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週末の精霊使い  作者: DP
3.ようこそファンタジー世界
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グラナーダの状況


俺がアキツに流れ着いた時は、殆ど日本と変わりないせいで本来異世界転移した際にあるべきカルチャーショックというものを殆ど感じなかったんだけど、グラナーダはアキツや地球とは全く異なる発展を遂げた世界だ。彼らにとっては見る物殆どが理解できないものになるだろうし、説明は大変だろうなと考えていた。


それに王子様だ。説明する事にいろいろ絡まれてたら面倒くさい事この上ない。


などと思っていたのだが。


いざ案内を始めてみると、思った以上にスムーズに進んだ。


まず王子様だが、確かに最初のウチは何か説明する事に必要以上に俺に話しかけてきて鬱陶しかった。


だが、まず最初にルーティさんから叱責が飛び、続けて俺の方からもそういった事は控えて欲しい旨を伝えると、彼は不要な発言をほぼしなくなった。


あれ、これもしかして王子様俺のお願い割と素直に聞いてくれる? だとしたらもっと早めにいっておけばよかったな。まぁ最初の遭遇時はそもそも言葉が通じなかったし、二回目の時はルーティさんがガードしてくれてたからそのタイミングはなかったけど。


それからカルチャーショックの方だけど、多少驚くものはあるものの車とかテレビとかはあまり反応がなかった。


正直ちょっとマンガとかで見られるオーバーに驚く姿を期待していた俺は、なんともいえない微妙な気持ちになりつつどうして驚かないのかと聞いてみたところ、次の答えが返って来た。


曰く、この世界の事に関してはグラナーダの砦に滞在している論理解析局の職員にいろいろレクチャーを受けていた事。


曰く、カーマインにやって来てから俺等と合流するまでに、すでにハインツさん達からある程度説明を受けていた事。


曰く、そもそも仕組みは全く別物だろうが車とかテレビに似たようなものはグラナーダにも存在していた事。


そういやトイレとか冷蔵庫とか、ちゃんと"魔法文明として"発展したものが存在してたしね。グラナーダは文明が"発展していない"世界ではなく、異なる文明が"発展を遂げた"世界なのだ。


とまぁこれらの理由で、残念ながらというかなんというか、王子様とルーティさんの驚く姿をあまり見る事はできなかったが、そのおかげで案内自体はスムーズに進んだ。


ただ勿論彼らが驚くモノも存在した。例えば自動販売機等もそうだったが、一番驚いたのはゲーム関連だった。彼らの世界にはこういったものはないらしく、ゲームセンターに立ち寄って少し遊んで見せたらかなり興味を示していた。


その興味を示していたのだが、驚く事に王子さまではなくルーティさんの方だ。そもそも王子様は絡んでくることはなくなったけど、結局俺の方に大部分意識を傾けているからどこまで街並みの事が頭に入っているか怪しい。


今もちょっと立ち寄ったゲームセンターで、ルーティさんがサヤカと二人でガンシューティングで遊んでいた。出現するゾンビを的確にヘッドショットを決めていく彼女の表情はとても楽しそうで、なんというかイメージ変わる。クール系のイメージな人だったけど、こうしていると幼さがちょっと出てくるというか。そういや年齢聞いてないけど何歳なんだろ? 外見から見る限りは少なくとも俺よりは年下、多分サヤカと同じくらいじゃないかとは思うんだけど種族が違うから外見は参考にならんよな。


そんな感じで二人が年相応(?)にきゃいきゃいやりながら楽しんでいるのを微笑ましく思いつつ眺めながら、俺はふと気になっていた事を隣に立つ王子様に聞く事にした。


この王子様、俺に対する過剰な賛美をやめさせたら普通に話せる相手だったからね。俺に対して完全に下手に出てくるのと、大体視線で追っかけられてるのが恐かったりするけど。今も話そうと思って見上げたら思いっきり視線あったしさ。しかもそれで目を逸らすわけでもなく普通に笑みを送ってきやがったし。


まぁいい。


「ホロウさん、ちょっと伺いたい事があるんですけど」

「なんでしょうか?」


一瞬表情がパアッと輝いた気がした。ついでに存在しない尻尾がパタパタと振られた気もした。


案内以外で俺から話を振るとかなかったしなぁ。


「例の召喚士ですけど相変わらず見つからないんですか?」


気になったのは、砦と敵対している相手方の召喚士だった。俺達がいたときに、砦を襲撃してきた怪物たちを呼び出した奴だ。


こないだ俺が転送された時にはまだ見つかっていなかったようだが、戦力の要である彼らがこちらに来ているということは見つかったのだろうか?


そう期待を込めて聞いて見たんだが、返って来たのは渋面だった。これまでずっとニコニコしていたのにいきなりその表情だ、それだけで答えが解ってしまう。


「残念ながら……いまだ発見できていないのです」

「そうですか……」


砦の襲撃からはすでに3か月が経過している。いくら人手不足とはいえ、これだけの期間が経過しているのに発見できていないのはちょっと不思議だった。探索系の魔法とかはないのだろうか?


あるいはだが、


「あれ以降怪物の襲撃ってあったんですか?」

「砦の襲撃以降であったのはユージン殿が襲われた時だけですね」


……そういや、俺を襲った二匹の内蔦の生物の方は召喚された奴っていってたっけ。となると少なくとも一ヶ月前には行動しているわけだ。


「自死したりあるいは餓死したりしてるってことはなさそうね」


俺が思いついた事を、ミズホが先に口を出す。


その言葉に王子様は頷いた。


「ないでしょうね。アイツは自死を選ぶようなタイプでもないし、軍勢でいる訳でもないので食料も大きな問題にはならないでしょう」

「……ここまで長引いてるのに投降とかしてこないっスか?」

「奴の性格上投降は絶対にないと思います。素直にこちらの世界に合流するのであれば砦襲撃が失敗した時点で投降してくるでしょうしね。恐らくは自分が死ぬまで我々を殺し尽くす事を選ぶでしょう」


淡々と語る王子様の言葉を耳にして、俺は思わず体がブルっと震えるのを感じた。


俺の暮らしている日本、そして第二の故郷となりつつあるアキツ……前者では危険な目にあったことなどまずないし、後者に関してだってそこまでの思考を持つような相手には会ったことなかった。恐らく自分が会った中で一番近いものとしたら深淵だろう。そんな異質な存在に恐怖を感じ、体が反応したんだと思う。


それに気づいたらしい王子様が心配そうに手を伸ばしてきたが。その指先が俺に触れる前に体が後ろに引き寄せられて、後頭部が柔らかいものに埋まった。


なんというか、ここ一年で慣れ親しんだ感触なので一発でわかる。


ミズホの胸に抱きかかえられたのだ。


こちらに触れようとしていた王子様の手が止まる。彼は俺から視線を外し、俺の頭上を見た。ミズホの頭がある位置だ。笑みでもなく、ついさっきまで浮かべていた心配気な顔でもなく、ただ目を細めただけの無表情に近い顔でじっとミズホの方を見つめる。


だが、そんな視線を気にしてもいないのか、或いは気づいた上で無視しているのかわらないが、ミズホは俺の頭上から柔らかい口で俺に声を掛けてきた。


「ユージン、震えてたみたいだけど。大丈夫?」


背後から胸元に回された腕にこめられた力が、きゅっと少しだけ強くなる。


後王子様の横に立っていたレオの眼力がギンッと強くなった。毎度の事だけど本当にぶれないねお前、ある意味尊敬するよ。








最近更新滞り気味で申し訳ないです。

多分再来週あたりからはペース上げられるはず……

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