表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
21/361

彼女は魔法使い


一体この女性は何者なんだろうか。


異世界アキツは、地球と酷似した世界だ。まぁ酷似しているのは向こうの世界がこっちの世界からいろいろ勝手に()()して発展しているからだし、こっちの世界にいないようなファンタジー的な姿の人種が街中を歩いていたりするが、少なくともアキツの人間は普通に魔法のような力を扱ったりしない。あの世界で魔法使いのような力を扱うのは俺達精霊使いだけ。


──そう思っていたのだが。


論理解析局局長ユキノ・セラス。彼女はどう見ても()()()()()能力を持っているとしか思えない。


例えば、街中を歩いている時。

ユキノ局長は、とても目立つ外見をしている。その容貌は間違いなく多くの視線を集めるであろうし、何よりその髪色だ。さすがに異世界人とかではなくコスプレだとは思われるだろうが、それにしたってこんな人物が街中を歩いていれば視線を集めないわけがない。


なのに、俺の横に立って歩いている時も、電車に乗っても移動している時も視線を集めるどころか俺達の方に(少なくとも明確に)視線を向ける相手はいなかったのだ。その辺り疑問に思い彼女にちょっと聞いてみたら


「認識阻害をかけていますので、この世界の方々がこちらを()()することはないですよ」


とか言われた。恐い。


それから必要なものを取りに一度俺が住んでいるアパートへ向かった時。彼女は何故か大家と少し話をした後大家の家の中に消えていった。10分後くらいには出てきたが中で何をしていたのか。恐い。


そして今だ。


俺達は今、とあるビルのフロアの一角にいる。俺の所属する会社の事務所だ。

今は完全にまだ業務中の時間帯で、打ち合わせや営業で外に出ている奴もいるがそれでも中では20人以上が真剣な顔で、或いは談笑しながら業務を行っている。


フロアの入り口に現れた小柄な少女に誰も気づかずにだ。


いや、さっき外に出ていった社員は入り口前に立っている俺を普通に避けていったから、そこに誰かいるというのは分かっていることなのだ。なのにその存在の事を全く意識していない。

それだけじゃない。ユキノ局長に至っては今俺の席のPCを立ち上げなにやら行っている。なのにその両隣の社員は全くそれに気づく様子がない。


異様な光景だった。


それから彼女は俺のPCを律儀にシャットダウンしてからこちらの方に戻って来た。


「終わりました」


何が?


「この会社のデータベース上は貴女は女性であることに修正しました。この会社にいる方々も皆貴女の事を女性と認識するようにしてあります」

「……何をしたんですか?」

「言葉の通りですよ。記憶による認識の一部を改ざんして貴女の事が元から女性だったと認識するようにしました。しばらくは皆さまの中で部分的に記憶の不整合を感じる事もあるでしょうが……いずれその辺りも補正されて問題なくなると思いますよ」

「いや、それ皆の脳みそとか大丈夫なんですよね!?」


明らかにヤバい事したように聞こえるんだが!?


「大丈夫ですよ。あくまで貴女の事に関する記憶だけですし、記憶の辻褄合わせは普通に起こり得ることです。その延長上ですよ」

「一体どうやって……」


その問いに彼女は腰を落とすと、俺と視線を合わせて答えた。


「秘密です。……ここまで見た事は全て他言無用ですよ? 約束です」


いやいやいや恐い恐い恐い、本当に何したの!?


明らかに引いた様子で頷く俺を気にも留めず彼女は俺の右手を取ると握りこんできた。

……ん? 何か固い感触が?


「外出されるときは基本的にそれを身に着けておいてくださいね」


彼女が手を離した後、俺の手のひらには銀色の指輪が残されていた。


「これは?」

「その指輪を身に着けて会った人物の認識を今と同様に書き換えます。あくまで直接会った人物だけで、音声だけの通話等では効果を発揮しませんのでご注意ください。音声で話す可能性が高い方は事前に直接会っておくことをお勧めします」


とんでもないもの渡された……いや、もう深く考えない方がいいか。変に追及したりしたら多分存在消される気がするし。それより今の説明で別に気になる所が一点あるな。


「会った人間の認識を変えるって、アキツ側に関わりのある人間も変わるんですよね?」


向こうでは別に元が男である事に関する認識を変える必要はない(なんなら向こうではそっちの方がややこしい事にならない気がする)。まぁそれならそれで指輪を外していけばいいだけだが、そうすると秋葉ちゃん達にこっちで鉢合わせちゃった時に面倒な事になりそうだが……


「いえ、アキツ側は問題ないかと思いまして。アキツに関わりのある方には効果を発揮しないように設定しています。こちらの世界からいらしている精霊使いの方も同様ですよ」


……謎技術すぎん? 今更か。


「ああ、それと」

「なんですか?」

「先程、音声で通話する相手とは事前に会った方がいいといいましたが、貴女をすでに女性と認識している人物がその相手と会っている場合はその必要はありません」

「何故?」

「認識改変の効果を受けている方が貴女の事を知っている相手とあった場合、その効果は波及します。深い繋がりがある方ではその効果は確実ではないですが、そうでなければ大丈夫でしょう」


もうウィルスか何かじゃねーか。本当に大丈夫なのかこれ……


「とりあえず、こんなとことでしょうか。私は数日こちら側に滞在する予定ですので何かあればご連絡ください。連絡先は後で尾瀬さん経由で連絡させていただきますね」

「わかりました。本当にありがとうございます」


俺は彼女に頭を下げる。

やっていることに不安というかいろいろ気になるところはあるが、俺の為にやってくれていることなのだ。感謝の気持ちはとても強くある。だが……


「……あの」

「はい?」

「何で私にここまでして頂けるのでしょうか?」


彼女の先程の言葉を考えて、彼女がここまでやっていたことは表に出せる技術(あるいは能力)ではないはずだ。アキツでは超重要人物であるハズの彼女がわざわざこちらの世界にやってきて、そんな秘密の力を使ってまで俺の為にこうまでしてくれるのか。もしサポートをするにしても向こうの世界の生活基盤を用意するくらいなのでは……そう思った俺の問いに彼女は、相変わらず笑顔を浮かべて答える。


「一つは、今回貴女の身に起きたことはアキツを護るために起きたことだからです。あの時貴女が"異界映し"を倒してくれなければ街の方へ被害が出た可能性もありますので。アキツの住人、そして論理崩壊に関する組織の長として最大限のサポートをさせて頂くのは当然の事です。もう一つは……」


そこでこれまで常に淀みなく話していた彼女が言い淀んだ。顔も表情は笑みのまま、瞳が真剣なものになる。ただそれも一瞬だった。


「……もしかしたら、あなたの力を借りることになるかもしれません」

「俺の力?」


その言葉に俺は眉を顰める。

普通に考えれば精霊使いとしての話になると思うが、自虐するわけではなく単純な事実として俺の実力は上位100人にギリギリ入るくらいといった程度でしかない。そして地域リーグであるDランクも含めれば精霊使いの総数は500を超える。その中の中堅レベル、せいぜい中の上程度の一人のためにここまでする理由はないはずだ。ということは日本人としてだろうか?


「いろいろ分析等が済んでおりませんのでこちらに関しては詳細は後日に。その時は改めてお願いに参ります」

「……わかりました。可能な範囲でですが、私にできることがあれば」

「ありがとうございます。それでは私はこの辺で。私が外に出たら認識阻害の効果は切れますので」


そういいながら小さく頭を下げてこちらに背を向ける彼女に、俺も頭を下げる。


「では」


彼女は小さく手を振ると事務所を出て行った。


そして


「先輩!?」


フロアの中に二宮さんの声が響いた。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 怖い…ウイルスっぽいとこが特に
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ