竜退治④
それにしてもルメールさんの守りの技術は凄まじい。
俺に攻撃を集めさせることでこっちの攻撃の狙いを定めやすくするために、先程まで俺の周囲にがっつり展開していたシールドを遠ざけているが、それでも攻撃が来る毎にギリギリでシールドを滑り込ませ、結果として俺は相変わらず全く攻撃を受けていない。
ネトゲだったら思わず素敵!抱いて!とかネタで口走ってしまいそうなくらい凄い。
……まぁ今の俺の外見でそれを言うといろいろ問題が起きるし、あと一部の連中が騒ぎだしそうなので口には出さない。というかそうでなくても遊びじゃないガチの戦場でそんなことはいわない。
先程攻撃パターンを増やしてきた奴は、さらに攻撃パターンを増やしてきた。
一つは弾丸が直線ではなく孤を描く弾道を描く球体だ。重力に引かれて下に落ちるのではなく、上下左右に弧を描く。これがまとめて4~5発発射される。こちらは散弾のように途中で分化するわけではなく、最初から複数弾が射出される。
もう一つはうっすらとした黒い膜を纏った突撃だ。──これがヤバイ。この攻撃からもルメールさんが庇ってくれたんだが、その際ルメールさんの霊力がごっそり持っていかれた。彼の霊力+効果の上昇する魔術の盾だからマシだったが、おれが直撃を受けたら間違いなく霊力を1ゲージは持っていかれただろう。
ただこれは向こうとしてもコストが重いのか、まだ一回だけしか出してきていない。切り札って奴だろうな。
まぁこの攻撃連発されるクラスだと本格的にヤバかったから助かる。この状態だと、防御無効状態の俺の攻撃はともかくとしても高火力で無理やりぶち抜いている【風刃】ですら殆ど通らなくなるし。
攻撃のパターンが増えてきたのは、多少は向こうを追い詰めてきたということだろう。出し惜しみをしていては無理だとの判断か。そんな知能があるのかな?
『……散弾だ、来るぞ!』
通信機から、ヴォルクさんの声が響く。
今回あまり攻撃にはまわれない彼は、戦域からある程度離れて常に奴の動きを追いかける事に集中している。すでに奴の攻撃パターンごとの違いはわかっているので、じっと目を離さなければ判断がつく。
狐を描く弾丸はすぐわかるし、突撃も事前の動きで判断つく。高火力突撃はまだ一回しか見ていないが、その体を黒い膜が覆うから明白だ。散弾と通常弾はちょっとわかりづらいが、散弾の方が多少チャージ時間が長いから見分けがついた。
攻撃の種類がわかれば、大部分が百戦錬磨の精霊使いだ。被害を最小限に絞ることができる。
ルメールさんを除く全機が俺から距離を取って行く。例によって俺狙いなのは明白で、おれはどう考えても回避はできないのでルメールさんの動きと同調してギリギリの所で盾の影に隠れられように動きを取る。
そして球体が発射された。
散弾といっても範囲はある程度限られる。範囲内に残ったのはルメールさんと俺、それに浦部さんとハザマさん。俺とルメールさんは被弾は最初っから覚悟しているので大きく動かない。そしてギリギリ範囲内に残った二人は──自分の所に飛んできた散弾を捌ききった。
……いやあの二人おかしいよ。
ハザマさんは機体を細かく操作し躱せる分は躱した上で、回避しきれない二発を刀で斬り落とした。
浦部さんは【千手千眼観音】の手で自分の至近弾を受け流した。
なんであの高速飛来する弾に対してそこまで出来るのか。やっぱりトップクラスは霊力云々だけではなく様々な部分が人外だ、絶対あの域に到達することはできない自信がある。
──とにかく、俺は自分の出来る範囲の事をする。まぁカッコつけていったところで隠れるだけなんだけども。事前にその動きをしていたから弾速の速い球体を受けることもなく、術で生み出された盾の向こう側へ滑り込んだ。
散弾が、目の前の盾や地面へと着弾していく。ルメールさんの霊力は削られるが、それ以外は特に問題ない。
そう、そこまでは問題なかったのだ。
「……えっ?」
思えば思い通りに動くハズの精霊機装の動きが引っかかった。そう、まるで何かに組み付かれたように。
当然今この場で俺に組み付いているような精霊機装は存在しない。散弾を交わすため今はばらけているし、唯一比較的近くにいるルメールさんの機体は左前方に普通に見えている。
「うあっ……!?」
その引っかかっているものが何かを確認する前に、機体がぐいんと傾いた。突然何かに強く引っ張られたのだ。引っ張られたのは頭部と右腕、それに右足。移動しようとして片足を上げた状態だったのが災いした。機体がバランスを崩し傾いていく。
咄嗟に上げていた右足をついて耐えようとするが、その足は引っ張られていたせいで真っすぐ地面におろせず、踏ん張りがきかなかった。そこであわてて左足を引いて後方につくことでなんとか転倒することは耐えたが、バランスを崩した機体は引く力に耐え切れず千鳥足で引っ張り出される。
盾の外側へと。
そして気が付けば、黒い膜を纏った存在が眼前に迫っていた。
轟音が響く。
「っあ……!」
強い振動が来る、体から何かがごそっと抜けていく感覚と同時に、体が傾いていくのを感じる。斜めになっていく視界の中で、竜が飛び去っていくのが見えた。クリティカルな状態で直撃したんだから本来なら追撃を入れていきそうなものだが、球体はチャージが必要なのであの攻撃から連続では放てないのだろう。動きを止めて俺に襲い掛かったらそれこそ浦部さんやハザマさん達にフルボッコにされるだろうし。
などと考えている間にも機体は倒れていく。なんか時間の進みがゆっくりで走馬灯かななどと思ったが、そこまでのダメージは受けては
『ユージン!』
「……っ!」
思考の途中でミズホの叫び声が響くと同時に今度は背面から衝撃が来た。過去に何度も経験のある衝撃。背面から地面に倒れこんだのだ。
『大丈夫!?』
『大丈夫っスか!?』
「問題ない……!」
間髪いれずあがったチームメイトの心配する声に、即答する。
精霊機装は繭で守られているから安全だ。衝撃で唇切ったりむち打ちになったりすることもあるけど、そこも大丈夫そう。俺は即座に機体を起こすイメージをする。
眼前にはすでにルメールさんが俺を護るべく移動してきた。さすがです。
「……やっぱりがっつり持っていかれたな」
モニターに目をやれば、ゲージが軽く一割以上持っていかれていた。やはりあの攻撃はヤバイ。
だが、それよりもだ。
「なあ、さっき俺に何があった?」
今は機体を引っ張るような力が感じない。先程は余裕がなく自分の機体に何が起きているかわからなかったのでそう聞くと、ヴォルクさんから答えが返って来た。
『着弾した球体の一つから、海藻……ワカメのようなものが生えてユージンさんの機体に絡みついていました……』
ワカメ。
俺はワカメに引きずり倒されて大ダメージを受けたのか……
しかしそうなるとこれ厄介だな。いくら隠れても引っ張り出されたり押し出されたりしたら躱しきれない。まぁギリギリの所ではなく、最初の頃みたいにがっつりと守ってもらえば大丈夫だろうが、そうすると今度は俺に攻撃が誘導できなくなり、狙いがつけにくくなる。
ここまで俺への突撃時に、主にラブジャのメンバーと俺の手によってそれなりに削れてはいる。多少ではあるが、動きも鈍って来た感じはある。
そろそろ勝負時か──?
そう思ったとき、待ち望んだサヤカの声が響いた。
『こちら片付いた! そっちに参戦するぞ!』




