すやり姫
●第三者視点
「あれ、ユージンさんは?」
レオが自分の部屋でシャワーを浴びてからユージンの部屋に戻ると、部屋の中に主の姿が見当たらなかった。
なのでベッドの横に座り込んでいるミズホに声を掛けると、彼女は静かに振り向いた。口に指を当てて。
その先のベッドでは、ユージンが横たわっていた。ミズホが影になって見えなかっただけだったようだ。
「ああ、寝ちゃったんスね」
「ついさっきね」
今度は大分音量を下げて言うと、ミズホがコクリと頷く。
「中途半端な時間に目が覚めそうだからまだ寝ないって言ってたんだけど、横になったらすぐだったわね」
「やはり疲れていたんだろうな。後は私達がいることで安心できたのだろう」
ベッドとユージンを挟んでミズホの反対側に陣取るサヤカが、ユージンから目を離さずに言う。その顔には柔らかい笑みが浮かんでいた。
「あー、でもだったら俺はもう部屋戻った方が良いっスかね?」
「いてもいいんじゃない? 目が覚めて誰もいなかったらユージン泣いちゃうじゃない」
「いやお二人がいれば問題ないっスよね?」
そういってレオは部屋を見回す。
実はあの後、ホテルの方にいって部屋を変えてもらってある。
元々ホテルの部屋はユージンとレオがシングル、サヤカとミズホでツインを取っていたのだが、そのうちの女性陣二人の部屋をダブルベッドのツインに変えてもらった。ユージンが同室を求めたためだ。
なので一応ここは4人部屋なのだが……レオ以外は女性である。さすがに同じベッドで寝るわけにはいなかないだろう。
そう思って行った言葉に、ミズホが無言で床を指さした。
「床で寝ろと?」
「同じ部屋で寝てれば、アタシ達がユージンに添い寝をしている姿が見れるかもよ?」
「床で寝ます」
レオは即答した。魂の応答なので止められなかった。
が、それから一呼吸おいて改めて確認する。
「いやでもいいんスか? 俺同じ部屋で寝ても」
その問いに答えたのはサヤカだ。彼女はようやくユージンから視線を離してこちらを見る。
「今更だろう。移動用の車の中で寝顔なんて散々見せているしな。それにシャワーも着替えも済んでいる。問題ない」
彼女の言葉にミズホも頷く。
カーマインから直行とは話したが当然チームの車で来るわけにはいかなかったので、一度ミズホの家に向いそこから彼女の車でここまでやって来ている。その際にミズホの自宅から着替えを確保してきているので二人は今は先程とは違う服に着替えてきた。ちなみにユージンも着替えている。ミズホは何故かユージンに会うサイズの服を何着かもっているので。
ちなみにレオは着替えを回収には戻ってないので、服はそのままだ。ただ下着だけは先程コンビニで購入してきたものに穿き替えたが。
「まぁ、お二人がいいならそうさせてもらうっスけど……ホテルに断って布団だけ持って来るっスかね」
レオはそう言うと、頭をポリポリと搔きながら出て行った。
その背中を眺めていたサヤカが、少々呆れ顔でミズホに言う。
「鬼畜だなぁ、ミズホ」
「ユージンの為なら鬼でも悪魔にでも。……ま、それは冗談だけど。レオもなんだかんだで心配でしょうし、だからと言ってアタシ達差し置いてあの子はベッドで寝ないでしょう?」
「別にもう片方のベッドで寝て貰えばいいのではないか?」
「……こっちのベッドに3人で寝る気?」
「ユージンは小さいし行けるだろう」
「でも当人は添い寝は拒否してたわよ?」
「寝付けなくなるからだろう? もう寝てるから問題ない」
「そういう問題かしらね……」
今度はミズホの方が嘆息しながら、視線を落とす。声を抑えているとはいえ横で会話しているが、ユージンは目を覚ます気配はなかった。以前当人が言っていたが、割と騒がしくても問題ないタイプらしい。
少女の容貌を持つ彼女達の同僚は、穏やかな寝顔でスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。
「……赤ん坊みたいな寝方をしてるわね」
仰向けに眠るユージンは、小さく万歳をするような体勢だ。
「フフ、指で触れたら掴んできそうだな」
「あ、こらやめなさい」
いくら声では早々起きないとは言っても触れたら起きる可能性があるだろうに、サヤカが指をユージンの手のひらへと伸ばした。ミズホはそれを止めようとしたがダブルベッドの反対側からでは掴むことも出来ず、結果彼女の言葉も無為なものとなり、サヤカがユージンの手のひらに軽く振れた。
その指を、ユージンが軽く掴んだ。
「……」
「……」
「……」
「いや何か言いなさいよ。というか目を見開いてこっち見ないで」
明らかに挙動不審になったサヤカは、掴まれた指はそのままに何度も顔を上げたり下げたりして、それから
「この子は私が育てようと思う」
いきなりとち狂った事を言い出した。
「いや、ユージン貴女より大分年上だからね?」
「……この姿を見てるととてもそう思えなくなるんだがな」
「それは否定しないけど」
ユージンの普段の喋り方や意識しての動きは以前とさほど変わらず、一年を経て女性らしさは増してきたけど幼さを感じるようなものはあまりない。だけど無意識な仕草や感情が高ぶった時はたまにそういったものを感じる時がある。
そして今の姿はまさしく純粋無垢な幼い子供のモノだった。
「……」
「どうした?」
「えい」
ミズホも誘惑に勝てなかった。ユージンのふにふにした手をそっと押す。
ユージンがきゅっと指を掴んだ。
「……っ!……っ!」
「声にならない悲鳴だな?」
ミズホはコクリと頷いた。
「これは……ダメだわ」
「なんというか……護らねばという気になるな」
「アタシはサヤカみたいな感情は持っていないつもりだけど、これに関しては否定しづらいわね」
「とはいえ……さすがにこのままずっとというわけにはいかんんか」
「そうね。名残惜しいけど……」
二人は頷きあって、指を抜こうとする。
きゅっ。
指を掴む力が少し強くなり、二人の動きが同時に止まった。
「……えと」
もう一度抜こうとすると、穏やかそうに眠っていたユージンが眉を顰めた。
「もしかして、よくない夢でも見ているのだろうか?」
「うなされていたわけじゃないし大丈夫だと思うけど……これは抜けないわよね」
「ああ」
二人は暫く無言で眠るユージンと掴まれた指を眺め……それから同時に顔を上げると頷きあった。
「……まだ早いけど、アタシ達も寝ちゃいましょうか」
「そうだな。強行軍したから運転で疲れがたまっているのは事実だし」
──十分後。
「あ、レオ。悪いけど電気消してもらえるー」
「もう片方のベッド使わないから、そっちで寝ていいぞ」
「マジっすか……もうちょっと早く言ってくださいっスよ」
「そういいつつガン見じゃないの」
自分用の布団を抱えて部屋に戻って来たレオが目にしたものは、ユージンのベッドにもぐりこんでいる二人の姿だった。
レオは一応軽くクレームを入れたが、速攻で視線がバレた。まぁ抱き合ってはいなかったが、一つのベッドの上で身を寄せ合うように寝ている光景なんて、視線が吸い寄せられるのは仕方ない。
「あ、でも流石にアタシ達も寝た後はガン見はだめよ?」
「勿論っス」
さっき二人がユージンをガン見してたけどそれはいいのだろうかと思わなくもなかったが、同性だし尊いから何も問題ないなと1秒で結論付けてレオは頷いた。
やはりエルネストは最高だと思った。
尚翌日目を覚ましてから左右の存在に気づいたユージンが、奇妙な悲鳴を上げる事になったのは言うまでもない。
関係ないですが某はさみまものさんが好きです




