深みにはまって行ってる気がするのは気のせいだろうか
エルネストのチームメイト四人全員が、一つの部屋で一緒に眠ったその翌朝。
ホテルでの朝食を丁度終えたあたりで論理解析局の方から迎えが来たので、俺は論理解析局へ出向いていくつもの検査を受けた。
以前性別が変わった時と同様、大部分が見たことのない装置の検査だったのでもう何を調べてるのかさっぱりだったが、一通りの検査結果が終わった後伝えられた言葉は「問題なし」だった。
なにがなにやらわかんないうちに終わったけど、問題ないならいいですわ。
それから俺はセラス局長に呼ばれ、一連の事に関する説明を受けた。
まず最初に俺が瞬間移動した理由について。
どうやら俺の部屋に、いつの間にか二つの場所を繋ぐテレポーターが設置されていたらしい。
勿論そんな技術はこの世界には存在していない(そんなものがあれば、わざわざ10時間前後をかけてグラナーダからロスティアまで車で移動していないだろう)。どうやらどこかの異世界のものの可能性が高いらしい。
というかそんなもんいつの間に人の部屋に設置したんだと思ったら、知らない内に侵入されていたようだ。その形跡があったとのこと。ただしその侵入経路は不明。少なくとも建物の何カ所かに設置されている監視カメラには映っていなかったらしい。
え、それもマジで怖いんですけど。誰にも気づかれずに不法侵入されたってことですよね。俺の住んでるとこ、チームが探してきたかなりセキュリティが高い建物のハズなんですけど。 下手すればあの部屋の中で襲われたってことですよね?
ちなみに発動は、一定の時間でリビングに足を踏み入れると作動するような装置と組み合わせる事で行われたようだ。これにもこの世界のものではない技術が使われていたとの事。
これらの事より、今回の一件は彷徨い人或いはそれに近いものが起こした可能性が高いとの予測が立っていた。無論、そういった異世界からの漂流物を拾ったアキツ人の可能性もなくはないが。
後今回論理解析局の対応がくっそ早かった理由だけど、どうやら深淵の一件やスタンピードの際の調査から何かしらの意図的な関与が疑われる測定結果が出ていたらしい。そのため、スタンピード以降各地の観測レベルの強化と、異常値が確認された場合に即応できる体制を整えておいたそうだ。
その体制があの対応の速さに直結した。
結果として、テレポータなどの証拠物件も隠滅される前に確保できたのは非常に大きいとセラス局長は言っていた。今後は更に調査を進めていくとのこと。
ちなみに許可なしで部屋に立ち入った事は謝罪されたけど、俺としてはそのおかげで助かったので文句を付けるところがない。それにあの部屋で見られたら困る物なんて殆どないしな。まぁ下着あたりは異性……異性? とにかく男には見られたくないけど、その辺だって普通の女の子に比べたら受けるショックは些細なもんだろう。
他にも当事者ということで、今回起きたことに関する調査結果はいくつか教えてもらった。またこれから更に詳細な調査を行ういうことで、そちらに関しても詳細な結果が出たらまた連絡すると伝えられた。
そんな感じで一通り説明が終わり、次は今後の話となった。
俺が、どうすればいいかという話だ。
今回俺が被害を受けたのは偶然ではなく明確に狙われたものだということは、砦に送られたメッセージからすでに分かっている。砦の住人から女神として崇められ、さらに界滅武装の存在によりエニモア側から見れば脅威となる存在だからターゲットにされたのはほぼ間違いない。
そうなると、また狙われる可能性が出てくる。
そう思うのは当然の事のハズだ。だが、何故かセラス局長は暫くは大丈夫だろうと言ってきた。根拠は教えてもらえなかったが。
ただ可能性はゼロではないということで、いくつかの対策は掲示された。
まずアキツ側に滞在時に関して。
一つ目は俺があまり一人で人気の少ない所に行かない事を求められた。これはまぁ当然と言えば当然だし、俺は最近はあまり一人で行動していないし、そもそも妙な所にもいかない。活動範囲は試合関係の移動を除けばエルネストや自宅の近郊、後は一部の街の中心部位。なので問題はあまりなかった。夜泊る場所をどうするかだけ少し考えたくはなるが。
それからエルネスト近郊に関して、論理解析局が監視能力を上げて対応してくれるという話になった。恐らく今回の件に関して、俺の部屋への潜入も異界系のアイテムが使われていると考えられている。なのでそれを強化することで、そういったアイテムの使用を感知して即応するとのことだ。
ここまではまぁ普通かなと思っていた。
問題は次だ。
セラス局長は、どこから出したのか俺の前に二つの指輪を差し出してきた。
なんでもセラス家秘蔵のアイテムで、これを護身の為に貸し出してくれるとのことだった。
一つは体に触れた者を麻痺させる指輪。流石に常時起動している訳ではなく、いくつかある起動手法により起動している時だけ効果を発揮するそうだ。
二つ目は、なにやらそういった異界のアイテムの効果を発動させなくする効果があるそうで、こちらは常時効力を発動するそうだ。こっちも指輪。身に着けてなくてもいいけど、こっちに関しては常に身の回りに置いておくように指示された。
──なんか本格的にヤバいものを渡された気がするんですけど? 私物だからあまり口外しないでくださいねって言われたし!
あ、話していい相手には局長から説明してくださるそうなので、この件に関しては俺はもう考えるのを止めた。
本来ならどっかに護衛付きで保護されるのが無難なんだろうけど、明確に容疑者もわからんしいつまでになるかもわからんからね。出来るだけ行動を制限しないための措置だそうだ。正直ありがたい。
それから日本側に関しても件の指輪は持ち込み許可を出しているのでそのまま身に着けていて欲しいとのことだった。あと向こう側のみで使える機能として、強制的にアキツに移動できる機能があるとのことだった。ただ転送先がセラス家の屋敷になるそうなので、あくまで緊急避難する際にのみ使ってくれとのことだった。
……アキツとの行き来が楽になるかも? とか思ったけど、まぁそんな便利なもんあればもっと有効活用してますよね。
まぁそんなこんなでいろいろと話が終わり、俺はようやく日本へ戻る事が許可された。
本当はサヤカと一緒に帰ろうと思ったんだが、サヤカは一度カーマインに戻る必要があるらしく来た時と同様ミズホ達と同行するという事で、俺だけがロスティアの転送施設から日本へ戻ることとなった。
正直一人になるのがちょっと不安ではあったが、いつまでもそんな事を言っている訳にはいかないか。
……そういや別れ際ミズホがサヤカと一緒にまた明日といって去って行ったが、来週と間違えたのかね。
とにかく謎護身アイテムも貰ったし、基本的には当面は大丈夫そうだってあのセラス局長も言ってたし、不安になりすぎるのはやめよう。
本来の予定より一日遅れで、日本の自宅へ帰る。
夏のクソ強い日差しの中を頑張って歩いて家に着いた時はまだ夕方前だったんだけど、いまだ疲れが残っているのか何もする気にならず、その日はコンビニ弁当の夕食と風呂だけ済ませると前日に引き続き早々に寝てしまった。
一人で寝て悪夢を見ないかなとちょっと思ったが、幸いな事に特に夢を見る事もなくぐっすりと眠る事が出来た。
そして翌日の朝。
俺は熱を出した。




