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週末の精霊使い  作者: DP
3.ようこそファンタジー世界
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発熱


ピピッ


最近はあまり聞くことのなかった電子音を聞き、俺は脇に挟んでいた体温計を取り出してその液晶を確認する。


「……38.7度」


体の感じからもしかして39度超えているかなと想像していたが、それよりは低い数字だった。それでも平熱より3度近く高い。


そりゃ起きたら体が重いわけですわ。


体調不良自体はまぁ女性特有のアレでたまにあるけど、ここまで体調崩したのは久々だ。


いや入院とか自宅療養はここ一年でちょこちょこしてたけどな? でもあれは怪我とか一種の過労みたいなものなので、病気が理由の体調不良というのはここ数年は記憶にない。わりと健康優良児だったんですよ俺。


そんな俺が、今回体調崩した理由は明確だ。


いくら夏場とはいえ、風呂上りにあんな恰好で夜中の森を歩き回ったからね。後ルーティさんに運ばれて空飛んだの、気持ちよかったんだけど今考えるとアレもよくなかったな。


そりゃ風邪も引くって話ですよ。


「うー……」


頭痛に顔を顰めながらも立ち上がり、よろよろとキッチンへ。冷蔵庫を開けたら幸いな事にゼリー系飲料があったのでそれを体の中に流し込む。喉が痛くないのは幸いだ。


ちなみにアイスノンの類はなかった。おでこに貼るシートの類もない。残念。普段使わないしなぁ。


とりあえず常備薬の風邪薬を飲んでベッドに戻る。ちょっと動き回っただけなのに非常に疲れた。風邪ひいた時ってこんなんだったっけ?


しかし冷やす系のものが何もないのは参ったね。あと冷蔵庫の中身もさっきのゼリー系飲料以外には調理が必要なものしかなかった。


これでひと眠りして目が覚めたら全快してた……ってならいいんだけど、回復しないで一晩越すとかなるとつらいことになりそう。


──仕方ない、人を頼ろう。


俺は枕元に置いてあったスマホを手に取ると、メッセンジャーアプリを立ち上げてタイプする。


送信先はサヤカだ。


彼女は昨日別れる際に、今日こちら側に戻ってくると言っていた。まだ時間的にはアキツにいる頃だろうが、いつもの傾向通りであれば昼過ぎくらいにはこちらに戻ってくるだろう。


なので彼女宛てに体調を崩したことと、買ってきて欲しいものを並べて送信しておく。


ちょくちょくご飯食べさせたりしてやってるので、こういう時は甘えさせてもらおう……というかアイツは俺がちょっとでも甘えるような素振りを見せると速攻で構ってくるけど。世話したいんだったらもうちょっと家事とか覚えようぜ?


ともあれ、こういう時に隣人を頼れるのはありがたい。俺は到着したら電話鳴らしてくれとのメッセージを最後に送ってから、ふわふわした意識に身を委ねて行った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


耳元で爆音がなった。


「うぉっ!?」


その音量に、俺の体がベッドの上でビクンと跳ねる。同時に急に勢いよく動いたせいか、ズキンと頭が痛んだ。


音の元は、耳元に置いておいたスマホだ。引き続き爆音を流し続けるそれを手に取ると、音の原因はサヤカからの電話だった。そういや彼女がやって来た時にちゃんと目が覚める用に、音量最大に設定しておいたんだったわ。


音が滅茶苦茶頭に響くので俺は急いで通話ボタンを押す。


「サヤカか?」

『ああ、ドアの前に着いた。悪いが開けてもらえないか』

「まってくれ、今開ける」


さすがに鍵を開けたまま眠るわけにはいかなかったので、鍵は閉めたまま。俺は重い体を無理やり起こしてベッドから降りる。


……あー、足に力が入らんな。


時計を確認すると今はまだ昼前だった。


サヤカ、結構早くこっちに帰って来たみたいだな、助かるけど。俺はふらつきながらもよたよたと歩き、玄関の扉の鍵を開ける。


「開けた」


正直外に扉を開くのも怠かったのでそうとだけ声を掛けると、ゆっくりと扉が開いて二人が姿を現す。


そう、二人だ。


そこには、スーパーのビニール袋を手に下げたサヤカと()()()の姿があった。


「へ?」


本来、ここにいるハズのない銀髪の美女。その姿を見た俺は思わず呆けてしまい──その結果壁についていた手の力が抜けた。


その結果、俺の体は支えを失い前方に──


「おっと」


倒れそうになったところで、俺は柔らかいものに抱きとめられた。ミズホが俺がバランスを崩しかけたのを見て、即座に玄関の中に滑り込んで来たのだ。


なんか顔に柔らかい感触がある。……なんかつい最近体験したばっかりの感触だな。


いや、そんなことよりもだ。


なんで、彼女がここにいる? 基本的にアキツの人間がこちらに来るのは許可されていないハズなのに。


頭にクエスチョンマークを浮かべながら顔を上げてミズホの顔を見ると、彼女は何故か少し頬を染めて目を逸らした。


「……?」

「ちょっと……その熱に浮かされた瞳で見られると理性が……」

「そんな瞳になってるなら早く寝かせた方がいいのでは?」

「あ、はい。そうですね」


サヤカの完璧なまでの正論に頷いたミズホは、続けて玄関の中に入って来たサヤカと一緒に俺を抱えると、そのまま二人で俺を運びベッドに寝かしつけてきた。


「悪い……」

「はいはい、病人は気にするものではないぞ。……ちょっと髪をかき上げるぞ」

「ん……」


サヤカの言葉に小さく頷きを返すと、彼女は俺の前髪をかき上げてそこに冷えピタを貼ってくれた。


「とりあえず、これでしばらくは我慢してくれ。アイスノンも買ってきたから冷えたら使おう」

「……さんきゅー」


あー、冷たくて気持ち―……


「他にして欲しい事があったら何でもいえ」

「ああ、今は大丈夫」


そう答えると、彼女はそのまま椅子を引きずってきてベッドの横に腰掛けた。どうやら部屋に戻らず、このままこにいてくれるらしい。


俺としては助かるけど、仕事は大丈夫なんだろうか? 彼女はこっちにいる時は大抵仕事しているイメージがあるんだが……あと、さすがにじっと見てるのはやめて欲しい。さすがに気になります。


とりあえず目が合わないように逸らすと、今度はもう一人の来訪者の姿が視界に映る。


ミズホは購入してきたものを冷蔵庫にしまっているようだった。結構な分量ぽくて明らかに俺が頼んだ以上のものを買ってきてるっぽいんだが、何を買って来たんだ?


なんとなく気になってそちらの方をじっと見ていると、こちらを振り向いたミズホと目があった。


彼女はその視線に気づくと、ニコリと笑みを浮かべてこちらにやってくる。どうやら丁度すべて仕舞い終わったところらしい。彼女もサヤカと同様に、椅子を引きずってきて横に腰を降ろす。


「ユージン、薬は?」

「3時間くらい前かな、飲んだよ」

「食事は?」

「ゼリー飲料は飲んだ」

「喉は渇いてない?」

「……渇いてるかも」


ミズホからの立て続けの問いかけ。その3つ目の問いに俺は少し考えてからそう返した。

そういや割と寝汗もかいたっぽいし、水分も薬を飲むときにしか飲んでなかった。カラカラとまではいかないけど、気づくと渇きが気になってくる。枕元に二人が買ってきてくれた某スポーツ飲料があるから飲んでおくか。


そう思って体を起こそうとすると、即座にサヤカが俺の体に手を伸ばしてきた。


彼女は俺の背中に手を回すと、ゆっくりと体を起こさせてくれる。


そして、そこに今度はストローが突っ込まれたペットボルトが差し出された。


「ありが」

「いいから、このままどうぞ」


感謝の言葉と共に受け取ろうとしたら、口元にストローを押し付けられた。まぁ特に抵抗するようなことでもなかったので、俺はそのままストローを口に含み、こくこくと水分を口に含んでいく。


うまい。味覚はおかしくなってないっぽいかな。


数口含んで喉を潤すと満足したので、ストローをくちから離す。すると、サヤカは即座に俺の体を再び横たえてくれた。


至れり尽くせりだなぁ……病気の時だとこんなに……いや、こいつら普段でも頼めばこれくらいはしてくれそうだな。


普段からこんなことされてたらダメ人間だから頼まないけどさ。







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