ユージンは過保護にされる
「え、なんで俺? ルーティさん達じゃなくて?」
俺の言葉にハインツさんは笑って答える。
「グラナーダのお二人はむしろ現状アキツでは生身では最強クラスでしょう。我々の護衛なんて必要としませんよ」
……確かに。
空飛んだり、雷撃はなったり、傷を治したりできる人たちに対抗できるのってそれこそアキツでは精霊機装くらいしかないんじゃないだろうか。
「彼らに関しての我々の立ち位置は、許可をすることくらいでしょうか」
「許可?」
「ええ。基本的に彼らの能力はこちらにいる間は使用しないようにお願いしています」
「ああ……さすがに騒ぎになりますからね」
様々な人種がいるアキツだが、さすがに生身で空を飛び回るようなのはいない(元々そういう事ができるのはいたらしいんだが、アキツに来た事で使えなくなったり、だんだん減衰していったらしい。グラナーダの民の能力もその内消えるのだろうか?)。
だから彼らがグラナーダの地にいる時の感覚で行動したら、騒ぎになるのは間違いないのは確かだろう。
だが、その力の使用を封じてしまったら、結局護衛が必要になるのでは……?
そんな俺の疑問を読み取ったんだろう。ハインツさんが言葉を続けてくる。
「我々の役目は、彼らに同行して緊急時にはその使用の許可を出す事ですよ。緊急時にわざわざ連絡を待ってもらう訳にもいきませんからね」
成程、ということはそっちが本命の用事で俺の護衛がおまけって事か。
「まぁメインは貴女の護衛です」
あるぇ?
「別に危険地帯にいくわけでもなく、街中の散策ですからね。彼らは純粋な身体能力も高いですし、魔術が必要になることなどまずありえないでしょう」
「確かにそうですけど……」
「それに対して貴女は──失礼ですが身体能力は突出しているわけでもなく、しかも件の一件の犯人が見つかっていない状態です。セラス局長からすでに護身の道具が提供されていますが、こちらの要請で町に出てもらう以上護衛が必要だと局長から通達がありまして」
俺は確かに1人ではあまり街に出ないように言われてるけど、今回はエルネストの面子が一緒だ。それに王子様達を含めればこの時点ですでに6人。1人どころじゃない大人数なので護衛が必要とも思えない。
そもそも例のお借りしているアイテムを身に着けた上で、エルネスト近辺の外出は普通にしてるわけで。
今回も別に中心部に行くわけで問題ないと思うんだが。
それとも今回事件に関わった場所の住人である二人がいることで何か動くとかでも考えているのかな。セラス局長、ちょっと過保護すぎない?
そんな風にいろいろと考えている内に、気が付けば無意識に人差し指を顎に当て首を傾けるというポーズを取っていたらしい。
やや傾いた視界で俺が正面に立つハインツさんに意識を向け直すと、何故か彼は動きを固めていた。
「……ハインツさん?」
「ヴぇっ」
おいなんか今変な音が口から出たぞ。
「いや、失礼」
その変な音で硬直が解けたのか、ハインツさんは何かを振り払うように首を振る。そして
「貴女は今やこの世界にはなくてはならない至宝なのです。そんな方を護らせていただくのは当然のこと。本来ならもっと人員をかけるべきなのですが……はっ?」
突然熱弁し出したハインツさんを俺がポカーンとしてみていると、彼は自分が何を言い出したのか気づいたらしく慌てて目を逸らした。
……えっと。
反応に困って彼の背後に立つグデサさんの方に視線を向けると、彼は申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
うん、その反応でなんとなくわかったよ。
ヴ ォ ル ク さ ん と 同 類 だ な ?
おい論理解析局、結構人材豊富にいるのになんでこういうアクの強いのを送ってきた!?
こんな人の事を神聖視とか特別視しているような連中なんて極わずかなはずなのに、なんでピンポイントでぶち当たるんだよ!
……ごくわずかだよな? 俺が思っているより多いって事はないよな? 身の回りにそういったアクの強い連中が多い気がするけどたまたまだよな?
うん、冷静になればヴォルクさんとかは自分から俺に寄ってきているわけで(初接触となったあれが無ければもう少し接点はなかったかもしれないけど)、きっとハインツさんも自分から強く立候補したんだろう。そうだきっと間違いない。確認はしないけど。恐いし。
変わらず目を背けたまま……あまり熱弁するようなことでもないことを語ったという自覚があるのだろう、ハインツさんは目を背けたまま。どうやら基本的には常識人のようだ。なのでグデサさんが申し訳なさそうな表情のまま、言葉を引き継いだ。
「貸出不能ですが、緊急時に非常に役立つアイテムをいくつか預かってきていますので備えは万全です。また我々は少し離れた位置を取らせてもらおうと思います。ですので我々の事は気になさらないで大丈夫です。安心して散策ください」
グデサさんの方は問題なさそう。アクの強い相方と組まされてお仕事大変そうね……ちょっと同情の籠った目で見ると感づかれたらしく苦笑いを浮かべられた。彼には特別手当を出してあげて欲しいところだ。
それから俺達はお互いに自己紹介を行うことになった。
完全初見の論理解析局の二人は置いておくとして、それ以外の面子に関しても顔を合わせた事があるのは俺だけで他はそれぞれのグループ間で初顔合わせだ。特にエルネストの同僚はある程度人物像を伝えているからまだしも、グラナーダ側の二人にはミズホ達の話なんてしていないので、最初から説明が必要となった。おかげでちょっと時間をくった。別に時間が押しているわけではないので問題はないけど。
ちなみに王子様うちの美女二人に視線ひかれるかなーと思ったらがそんなことはなく、説明している最中も俺の方に視線を向けててルーティさんに二回ほどはたかれていた。
おいルーティさんに迷惑かけてるんじゃねぇぞと突っ込もうかと思ったけど、注意しても喜ばれる気配を感じたのでやめた。
後説明中にミズホとサヤカが妙に俺に体寄せて来てたけど、君たちもちょっと行動おかしくない?
さすがにレオは自重してスマホは取り出していないようだが、脳内メモリーに焼き付けている事だろう。
まぁウチの連中は基本的に外面は良いのであまり心配しないでも大丈夫か。
「それじゃ行きますか?」
一通り全員が挨拶を終えたところで俺が声を掛けると、全員が頷いた。
それを確認して、俺は先頭に立って歩き出す。一応俺が案内役ポジションになってるからな。
その横に王子様がなにやら賛美の言葉を語りながら横に並ぼうと──してきたところで、さりげない動きでミズホがスッと俺の横のポジションを抑えた。一応ゲストである王子様達相手にどうかと思わなくもないが、俺も別に王子様と並んで歩きたくないので特に何も言わないでおく。
多分ミズホもグラナーダの話をしている中での王子登場時に俺が醸し出していた面倒臭さを感じ取っての事だろうし。
ちなみに賛美の言葉は聞き流していたので何言っていたのかはさして頭に入っていない。
気が付くと反対側はサヤカが抑えており、更に背後にはレオが付いていた。何この完全ガード状態。そろいもそろって過保護か?
さすがに案内するのにこのままはアレすぎる。
とはいえビルの中では特に案内するものもないし、ビルの外に出るまではこのままでいいか。案内始めたら相手しなくちゃいけないけど、しつこい態度をとられるようだったらミズホ達にガードしてもらおう。一人で来るんじゃなくて皆に付き合ってもらってよかった。
まぁそうなる前にルーティさんが突っ込んでくれる気はするけどさ。




