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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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週末何してますか

この作品は基本的に主人公の一人称視点ですが、稀に三人称視点が挟まる場合があります。

その場合は以下のように記述します。


●三人称視点

上記記述以降は三人称視点


〇有人視点

上記記述以降は主人公視点


ページ内に特に上記の記述がない場合はすべて主人公視点です。


●三人称視点

株式会社エニウェアは主に企業のシステムを請負開発したり、特定業種向けのパッケージソフトを開発販売するソフトウェア会社だ。総社員数は73名。ただしうち30名前後は基本的に現場に出向して開発を行っており基本的には本社にいるのは40名前後。さらにその中で9名ほどは営業や総務・人事なので本社に常駐している開発要員は30名前後となる。


その30名前後の社員の中に。一つの謎を持った社員が存在する。


キーンコーンカーンコーン


18時。エニウェアの終業時間であるその時間を時計の針が指し、どこか懐かしさのあるチャイムがフロアに鳴り響く。その音を耳にして体から力を抜く者、逆にキーボードを打つ勢いを加速させる者、そして早々に各種ソフトをクローズしてPCをシャットダウンさせる者。


その一番最後のケースに該当する男性社員は念のためPCの電源ランプを確認すると、机の脚元に置いていた中身スカスカのバッグを手に取る。


「あっ、先輩!」


その様子を見た、社員の中でも初々しさの残る一人の女性社員が少し慌ててその男性社員に声を掛けた。


「なに、二宮さん? なんかわかんない所あった?」

「その、今日鳴瀬さん達と飲み会するんですけど、先輩もご一緒にどうでしょうか」


今年の新入社員である二宮双葉は、やや幼さを感じるものの整った目鼻立ちと人当たりのいい性格で男性社員からの人気も高い。そんな後輩社員の誘いだ、大抵の男性社員は一も二もなく受け入れるだろう。だがその男性社員は申し訳なさそうな顔で顔の前に右手を立て


「ごめん、飲み会はパス!」


スッパリと断った。


「あ、はい。そうですか……」

「ごめんねー。それじゃお疲れ様、お先に失礼しまーす」


そう言って背を向けてフロアを出ていく男性社員の背中を寂しそうな顔で見送る後輩社員の肩を、別の女性社員がポンと叩く。


「だから村雨君は金曜夜はダメだって」

「うー、でも飲めないわけじゃないんですよね」

「むしろ結構飲む方よ。なんで彼を誘うなら平日か翌日が祝日の時ね、そっちなら参加するわよ」

「なんで金曜日の夜はダメなんでしょうか? ……もしかして恋人と会うためとか?」

「他の男性社員から聞いた限りだとそういう気配はないのよねー。金曜の夜に電話とかすると普通に出るらしいし。噂レベルだと土曜日朝から出かけて何かしてるんじゃないかって話はあるけど」

「どうしてですか?」

「土日に連絡すると電話繋がらないらしいのよね。なんで山にでもいってるんじゃないかって」

「ソロキャンプですかね」

「どうかしらねー。まあ付き合いの悪い子の事はひとまず忘れて、私達も仕事締めて出る準備しましょうか」

「わかりました」


そういいあって起動されているソフトの終了と終業の処理をするために二人が席に着こうとした時、フロア内に無駄に大きな声が響き渡った。


「あ、二宮ちゃん達飲みに行くの? 俺もいっていい?」


その声を聴いて先輩社員は露骨に顔をしかめ後輩社員は小さくため息を吐いたが、長髪の男は気づかないフリをしているのか本当に気にしていないのか、二人の元へとへらへらとした笑みを浮かべたまま歩み寄っていった。


〇有人視点


フロアを去り際にちらりと見えた後輩の寂しそうな顔に後ろ髪を引かれる感覚を感じつつも、俺は駅に向かって足を進める。

二宮さんは今年入社の新入社員で、新人教育の担当を務めたせいか俺の事をよく慕ってくれている。妙にヒネたこともない素直な可愛い後輩なので、出来れば誘いには乗ってあげたいところではあるんだが……金曜日の夜はダメなのだ。


いや、正確にいえば金曜日の夜は多少は付き合っても構わない。が、酒はダメだ。二日酔いとか論外だし、そもそも()()は飲酒機乗禁止なんで。

食事くらいなら付き合うんだけどなぁ、と思うが金曜夜の誘いは大抵酒が伴うので仕方ない。


ちょくちょくお前早く帰って何やってんのと言われるがなんてことはない、金曜の夜にやっている用事は洗濯やら生活必需品など買い出しなど家事に関することだけだ。何せ土日は()()()()()()()()ので金曜の夜の内にもろもろ片付けておく必要がある。


「村雨さーん?」


さて今日は何を買っていく必要があったかな、と考えながら街の中の喧騒を歩いているとどこからか声が掛かった。最近わりと聞きなれつつある声に周囲を見回してみると、ブレザー姿の女子高生がこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「やっぱり村雨さんだ。仕事帰りですか?」


俺の側までやってきた少女は、人懐っこそうな顔で頭一つ分くらい差がある俺の事を見上げてそう聞いてくる。


「俺はまぁそうだけど……秋葉ちゃんはどうしてここに? 学校は地元の高校だったよね?」


瓜生 秋葉。それが彼女の名前だ。


今年進学したばかりの高校一年生、俺と一回りくらい年が離れているこの少女とはまだ出会ってから半年くらいしか立っていないのだが、その出会った理由が理由なのと住んでる地域が一緒な事もあってか、懐かれている節もある──最も会うのは基本的に土日だけで、それ以外の曜日に会ったのはこれが初めてな気が……いやゴールデンウィークに会ったな。


「友達の買い物に付き合ってたんですよ。ほら私達土日はそういうの付き合えないじゃないですか、その分平日は友達と過ごさないと」

「うぐっ」


俺の横に並んで歩き始めながら屈託のない笑みを向けてくる彼女の言葉に、直前に会社の同僚との誘いを断ってきた俺は一瞬言葉に詰まる。いや学生さんと会社員じゃフリーになる時間が違うし俺一人暮らしだから家の事やらないといけないし仕方ないよな?そうだよな?


「どうしたんですか?」

「いや、何でもない」


最近友人関係と最後に遊んだのいつだっけ、俺の交友関係大丈夫かと思わなくもないが、今の俺には何より優先してやりたいことがあるのでどうしようもない。

そのやりたいことを共有している相手とは付き合いあるしな。目の前の彼女もそうだし。


「村雨さんも明日朝からですか?」

「俺はそうだけど、秋葉ちゃんも朝から行くの? 試合は日曜日でしょ?」

「私まだ新人ですよ。今はとにかくトレーニングしないと」


そういって彼女は小さくガッツポーズをしてみせる。可愛い。


「熱心だねぇ、その格好で言われると部活に行くみたいだけど」

「村雨さんの試合も日曜日って知ってますよ、私。人の事言えないんじゃないですか?」


悪戯っぽく笑って言う彼女の言葉に違いないなと笑っているうちに、気が付けば俺達は駅へとたどり着いていた。


「秋葉ちゃんも電車だよな?」

「そですよ、地元の駅までは一緒ですね。まぁ3駅ですけど」

「ふむ……んじゃ家の近くまで送っていくわ、まぁ日の入り遅くなってきたからまだ明るいけどな」

「え、悪いですよ。お仕事でお疲れですよね?」

「あー大丈夫大丈夫、帰りにそっちの方のスーパーによっていろいろ買い込んでいくから」


その言葉を聞いた彼女の顔に浮かんだ表情は「この時間から?」という風に見えたが一人暮らしのサラリーマンなんてそんなもんですよ、多分。






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