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週末の精霊使い  作者: DP
3.ようこそファンタジー世界
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二度目のイベント

「ミズホ」

「何?」

「とりあえず大丈夫だから離せ──暑い」

「おっとごめんなさい」


俺の言葉にミズホはパッと俺の体に回していた手を離したので、俺は後頭部を包む柔らかい温もりから距離を取る。


今はゲーセンの中にいるから空気もひんやりしてるし汗も引いたけど、ついさっきまでは夏の陽射しの下にいたのだ。その時に得た体の火照りはまだ抜けきっていない。ミズホの胸元にはまだ多少熱が籠っていた。


あと普通に会話続けたいけど、頭半分乳に埋まった状態で冷静に話せるほど俺のメンタルは強くはない。


「ユージン殿、本当に大丈夫ですか?」


改めて王子様に聞かれたので俺は頷きを返してから、先程の俺の反応で一度途切れてしまった話を改めて続ける。


「それにしても随分立つのにまだみつからないのって、もしかしたらすでにあの森を出ている可能性もありますかねぇ」


だとするとあの化け物を産み出せる存在が街に来る可能性もあるのか。ヤバイ、さっきのとは別のストレートな震えが来そう。


だがその心配は即座に否定された。


「それは恐らくないと思います。解析局の方で監視をして頂けているようですが、そちらの方に引っかかっていないとのことなので。それに奴の外見はこの世界の住人とはかけ離れているので、市井に潜むのは難しいでしょう」


人とはかなり異なる姿なのかな? とりあえず心配事が一つ消えるのは助かる。


「でもそうするとどこに消えたのかね?」

「恐らく……地下ではないかと予測しています」

「地下?」

「はい。これまで空を飛べるものを中心として地上全体を走査しましたが、拠点らしきものはおろか生活の痕跡らしきものすらみつかりませんでした。となると上空から見てみつからない場所……恐らく地下に拠点を持っているものかと」


成程ね。


確かに拠点が地下にあるとしたら上空から探していても発見は難しいだろう。入り口がちょっとした影になるところで、尚且つ偽装されていたらもう無理ゲーだ。


「地上での探索も行っていますが……さすがに今の人員数だとなかなか思うように進行せず……」


そりゃ探してる相手が探している相手だから非戦闘員は使えないし、そうすると最大で30人……特に距離の遠い地域に関しては飛行可能な人員が行っているから更に減るだろう。


アキツ側だと地下に空洞があるか調べる機械はありそうだが(日本にはあるはずだし)、それに該当するような魔術はあちらの世界にはないのだろうか。


……なさそうだな、考えてみたけどあまり使い道が思いつかない。


こっちの兵器も精霊機装を除けばローテクなもの以外はあそこでは機能停止しちゃうから、アキツ側の人員を貸し出すわけにもいかない。というか重火器とか使えてもダメだろう。俺を襲ってきた蔦の化け物程度ならともかく、最初に俺等が行ったときに襲撃してきたクラスの奴が襲ってきたら銃程度じゃどうにもならない。


となると利用できるのは精霊機装くらいしかなくなるわけだが、片道の移動だけで半日潰れるような場所にシーズン中の精霊機装を送り込むわけにはいかないだろう。


まぁシーズンは終わったので多少余裕はできたわけだが、どれくらい時間がかかるかわからない捜索任務となると以前のようにそうそう協力要請もできない。後、グラナーダの地はその大部分が森なので巨大な精霊機装で動き回ったりしたら森はそれはもう大変な事に。


「時間をかけて探していくしかないとは思っています。放置はできませんので」


結局のところ、王子様の言う通りそれしかないだろう。救いは以前彼らの言った通りであれば、砦襲撃をしてきたような凶悪な存在はもう出現しないということだ。


「……応援しかできませんけど、頑張ってください」


ちょっとだけ考えて、そう伝えた。俺に出来る事なんざ何ひとつないからなぁ。以前は界滅武装の関係で解析局から依頼を受けたけど、状況が明確な今となっては週末しか動けない俺に依頼が来る事はないだろうし。


俺の言葉を受けて王子様は一瞬驚きをその端正な顔に浮かべた後、次の瞬間には喜の色を満面に浮かべて俺の前に跪いた。


言葉だけでもこの人なら喜ぶだろうなー、とは思っていたけどまさか跪いてくるとは思ってもいなかったので俺はビクッとして一歩後ろに下がる。


そんな俺の反応も気にせず王子様は自分の額と胸もとに手を当てる。そしてそれから額に当てていた手を離し、俺の手を取った。


……あれ? この仕草以前見たことがあるような……


「以前も一度誓わせていただきましたが、あの時は言葉では伝えられておりませんのでもう一度」


誓う?


「この私の命も心も貴女、ユージン様に捧げさせていただきます」


そういって彼が俺に首を垂れる。


え? え?


捧げるってなんだよ?


行動の意味がわからず思わず硬直してしまった俺の体の呪縛を解いたのは、背後から聞こえたルーティさんの声だった。


「何やってるんですか、ホロウ様……」


ガンシューを終えたらしい彼女の声には、明らかに呆れが含まれている。


「そもそもグラナーダじゃないんだからそれの意味伝わりませんよ。ユージンさんが困っているじゃないですか?」


意味?


振り返ると、ルーティさんが呆れ顔で立っていた。


「何か意味がある行為なんですか? これって」


なんか物語に出てくる王子様っぽい仕草だなとか思ったけど。というかこの人王子様だしな。


俺の問いに、ルーティさんは右手で顔を抑えつつ答えてくれた。


「先程ホロウ様もおっしゃってましたが、この動きはその相手に命と心を捧げる意味を持ちます。ようするに」


一度嘆息を挟んでから、ルーティさんは言葉を続ける。


「その行為は、その、グラナーダでは婚姻の申し込みの意味を持ちます」

「へー、婚姻の申し込み」


婚姻ねぇ。こんいんってなんだ? コンin?


「ひゃっ?」


ルーティさんの言った言葉の意味が頭の中でぐるぐるしている間に、俺はまた背後から抱き寄せられた。


ついさっき感じた感触が再び後頭部を包む。どうやらまたミズホに抱き寄せられたらしい。


そのミズホが、荒げた声で言う。


「ダメよ! ユージンはアタシと添い遂げるんだから!」

「むーっ!」


何言ってんのお前!? と突っ込みを入れようと思ったが、ミズホがまわした腕が口を塞いでいたためくぐもった声にしかならなかった。というかさっきは"抱き留める"感じだったが今度は"抱きしめる"感じだ。ほんと力入ってて痛くはないけどちょっと息苦しいので、口元を塞ぐ腕をぺちぺちと叩く。


それで俺の口を塞いでいることに気づいたのだろう、ミズホは口を塞いだ腕を下げてくれたが今後は離してくれなかった。


ただとりあえず口元は解放されたので、大きく息を吸って酸素を肺に取り入れてからく改めて口を開く。


「いや、いきなり何言ってんのお前!?」

「だって最愛の人に目の前でプロポーズされたんだもん!」


だもん、じゃねえよ。

ってプロポーズ?


「プロポーズ!?」

「気づいてなかったんだな、ユージン……」


なんかサヤカが呆れ顔してるけどスルー。


「え、プロポーズ!? 誰が!? 誰に!?」

「王子様がユージンさんにっスね」

「正気か!?」

「正気というか私は本気です。ユージン殿、私は出来れば貴女と添い遂げたい」

「ごめんなさい無理です!」


考える前に口が反射的にオコトワリの言葉を吐き出していた。


その言葉に王子様が悲しそうな表情を浮かべる。


「やはり、ミズホ殿が婚約者なのですか?」

「それも違ぇ!」


その後、ミズホと俺は婚約者じゃないこと、そして俺は男と付き合う気は現時点で全くない事を納得させた。一応そこで引き下がってくれたので俺は王子様の評価を上げたけど、これ恋愛関係の評価ではないからな?


ちなみにだったら騎士として身を捧げさせてもらうとか言われたけど、俺別にただの一般人なんで……こっちは不満そうだったのでしばらく引っ張られそう。


あと途中でレオが


「でもこれどっかからメディア関係者に流れたら、ユージンさんのお姫様扱いが加速しそうっすねぇ」


とかぼそっと呟いたけど、誰であれリークなんかしやがったら絶対に許さないからな。



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