B1リーグ第5節フェアリス戦①
「始まったか……」
モニターに映る光景を眺めつつ、そう独り言ちる。
モニターの中拡大されたウィンドウの中では、正面からぶつかりあう精霊機装の姿があった。
最前線の二人、レオとサヤカが向こうの前衛と交戦を開始したのだ。
それぞれの相手はサヤカの相手が向こうのエースであるアージェス・ファニィ、レオがパウラさん。
ここまでは、予定通りと。
ミズホと俺はすでに交戦を開始している。俺はミズホに攻撃が集中しないように相手側の攻撃を妨害するのを優先して攻撃を加えていく。まぁいつも通りだ。
しかし、予想通り開幕ぶっぱなしはしてこなかったな。
魔術使用可能となるBランク以上では、試合開始直後に全開駆動になって一気に形勢を崩そうとしてくる場合もある。魔術使用ではないが以前俺がCリーグでやったような形だ。
基本的には実力下のチームが一か八かでやるようなギャンブル性の高い戦法ではあるが、高火力の攻撃を持っているチームであれば有効な手段の一つではある。
そしてフェアリスには【ドゥームズデイ】という、威力だけなら間違いなく最強クラスの威力を持つ魔術を行使する精霊使いがいる。
なので99%ありえないと思いつつも1%の可能性から念のため警戒をしていたが、向こう側に全開駆動に入った気配はなかった。
勿論、相手側が今何のモードかなど表示されているわけではないんだが、相手の動きと霊力ゲージを注視して置けば概ね気づくことができる。
この技術は重要な技術だ。全開駆動から繰り出される魔術によって、優勢に進めていても一気に形勢逆転されるケースも多い。だから相手が今どの状態にあるかを把握しておくことは非常に大事なこととなる。
そして、ウチのチームではその役目は基本的に俺の役目だった。ポジション的に全体を俯瞰的に見れるからな。
とくに今回は戦局をひっくり返すレベルの術士が二人いるわけで……俺の役割は非常に重い。
今回は本当に脳みそやられそうだな。
昨日話し合った通り、位置取りの問題もある。今回は処理しなければいけない情報量がヤバイことになりそうだ。しんどい事になるのは間違いない。
試合後はまたおんぶされることになるかもなっと……!
相手の動きに反応し機体を横へスライドさせると、その横を銃弾が通り過ぎて行った。あっぶねー。
攻撃の主はリゼッタさんだ。まだ距離があるからと思っていたが、今のは咄嗟に動かなければ直撃していた弾だった。ラッキーヒットか狙いすましたモノかはわからないが、攻撃に関しても油断させてくれることはなさそうだ。
全く、本当に忙しくなりそうだな!
戦域は確定しつつある。
前衛二人はそれぞれタイマンだ。
この二組に関して言えば、素の状態であれば充分に対等に戦える相手だ。しばらくは任せっきりでいいだろう。
動きがあれば二人が知らせてくるだろうし、幸いなことにあの二人の魔術は発動したら即致命傷などという類のものではない。発動を認識してからでも対策は出来るレベルだ。
厄介なのは残りの二人。戦況が動くまではそちらに意識の大部分をさく事にする。
フェアリスの魔術を除いた実力部分はこちらとそう大差はないとはいえ、それでもB1で上位につけるレベルではある。しかも残る二人は近接よりの相手ではなく射撃よりの相手だ。4機全体に意識を払いながら相手に出来るレベルではさすがにない。そんな事してたら俺が被弾しまくるか、動きを抑え込み切れずにミズホが集中砲火になるかどちらだろう。なので状況が動くまでは二人に集中だ。
特にリゼッタさんの動きからは絶対に目を離してはならない。俺との相対距離だけではない、彼女の味方との距離もだ。その為にも俺はリゼッタさんの機体に攻撃を集中させて、彼女の動きを制限させる。彼女が他の味方機体とある程度の距離が離れていれば、彼女の脅威は大分落ちるからだ。
だから俺はノイエ・アルファとの距離が離れるよう、誘導するように攻撃を加えていく。
無論それ一辺倒ではないが、その意図はあちらも気づいているだろう。が、それは構わない。どうせどこのチームも似たような戦法とるからな、二人のコンボ魔術回避の為。
向こうがこちらの誘導を無視して突っ込んでいくなら、攻撃の威力を上げて削る方向へシフトするだけだ。
だが、今の所向こうもそのつもりもないようだ。というか、リゼッタさん俺を相手取るつもりだな。先程迄はミズホに向けていた攻撃も、大部分こちらへ切り替えてきている。
それでいいんですかね、リゼッタさん。割とその行動はこっちの理想に近い行動なんだけど?
単体で動いているのであれば彼女の魔術はそこまで脅威にならないし、魔術無しの長距離戦で俺を倒そうと思っているなら俺の事を甘く見過ぎだが……
いや、違うな。さすがにそんな愚かな選択を仮にもB1所属のチームがするハズはない。
となればこれは──俺に対する突撃か!
「一番嫌な所選んできやがったな」
気づいた俺は、思わず舌打ちする。
この戦法は、うちが尤も選んでほしくない戦法だった。
……まぁ向こうが現時点では格下のうち相手にまできちんと戦術を考えてきていたら、選ぶ可能性が高いとは思っていたが。
チームフェアリスはアイドルというエンターテイナーの職業についているせいか、格上や同格ならともかく格下相手には相手の急所をついて一気に試合の形勢を決めると言った戦法はとらない傾向がある。勝利だけではなく、視聴者を楽しませるような試合をして勝つ。それが彼女達の方針なのだろう。
だから昇格組である俺達に対しても、その選択はしてこないことを期待していたのだが……どうやら少なくとも同格くらいには見てくれているようだ。
単純に精霊使いとしては嬉しい事ではあるんだが、いざ試合となると格下に見てくれている方が助かるんだがな……面倒な事になった。
うちのチームに対する戦術としては、俺に対して突撃を掛けてくるのは珍しいことではない。特に【八咫鏡】によって俺の危険性があがってからは、近寄りさえすれば簡単に落とせる俺をターゲットにするのは理にかなっている。
なので当然俺もそれに対するシミュレーションは徹底している。
基本的には引きながらの反撃だ。時には振動爆弾も利用して下がりながら攻撃すれば、そう簡単には捕まらない。無論戦闘エリアは無限ではないのでずっと逃げ続けることはできないから最終的にはミズホと合流するように動くが、その頃には戦闘の趨勢は決まっているのが大抵だ。俺としても敵一機を引きつけているのでちゃんと仕事はしているしな。
二機同時突撃を喰らうとさすがにどうしようもなくなるが、相手側の方が数が多くない限りはそのパターンはまずありえないので四機編成となった今では問題ない。
だから本来は俺への単騎突撃はそこまで気にすることではないんだが……相手がリゼッタさんの場合話が変わってくる。
彼女相手の場合、逃げながらの反撃という手は使えない。いや、使えなくもないがあまり後方へは下がれない。
彼女を引き連れて主戦場から離れてしまうと、彼女が魔術を使った場合に戦線が崩壊するからだ。
俺が離れ、更に主戦場に残っている誰かと位置交換をされた場合、主戦場の戦いは二対四の状態になる。そうなったら最早どうしようもない、俺達が戦線に復帰するまでに残された二人はボロボロになっているだろう。
じゃあ単純に待って迎撃するか? それもない。リゼッタさんは近接がメインではないが少なくとも俺よりは強い。正面からぶつかったら負ける。
ならばどうするか。そうならないことを望んでいたが、可能性としては考慮していたので方針は決めている。
──さぁいこう。短期決戦だ。
勢いだけで書いたTS娘の出てくる短編も書いたので、よろしければそちらもお願いします。
5年ぶりに再会した幼馴染の押しが強い
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