B1リーグ第5節フェアリス戦②
本来、ウチのチームは短期決戦を狙うようなチームじゃない。
高火力型のタイプがいないからな。一気に相手を落とすというのは不可能に近い。C1でやった全開駆動開幕狙撃も例え初弾はあてられたとしても、その後の追撃までくらうような奴はこのリーグにはいないだろう。
だが、動く。事前に決めていた事だ。
「リゼッタさんがこっちに来た! なんでケース8のパターンで行く!」
今回、事前に大分行動のパターンを決め、それぞれに番号を振ってある。その番号の一つを俺は通信機へ向かって叫ぶ。
返事は即座に帰って来た。
『8って事は私からだな!?』
通信機から届くサヤカの声。その声の響きには歓喜が含まれていた。当人は乗り気だったからな、この作戦。
パターン8は短期決戦の符丁。その狼煙を上げるのはサヤカの役目だった。
『行くぞ、全開駆動!』
今回の試合、ウチのチーム側に有利な点が一つある。
それは、前の節の試合が現在B1で1位を独走しているチームであった事だ。
──正直情けない話になるんだが、前期はAリーグ9位だったそのチームは明らかに今のウチのチームでは歯が立つ相手ではなかった。包み隠さず言えば、試合開始直後からわりと好き放題やられてしまった。
なので、俺達は力を温存した。
真面目に戦わなかったわけではない。ただ全開駆動、そして魔術は行使しなかった。
それはどうなんだと思う人もいるかもしれないが、むしろこれは当然の行為だ。
以前語ったと思うが、全開駆動、そして魔術の行使によって消費された霊力は普通に消費した時よりも回復速度が遅くなる。そのため普段であれば次の試合までには全快する霊力も100%まで戻らない可能性が出てくるから、全開駆動と魔術の行使はその試合だけでなく次の相手も考えて使用する必要があるのだ。
勿論魔術を使う事で一発逆転が狙える目があったり、その試合が絶対に落とせない試合であるなら使っていくのは有りだ。だけどあの試合は正直魔術を使っても勝ちの目がなかったし、今期は昇格したばかりで優勝あるいは2位に滑り込む目はない以上、必ず勝たなくてはいけない試合でもなかった。だからある種切り捨てたのだ。
その結果、今日の試合にはウチのメンバーは全員霊力満タンで参加できている。
それに対しフェアリスは前の節の相手は前期3位のチームだった(フェアリスは前期4位)。
彼女達はその相手には何とか勝利したが、お互いかなり削りあった上に前衛組二人が魔術を使用したため、今試合は最初から多少霊力が減った状態で参加している。
──それでも、打撃戦をやったら向こうの方が上だけどな。奇襲以外で短期決戦をするならそれこそ打撃戦だが、俺もミズホも得意ではない戦い方だ。だけど、もしリゼッタさんが俺を狙ってくるようであれば短期決戦に持ちこもうと皆で決めてあった。
その理由の一つが、レオが相対しているパウラさんにある。
彼女は今回、あまり積極的にはレオと殴り合っていない。元々霊力が減っている上に、相手が今や精霊使いでもトップクラスの霊力タンクであるレオだからだ。彼女の役目はレオを倒す事ではなく、足止めだろう。
好都合だった。何せレオの霊力に余裕が出るからな──
「いけっ、サヤカ!」
『応っ、【刀神演舞・天下五剣】!』
彼女の言葉に精霊が応じ、機体の周りに五振りの刀が展開される。
その瞬間、向かい合っていたファニィが後方へ飛び退った。それを追いかけるように、サヤカの生み出した刀の内二振りが叩きつけられる。──が、すんでの所で回避。
だが、サヤカの魔術は火力はそこまでではないが、精度としては優秀だ。いつまでも躱し続けられるものではない──精霊駆動のままでは。
追撃。今度は腕に一撃が届く。ファニィの機体はその勢いに弾かれ横に流れる、そこへ更に二振の刀が叩きつけられ、
次の瞬間、ファニィの機体の動きが爆発した。
無論、言葉の通りではない。爆発的な加速を見せたのだ。
アージェス・ファニィの魔術、【暴れ猫】。その効果は単純で、パラメータの上昇。即ち速度や旋回性能があがり、その結果攻撃力もアップする。
『これは、凄いな……!』
先程迄どんどん彼女の機体を追い詰めていったサヤカの攻撃はまるで当たらなくなり、代わりにファニィの攻撃が届き始める。サヤカはそれをなんとか刀で捌くが、どう見ても捌ききれる速度ではない。
この魔術を使用したファニィの近接は、Aランクでも手を焼くレベルだ。魔術で動きを止める、或いは距離をとって外から叩く。そうしなければこちらが一方的に削られていく。我々の中では近接で一番のセンスを持つサヤカでも対応しきれない……これは事前に分かっていたこと。
だから、計画通りに次の手を打つ。
『【沈む世界】』
ほんの数秒の間に立て続けに放たれる次なる魔術。放ったのはミズホだった。
彼女の言葉に合わせ、圧倒的な速度を叩きだしていたファニィの機体の速度が落ちる。それでも充分に速いが──
「サヤカ、行けるか?」
『この速度なら問題ない、こちらは任せておけ!』
自信に満ちた回答が返ってくる。
事前の検証でも、ミズホの魔術で速度を落とせばサヤカで対抗できるという評価が出ている。そしていざ相手の動きを目の当たりにしたサヤカが任せろというなら、チームメイトとしては任せるだけだ。
ここまでは作戦通り。
リゼッタさんも魔術の効果範囲にのまれ、その速度が落ち込む。
──実は、ミズホの魔術の主目的は彼女の速度の軽減だった。
だが、ファニィの魔術も同効果範囲に収める必要がある。だからリゼッタさんとファニィが双方とも効果範囲に入るうちにサヤカは全力戦闘をしかけたのだ。
さて、ここまできたらのんびりしている暇はない。口火を切った以上、作戦は粛々と遂行する。
「タマモ、全開駆動だ」
二人に続いて、俺も全開駆動へ移行する。声は聞こえないが、レオも全開駆動を起動したはずだ。
そして俺は移動を開始する。後方へではない、前方にだ。
今の彼女のポジションであれば、位置交換を喰らっても対して問題はない、レオの戦域は少し離れているしファニィはサヤカと壮絶など突き合いの最中だ……あそこの戦闘、割と早く終わりそうだな、双方がガンガン削れてる。
一番注意すべきアルファは、ミズホと中距離で撃ちあっていた。彼女の魔術は射程がそう長くないから、現状は脅威ではない。
俺はリゼッタさんの機体をやや迂回するようにして前進する。ミズホと合流する動きだ。それと同時に視線をモニターの左端に移す。目的はレオの霊力ゲージ。
そのゲージはごそっと減っていた。まぁそれでも相対しているパネラさんより少し少ないくらいではあるが。
相変わらずパネラさんは引き気味の戦い方で、そんなごそっと減るような攻撃を繰り返した気配はない。そして全開駆動で戦ってもそこまで一気に減る事はない。
なら何か。ここまで霊力が一気に減るものと言ったら一つしかない。
レオが、魔術を発動したのだ。
当然、向こうも霊力ゲージの減りようから、レオが魔術を使用した事には気づいているだろう。だが、何をしているかは理解していないハズだ。
今回のウチのもう一つのアドバンテージ。それはレオの魔術の効果が知られていないことだ。現状シミュレーターでしか使った事がないからな。
一見戦場には何の変化も起きてないように見えるが、すでにそれは出現している。
注意深く見ていればわかるのでもしかしたら、出現したそれには気づかれているかもしれない。だがそれが何をするものかはわからないハズだ。
それらは言葉通り地を這うようにして移動していた。その向かう先は──俺とミズホの機体。
同様に俺とミズホもリゼッタさん達に攻撃を加えながら、それに向けて移動する。
──あ、気づいたな。明らかにその移動経路から外れるようにリゼッタさんが動く。まぁ得体のしれないものに近寄りたくはないだろう。実際そいつは攻撃も出来る。
だけど今はそっちの用途じゃないんでな。
そしてそのままそいつは俺等の元迄滑るようにやってきて──次の瞬間、モニターが赤茶色に染まった。




