潰れる事もあるけどな!
今回は早い段階で昇格戦には巻き込まれないのは分かっていたので、土曜日にちょっとしたアミューズメントパークに遊びに行こうと予定を入れた。ちなみに翌朝帰って日曜日は完全オフにする予定。たまには自宅で一人でのんびりしたい。平日夜は一人(たまにサヤカが来る)だけど。
とまぁ、そういう予定を入れて。そんな事をメッセージや電話などで話したりしていたところ。こんなメッセージが来た。
『その日、少しお時間を頂いてお付き合いいただけないでしょうか?』
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ああロングスカート走りずれぇ!
ズボンで来ればよかったと後悔しつつ長いスカートを足にまとわりつかせながら、アスファルトの上を駆ける。正面に立つポールの上に設置された時計の差す時間は10時16分──約束の時間をすでに10分以上経過している。
くっそ、初めてくる場所だしミズホもいねぇんだからもっと余裕を持ってくるんだった。
「すみません、遅くなりましたーっ!」
俺は声を張り上げて、時計の下に立つ金髪の青年に手を振る。青年はすでにこちらに気づいてたらしく即座に手を振り返してきた。
俺はその勢いのまま彼に駆け寄り、ようやく足を止めた。
「すっ、みっ、まっ」
「まずは息を整えてください」
焦った口調でそう言われたのでお言葉に甘えて、体を前に倒し息を整えながら噴き出した汗をハンカチで拭きとる。冬とはいえ、さすがにいろいろ着こんだ状態で走れば汗もかく。本当は服の下も拭きたいが勿論そんなわけにもいかないでとりあえず顔と首元だけだ。
「ふぅー……」
大きく深呼吸する。俺は普段からトレーニングしているし運動不足ということはないので、息はすぐに整ってきた。
「はぁ」
最後に小さく息を吐いて体を起こすと、金髪の青年が心配げに俺を見下ろしていた。
俺はそんな彼に苦笑いを浮かべつつ改めて声を掛ける。
「すみません、遅くなりました、フレイさん」
青年──フレイさんは、俺の言葉に困ったような表情を浮かべる。
「連絡は貰ったし、そこまで急がなくても大丈夫だったのに……」
「人を待たせるの、余り好きじゃないんですよ」
うん、本当に。基本的には待ち合わせには時間前について基本待つ側のタイプだと思ってるんだけど、今日はやらかした。
勿論、寝坊したわけじゃない。目覚ましをかけてきっちり起きたし、家も予定通りに出ている。
ただ、今の自分の立場を少々忘れていた。
以前の誘拐?事件の事もありここ半年くらいはあまり出歩かなかったし、出歩くにしてもミズホにコーディネートしてもらって気づかれづらくしてたんだけど、今日は自宅からこっちに直行。ミズホもちょっと用事があるらしく昼以降の合流となるため、久々に完全一人で行動したんだが……
ばれ申した。ファンに。
油断したよ……ここ最近の変装ミズホ任せにしてたせいかなぁ。転送施設からアミューズメントパークの近くまではタクシーできたし、例によってアミューズメントパークは今日明日と関係者貸切なので一般人には合わないだろうと思ったけど……タクシー降りたところから施設まで向かう途中の道で捕まった。その場所は普通の公道なので文句も言えねぇ……駐車場まで回してもらってだと遠回りになるかと思って入り口で降ろしてもらったのが仇となった。
うう、髪型変えてなかったのが不味かったか……?
その結果そこで10数分ロスしてしまい、更にはここまでの車での移動でも軽く渋滞に引っかかったりしてしまってロスしてしまったため、最終的に待ち合わせ時間をオーバーしてしまったわけだ。
初めてくる場所なんだし、もう20~30分早く出るべきだったよ……
「本当に申し訳ない」
「気にしないで。そもそも今日は僕に付き合ってもらうわけだし」
改めて謝罪する俺に対して、そう言ってくれる。
俺はその言葉に甘える事にした。というかすでに予定時間を10分以上オーバー。昼前にはミズホ達と合流する約束があるので、フレイさんの依頼をこなす時間はすでに残り1時間ちょっとしかない。だからこんなやりとりで無駄に時間を浪費するわけにはいかないだろう。
「お言葉に甘えさせてもらいます。今後は気を付けますね」
「……そっ、そうだね! 今後だね!」
なんで今一瞬どもったの? 後その回答は今後はマジで注意しろということだろうか? いやそんな事言う人じゃないな。まぁいいか。
「そっ、それにしても、今日のその格好可愛いね!」
そっちのセリフがどもるのは分かるけど。
でも、こういう定型文は普通に言えるって以前言ってたし、番組とかでも普通にいえてた記憶があるけど。やっぱりシチュエーションによって心構えが違うのだろうか?
フレイさんの言葉を信じるなら(というか過去の反応的には信じざるをえないが)、今回のシチュエーションは彼にとっての初めてだろうし──初めてが俺でいいのだろうか? まぁ、カウント外か。ノーカンという奴だ。
時計を確認すると、10時20分。ミズホ達との待ち合わせは11時半だから……移動時間も含めれば残り1時間か。
「それじゃ行きましょうか、フレイさん」
先を指差してそう伝えると、フレイさんはコクリと頷いた。その表情にはちょっと緊張の色が見える。
これから俺とフレイさんは1時間という短い時間だが、彼の頼み込んできた事を一緒に行う。
そう、デートだ。
疑似シミュレーションだけどな。




