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週末の精霊使い  作者: DP
3.ようこそファンタジー世界
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暗闇の中で


俺は割とイレギュラーに弱いというか、意識していないことに対してテンパりやすい事は自分でも理解しているんだが。


それが、この時も出てしまった。


リビングの中で謎の発光。ウチの部屋にそんなギミックはなく、明らかに異常な状態だった。本来であれば、即座にそんな状態のリビングから離れるべきだったのだが……俺は不覚にもその光景を頭が即座に理解せず、立ち尽くしてしまった。


試合中だったらまだこういうのも反応できたんだろうが、自宅で気を抜きまくっていたところだったしな。


その結果、何が起きたか。


光が消えた。


「──は?」


謎の発光が、ではない。いや謎の発光も消えたけど、それ以外の光も消えた。


というか部屋が消えた。


「は?」


そんな言葉しか出てこない。


周囲の光景が一変していた。ほんの一瞬でだ。


最近ようやく慣れてきた感じのある自分の部屋の景色は完全に消え去り、気が付けば周囲は鬱蒼とした樹々が立ち並んでいた。


勿論、俺の部屋に突然景色が森になるギミックはない。というか、見上げれば樹々の間から大きな月と星空が見えた。


天井が吹っ飛んだ? そんなわけがない。


──だんだん、思考が追い付いてくる。


外だ。今俺は外にいる。


何が起きた? あの部屋の発光、そして気が付けば一瞬で自分の居場所が変わっていた。


本来であれば何が起きたかまったく理解できない状況だろう。俺だって、()()()も最初はそうだった。実は自分は記憶を失っていて、夢でも見ているんじゃないのかとも思った。


だが、俺は混乱はしつつも完全にパニックになって取り乱す所まではいかずに済んでいた。


そう、俺は似たような事象を一度経験している。


彷徨い人(ワンダラー)


俺が異世界アキツにやって来た時と同じような事が、今俺の身に起きていた。突然まるで映画でシーンが切り替わったかのように一瞬で視界のすべてが塗り替わる事象。4年以上前に俺の身におきて、俺の人生を変えたあの出来事とまるで同じ事が今俺の体に起きた。──そうとしか思えないだろ、こんな事象。


あの時は日本からこのアキツやって来た。だが今回俺はアキツにいたのだ。なら今回はどこへ?


周囲を見回しても、鬱蒼とした森が広がっているだけで明かりの類は何も見えない。いや、その森自体も良く見えない、照らす明かりは夜空に浮かぶ月と星しかないからだ。


「──っ!」


自分の現状を頭がどんどん理解していくのに合わせ、体がブルっと震えた。


寒さではない。いや、肌寒さは感じるがこれは違う。


恐怖だ。俺は無意識に、その場に屈みこんでいた。


異常事態に対してというよりは、純粋な闇への恐怖。それが俺の心を徐々に犯し始めていた。


どことも知れぬ場所。しかも周囲は真っ暗で、ほんの少し先までしか見通す事ができない。そんな場所に急に投げ出されたのだ、恐怖を感じないわけがない。


以前との時に比べて状況が悪すぎる。


俺がアキツにやって来た時は、出現したのは荒野だった。遠くに街並みが見えていたし、事前に察知していたらしく論理解析局がすぐに接触してきたので、混乱していただけで恐怖はそんなに感じずに事が進んだ。


だが、今は違う。


周囲は見通しが悪く、殆ど先が見えない。ここがどこかすらわからない。恰好は当然部屋にいた時のまま、パンツ一枚の上にだぶだぶのシャツを着ているだけだ。そして


「ひっ……!」


思わず悲鳴が漏れる。どこからか、獣の声のようなものが聞こえた。なんの獣の声かわからない。そもそも獣の声だったのかもわからない。風が何かの間を吹き抜ける音だったかもしれない。


だが、怖かった。


だって当然だろう。突然どこだかすらわからない真っ暗闇の森の中に放り出されて、聞き覚えのない音が聞こえて恐怖を感じないやつがいるか? 男だからとか女だからとかそういうレベルの話じゃない。


状況を理解していく度、恐怖が強くなってくる。今すぐ助けを求めて叫びたい気分だった。


だがそれは踏みとどまる。


明かりの気配がまるでないのだ、周囲に人がいるなんて思えない。むしろ声なんて上げたらよくないものを呼び寄せてしまう……そんな気がする。


どうしよう。状況は絶望的だ。ここで朝まで待つか? 明るくなれば周囲の状況ももう少しわかるだろう。どっちの方向に行けばいいかある程度は、


ォォォォォゥ!


「……っ!」


また獣の唸り声のような音が聞こえて、俺はまた身を震わせる。


だめだ、こんなところでずっと待っているなんて気が狂う。そもそもここがアキツかどうかすらわからないのだ。どれだけ待てば夜が明けるかもわからない。


気が付けば俺は、ゆっくりと森の中を歩きだしていた。


何かの目標となるものを見つけたわけではない。聞こえてくる音から逃れるように、その反対側へとだ。


全く整備されていない地面。その上をぺたりぺたりと歩いて行く。裸足で。


時々、地面に落ちた木の枝や張り出した木の根を踏み、足の裏に痛みが走る。


怖い。


別方向からまた音が聞こえ、そちらから逃れるように歩く方向を変える。先に進めているのかもわからない。同じところをぐるぐる回っているかもしれない。


せめて靴を履いていれば少なくとも移動はしやすかったのに。スマホがあれば──ここがアキツであれば誰かに助けを求められたかもしれないし、電波が通じなくても明かりくらいにはなった。


だけど今俺が身に着けているのはパンツとシャツだけ。心もとないなんてレベルではない。


それでも、立ち止まる事が恐くて歩き続けた。歩いている内に少しだけ冷静に物事が考えられるようになり、夜空に浮かぶ月を目標に進むようになった。同じ方向へ進み続ければ、少なくともこの森からは脱出できるかもしれない。


後、月を見て一つ気づいた事がある。


ここがどの世界か分からなかったが、もしかしたらアキツかもしれないと思い始めてきた。夜空に浮かびこちらを照らす唯一の味方の月だが、アキツの夜空で見るものと同じに見えるのだ。勿論それだけでここがアキツかは判断できないが、少なくとも日本でない事だけは確信できた。論理崩壊(ロジカルブレイク)では人が一瞬で場所を移動した事象もあったハズだ、それが俺の身にも起きたのかもしれない。というかせめてアキツであって欲しい。


天からこちらを見下ろす月に向けて助けを求めるように歩き続けて──どれくらい時間がたっただろうか。少なくとも1時間は立っていない……その程度の時間が経過した時の事だった。


これまでのどこから聞こえてくるのか曖昧いな、うめき声のような音ではないもっと明確な音が聞こえてきた。


それは樹木の枝が大きく揺れる音。何かに踏まれて地面に落ちた樹々がパキパキと折れる音。


何かが移動している音だった。それが、虫の鳴き声さえ聞こえない森の中に響き渡る。


音の感じからして、小動物ではない。明らかに大きなサイズの何かが移動している音だった。


──どうしよう。


息を顰めて考える。


すぐに逃げ出すべきだろうか? だが移動している何かがこっちに気づいているかはわからない。下手に動いたら逆に気づかれるかもしれない。このまま息を顰めていればやり過ごせるかもしれない。


「……っ」


頬を何かが伝うのを感じる。


涙だ。自然と涙が零れ落ちている。


先程から俺は何度も泣いていた。そしてその度に腕で拭っては前に進んで来た。だがそろそろ精神が限界に近付きつつあるのを感じていた。


「ひぐっ……」


思わず、喉から呻きが漏れた。漏れてしまった。


そして。その音で感づいたのか、別の理由かはわかないが、何かの移動するの向きが変わった。


──こちらに向かっている!


そう気づいた瞬間、俺は駆け出していた。背中を向けたら不味いとか、どこに逃げようとか等一切考えず、ただその音の主から逃げないと、という思いだけが心を支配していた。


素足に刺さる痛みも無視して後方へと後ずさり、それから身を翻して音の反対側へと逃げようとして──


その瞬間、何かが飛んでくるのが視界に入った。











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