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週末の精霊使い  作者: DP
3.ようこそファンタジー世界
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ボロボロのお姫様


泣きだした俺にルーティさんは戸惑いながらも手を伸ばし、頭を撫でながら大丈夫と何度も言ってくれた。


それは非常に落ち着く声で……いろいろな感情が治まっていく。


と同時に、今度は今の状況が恥ずかしくなってきた。20も半ばを超えた男が人目も計らず号泣、しかも頭を撫でられて慰められるとは……いや、それも仕方ない状況だった、うん。それに今俺小さい女の子だから絵面的にはおかしくないしね☆


……えっと。


「も、もう大丈夫です」


とりあえず俺は涙を腕で拭ってルーティさんを見上げる。すると彼女は撫でていた手を止め、代わりに懐から手ぬぐいを取り出した。


そして、俺の顔を拭ってくる。


「えっと……?」

「お顔が土で汚れてしまっているので」


ああ、さっき助けられた時地面に転がったからその時に腕が汚れてたのか。


今の俺は顔を拭えるようなものは何もないので、ここは素直に甘えておく。


彼女は目元だけではなく頬や顎のあたりまで拭ってくれた。涙も拭いてくれたのだろう。


それから彼女は俺の前に屈んで、全体を上から下へ向けてざっと眺め──眉を顰めた。


「あちこち、怪我されておりますね……これは、メメムの体液を受けましたか?」

「メメム?」

「薄い青色の半透明の生物です。この森の原住生物で、木の上に身を隠し下を獲物が通ると頭上から襲い掛かり全身を包み込んで窒息させて消化します」

「……ああ、多分それです。躱したんですけど、飛沫を受けてしまって」


というか、危なかったんだな本当に。ほんと回避した俺を褒めてやりたい。


「結構全身に受けてしまっていますね。痛みますよね?」

「チリチリとくらいには。激痛って程ではないですけど」

「……先に治療しましょう。そうですね、そこに座って貰えますか?」


彼女の指さした先を目で追うと、そこには倒木があった。確かに椅子にするには丁度良さそうなサイズだが……応急手当をしてくれるのだろうか。それっぽい道具を持っているようには見えないけど、とりあえず指示に従って倒木に腰を降ろす。


するとルーティさんがその前に跪き、俺の手を取った。そして赤くなっている肌の上に手を翳して何かを呟く。


その言葉に応じるように、彼女の腕がうっすらと光を纏った。


「それは……?」

「私は多少ですが、治癒術を使えます。大きな怪我を負われていたら私では力不足でしたが、この程度なら問題ありません。先に治しておきましょう」


おお、ヒーリング。そういやこの人たち、生身で魔法を扱うファンタジーの住人だった。雷とか炎とか出すくらいだし回復魔法を使えてもおかしくないか。それを自分の体で実体験するとは思わなかったけど。人生って何が起こるかわからないもんだね。


……ここ一年の俺はそんなことばっかり起きている気がするが。そもそもさっきだって、普通の人間はスライム状の生物に襲われたりしない。


ルーティさんが俺の体の上に翳した手をゆっくりと動かしていく。そうして彼女の手が通り過ぎると、そこにあった痛みが嘘のように消えていた。赤くなっていた肌の色も元に戻っている。


すごいな、マジで。


もう完全に身を委ねると、彼女は反対の腕、そして太腿から脛のあたりまでも同様に治療していってくれる。


そして足元の辺りまで来たところで、彼女は一度手を止めた。


「この辺りは切り傷や刺し傷ですね。先に汚れを洗い流してからにしましょう。少し染みると思いますが……」

「大丈夫です」

「では」


ルーティさんは腰につけたボトルのようなものを手に取ると、キャップを外して俺の上で傾けた。


透明な水が流れ出る。


透き通ったそれは、俺の足にこびりついた土を洗い流していく。歩き回っている時についた傷に染みるが、我慢できないほどではない。見る間に汚れ切っていた足は綺麗になり、傷だけが目立つようになった。


そこへルーティさんが先程と同じように手を翳すと、その傷もどんどん消えてゆき、ほんのわずかの間に俺の体は元の傷一つない体へ戻る事ができた。


傷みももう、どこにもない。本当にありがたい。


「ありがとうございます」

「いえ……ギリギリでしたが間に合って良かったです」


確かに、あと少し遅れていれば俺はあの怪物に締め落とされていただろう。そう気づくとゾクッとしたものを感じるが、まぁ過ぎた話だ。


それよりも、落ち着いてきて気になる事が出てきた。


「そういえば……よく俺がここにいるってわかりましたね?」


ここがグラナーダの森だとして、アキツに突如現れたこの森はかなり広大だ。見張りのパトロールをしていたとしても、たまたま俺を見つけられる可能性なんてほぼないだろう。特に俺はほぼ声すら上げていないのだ。


そう思って聞いて見ると、彼女はこくりと頷いて答える。


「声が響いたんです、何者かの声が」

「声?」

「ええ、声の主がどこにも見えないにも関わらず、その声は砦全体に響き渡りました」


何かのスピーカーでも使用されたのか? いや、グラナーダの世界観だと魔術の方が可能性が高いか。


「その声はこう告げました。『貴方達の女神を森のどこかに置いてきた。この情報はエニモア側にも伝えているよ──さぁ、彼女の身柄は早い者勝ちだ、競争の時間だね』と」

「……そんなふざけた話を信じたんですか?」

「罠である事を疑いはしましたけどね。王子が即座に飛び出してしまいましたので……」

「ああ……」


あの人、なんか俺そっくりの戦女神さまに執着あるっぽいからなー。


「それにもし真実だった場合問題ですから。大丈夫です、砦の防衛戦力はちゃんと残してきています」

「それで、よく俺を見つけられましたね?」


まだ先の疑問が解消していない。砦の中で戦闘能力をもっていたのは30名だけだったはず。あんな生物のいる夜の森に非戦闘員を探索には出さないだろう、しかもエニモア側の戦力とぶち当たる可能性もあるし。更に防衛戦力まで残すとしたら、多く見積もったって探索に出せるのは半分程度なハズだ。ようするに多く見積もっても15人。広大な森の中を探すにはあまりに少ない。


が、その答えとして想定外のものが返って来た。


「先の声からしばらくして、セラス殿から連絡が入ったのです」

「局長から?」

「はい。彼女から貴女の大体の位置の連絡が入ったたため、この辺りを捜索していた私が急行したのです」


何故セラス局長がと思ったが、よくよく考えれば論理解析局は様々な地点で(よくわからんけど)さまざまな数値の測定を行っていたハズだ。それで俺の出現した辺りで数値の変動を測定したのかもしれない。


これは今度あった時局長にもお礼を言っておかないとな。彼女の連絡がなければ


「何にしろ、相手方より先に見つけて貰えて助かりました。本当にありがとうございます」

「あ、いえ。発見はこちらの方が遅かったです。あの蔦の生物は召喚されたものでしょう」


あ、あっちは原住生物じゃなかったのね。


「さて、そろそろ移動しましょう。他の者にはこちらに来ないように通達しておりますし、別の召喚獣があらわれたら面倒ですから」

「……? なんでこっちにこないように?」


先程の生物が明確に俺を狙って放たれた存在なら、彼女の言う通り他にも現れる可能性がある。だとしたら戦力は多い方がいいはずだが……そう思って問いかけると、ルーティさんは俺の体に視線を落として、


「……その格好で、男性の前には出れないでしょう。見つけたのが私で本当に良かったです」


あ。


そういや俺今シャツにパンツだけだった。しかもシャツボロボロだし。胸の方はなんとかマズイところは隠れてるけど、パンツの方は角度によっては見えちゃうなこれ。


命の危険に比べたら些細な事だから気にしていなかったけど、安心した後だと確かにこの格好で人前には出たくないかも。


「砦で待機している一人に指定の場所まで着替えを持ってくるように連絡してあります。とりあえずそこまで行きましょう……失礼しますね?」


彼女はにっこりと笑ってそう言うと、倒木に座ったままだった俺の背中と膝裏に手を回し俺の体を軽々と持ち上げた。


「え、ちょっと!?」

「飛んでいきますので。しばらくは我慢してください」


うう、お姫様抱っこ……しかも女性に……いや、男にされたい訳じゃないけどな!?





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