その名で呼ぶな
初めてのB1挑戦となるシーズンが終了した。
最終戦績4勝5敗の6位。黒星先行の下位フィニッシュでーす!
例の一件がなければ白星先行で終えられた可能性は高かったので、そこは結構悔しい。
実はエルネストが下から数える方が早い順位でシーズンを終えるの、初めてなんだよな。
C1まではわりと一気に駆け上がったし、停滞していたC1でも常に上位にはつけていた。そしてサヤカ加入後はC1、B2をトップで終えている。降格争いまではいかなかったとはいえ残念な順位ではある。
といっても、別にショックはそんなにうけてはいないけどな。
リーグ戦には大きくわけて3つの壁があると言われている。
一つは以前俺達が引っかかっていたB2ランクの壁。これは実力というよりは機体数の壁なので、大きなスポンサーを持つチームであれば割とすぐ突破できるものだが。
二つ目は俺達が今回引っかかったAランクの壁。丁度B1の上位陣あたりから実力ががっつり跳ね上がる。特に今期1位のチームと2位のチームは殆ど歯が立たなかった。
それに情けなさは感じるものの、元々が想定の範囲内だった。いきなりB1を駆け抜けれるかなんてのは、相手チームの事をちゃんと分析していれば無理な事はわかる。
だが、この壁に関しては超えられない壁ではないと分析している。無論次のシーズンで確実にとはいえないが、いまだ成長を続けているサヤカとレオ、そして二人程ではないが俺とミズホにもまだ伸びしろがあるのはB1で戦っていて感じ取れた。そこに更に戦術を足せば近いうちに突破は出来ると考えている。
そして最後の壁がSランクの壁だ。
正直これは突破できる気がしない。Sランクの連中はもう完全に別の次元だ。少なくとも俺とミズホの共通見解はS目指すならメンバー補強が必要である。
まぁまだ先の話だから今は深く考えてないけど。
今はとにかくAランクへ昇格が目標だ。そこから先は取らぬ狸のってね。
というわけで、シーズンは終了。オフシーズンに突入である。今季は昇格戦もないし、アワードに呼ばれるような戦績も残していない。比較的余裕のあるオフシーズンに──なるわけないんだよなぁ。
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「お久しぶりです、女神ユージン様!」
「とりあえずその呼び方は即刻やめて頂けますかね?」
部屋に入って来た俺の姿を認めた途端に滑り込むようにして膝をつき、満面の笑顔でそう声を掛けてきた白髪碧眼のイケメンに俺はジト目でそう返した。
今俺達がいるのはエルネストの事務所の中にある応接室の一室だった。
ミズホ達とやってきたその部屋の中で俺達を待っていたのは4人。
今俺の前で跪いて俺とミズホとサヤカにジト目で見られているイケメン、それを見て嘆息している黒髪黒眼の美女、それに金髪碧眼の男性が二人。
最後の二人は見た事がない人だったが、前の二人は見知った顔。その頭には特徴的な角が生えている。
グラナーダの二人、砦の代表であり王子様であるらしいホロウさんと、俺を救ってくれたルーティさんだった。
今日はオフシーズンに突入した最初の土曜日だ。
これはいつものことなんだが、エルネストでは最初の週はあまり撮影等の仕事は入れないオフにしてくれている。なので、以前あった論理解析局からの要請をその日にぶち込んだわけだ。
ちなみにその待ち合わせの場所が論理解析局のカーマイン支部ではなくエルネストの第二事務所(ジムとかがある方だ)なのは、今回の要請を受けるにあたって出した条件のためだ。
その条件というのが、案内先をエルネストの事務所のあるカーマインの外れの方の区域にさせてもらうということ。
本来なら案内するのは中心部の方がいいんだろうがそれなりに距離があるし、そもそも俺はあまり中心部は詳しくない。あっち行くときは大体ミズホが同行してくれて案内してもらっているくらいだし。
そのミズホは今回も同行しているから一応できなくはないんだが──なにより人目につく可能性が高いからな。
王子様達ではなくて俺達がな。
王子様とルーティさんも美形だからそういう意味では人目をひくだろうけど、角に関しては多分気にもされない。耳やらなにやら生えてる人間がすでに存在している世界だし、何なら人型じゃない連中もいるので。
現状ある程度はグラナーダの民の情報は流れているが、外見がそれほど特異ではないため容貌に関してはあまりメディアでは取り上げられていない。
今この場にいる二人なら立場もあり取り上げられるかもしれないが、この二人は今日初めてこちらへやってきたはずで、恐らくメディア各社とも接触していないだろう。
それに対して俺達はまぁ……いくつかの理由で全国区知名度になってしまっているので……
その点エルネストの事務所周辺であればそれほど人も多くないし、俺達が歩いているのを見かける事も多いだろうから、それほど大きな騒ぎが起こる可能性も低い。それにこの辺りならそもそもの顔見知りが多いから、最悪フォローしてくれる相手もいくらか思い浮かぶ。
あと普通に俺らが楽。
ゲストに足を運ばせるのもどうかと思うが、そもそも本来は俺等の役目じゃない話だしこの条件だしても向こうが即答でOK返してきたらしいので問題ないだろう。
ただし、だ。
俺は相変わらず俺の前で跪いたままの王子様──ホロウさんを冷たい視線で見下ろす。
だが、彼はその視線に気づいてないのか気にしてないのか、やや興奮した面持ちで言葉を続けてきた。
「此度は私の願いを聞き届けて頂き感謝いたします。本日この日を迎えるのをずっと待ち望んでおりました、女神ユージン様」
あ、今自分のこめかみが引くついたのが分かった。人の話聞いてねぇな、この野郎。
俺は出来るだけ言葉が冷たくなるように意識して、彼に言葉をぶつける。
「とりあえず次にその呼び方したら、この話はなかった事にして貰いますんで」
「えっ」
えっ、じゃないよ。
街中でそんな呼ばれ方してみろ、最近ようやくクソガキ共が人の事指さして「女神様だー!」とかいってこなくなったのに、またぶり返すだろ!
「でしたらなんと呼べば……」
「いや普通に呼んでくださいよ」
俺の言葉に彼は立ち上がり、顎に手を当てて少し考えてから、
「……女神様?」
「そっちじゃねぇ!」
おっと言葉遣いが荒くなったぜ。
「ごほん、普通に名前で呼んでくださいよ」
「ユージン様……?」
「様もいらないです」
「ユージン殿?」
「あー……それでいいです」
「承知した、ユージン殿」
なんか開幕でいきなりどっと疲れたんだけど。
はぁ。
心の中でため息を吐いて、俺は視線を後方に移す。そして小さく頭を下げた。
「ルーティさんもお久しぶりです。改めて先日はありがとうございました」
「お久しぶりです、ユージンさん。その後特にお変わりはなく?」
「ええ、大丈夫です」
「それは良かった」
ルーティさんは俺に過剰信仰みたいな感情抱いてないのでほんと楽。
「あと、そちらのお二方は?」
俺は更にその向こう側に立つ二人の金髪男性に問いかける。
するとそのうちの一人がこちらの方に小さく頭を下げてから答えた。
「私は論理解析局の職員のハインツと申します。こちらの者はグデサ。本日同行させていただきます。まぁ護衛だと思ってください」
ああ、なるほど。一応グラナーダの代表みたいな二人だし、VIPみたいな扱いなのかな?
「ユージンさんの」
「俺の!?」
ここ最近ちょっと多忙が続いており更新が遅れております。申し訳ない。




