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週末の精霊使い  作者: DP
3.ようこそファンタジー世界
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小柄な少女


声の主は小柄な少女だった。


といっても、俺よりは背が高い。おおよそ150cmちょっとくらいか? きらめく金髪に吸い込まれるような碧眼、その顔にはまだ幼さを感じさせる美しい少女。


その少女の顔には、今は先程の声と同様のものが浮かんでいる。そう呆れだ。


そして少女はその表情のまま言葉を続ける。


「今度はユージンさんですか。本当に節操がありませんね、貴方」


そう呟く少女は、先程の俺と同じように汚物を見る目でリングスの事を見つめている。


「ス、スタンシエナ……」


その姿を見たリングスの挙動が、明らかに不審なものになる。いや元から不審者だったけどな。


視線が泳ぎ、挙動が怪しくなる。動揺している人間のそれだ。


そんな彼に対して、少女はにっこりと笑みを向けた。ただし瞳だけはそのままで。


「私の時と同様にまたチームの方からクレームを入れさせて頂かないといけないかしら。貴方、アズリエルの二人やニエナさんにもちょっかい出そうとしたらしいですね」


マジかよ。


ニエナというのは現在B2リーグに所属している若手の精霊使いだ。確か秋葉ちゃん達の一個上だから今17くらいか。やはり幼さの残る少女である。


秋葉ちゃんと金守さんは言わずもがな。


うわぁ……。

見事に実年齢か外見のいずれかが中高生クラスにばっかりじゃん。


しかもそんな子達にこんなしつこい事してたのだとしたら、カスオブカスだなぁおい。


そのカスオブカスは俺と少女の二人の間で何度も視線を泳がせ、最終的には小さく舌打ちすると無様に立ち去って行った。


ふう……ようやく解放されたか。


ほんと同業者とかにああいうのがいるとマジ困るよな。


そう思いつつ、俺は立ち上がると俺は少女に頭を下げる。


「スタンシエナさん、助かりました。本当にくっそしつこかったので」

「いえいえ。あの方の評判地に落ちてますので、もっと雑に応対してしまって大丈夫ですよ?」


先程リングスに向けたものとまるで違う、彼女の愛らしさを前面に出した笑顔でそう返してくるその彼女は顔見知りであった。


とはいえ、本当に顔を合わせて少し会話したくらいではあるが。


少女の名はリゼッタ・スタンシエナ。以前ロスティアのホテルで一緒に撮影を行った、チームフェアリスの精霊使いである。


彼女は言葉を続ける。


「単純に告白だけでしたら一応問題ない範囲ですのに、あのしつこさですからね。各チームから抗議が行っていて、所属チームから厳重注意されているハズなんですが。本当に懲りない人ですね」

「スタンシエナさんも以前?」

「ええもう。あまりにもしつこいので、事務局とチームに速やかに通報させて頂きましたわ」


誰に対してもあんなんか。秋葉ちゃん大丈夫だったかなと思うけど、金守さんが一緒だったなら大丈夫な気がする。あの二人はこっちの世界ではほぼ一緒にいるハズだし。


「ユージンさんも、一度チームの方からクレームを入れてもらった方がいいですよ。それでアレは絡んでこなくなります」


大の大人がチームを巻き込むのも……などと思ったが、そもそも大人だからこそこういった事はきちんと抗議した方がいいな。あとマジであのしつこさはしんどい。エンカウントする可能性は低いだろうが、妙な所で捕まっても嫌だしな。なのでスタンシエナさんに対して頷いておく。


「ふふ……ユージンさんはお可愛らしいのですから、もう少し警戒しないとダメですよ?」

「あはは……気を付けます」


その笑みを少し悪戯げなものに変えた彼女の言葉に、俺はそう返す。


正直あそこまでしつこいとは思っていなかったからな……。ミズホから多少ナンパとかのあしらい方は学んでいるけど、あれはそういうレベルじゃなかった。あまりこっちの話を聞いていないというか人の言葉が通じないというか。あれで日常生活まともに送れるのかと思えるレベルだ。


さすがに事務局の施設内だから妙な行動には出ないだろうと思ってたけど、冷静になるとあれ何するかわからん怖さもある。今度からヤバい奴に遭遇したと思ったら即座に退避しよう、精神的に疲れるし。スタンシエナさんの言う通り、あんなの適当にあしらったところでこっちに悪評がつくとかは全くなさそうだからな。


いや、でも本当に助かったわ。


俺はそう思いながら改めて彼女を見る。


先程彼女は俺の事を可愛らしいといったが、その言葉は正直なところ彼女に掛けられるべき言葉だろう。


チームフェアリスの最年少、リゼッタ・スタンシエナは掛け値なしの美少女だ。俺自身外見は美少女の部類に入ることは認識しているが、彼女はこういっちゃなんだが格が違う。他の面子もそうだが、さすがに高い人気を誇るアイドルグループのメンバーって事だ。国民的美少女って奴?


その国民的美少女(俺基準)が笑顔のまま言う。


「ところで、今少しお時間よろしいでしょうか? 実は貴女の事を丁度探しておりまして」

「へ? 私をですか?」


さっきも述べた通り、俺と彼女は面識はあるものの特に接点はない。


はっ、もしや以前のパネラさんみたいに負けないわよ的な!?


そう思ってちょっと身構えてしまった俺に、だが彼女が取った行動は頭を下げる事だった。


「ウチのユリアが二度もご迷惑をおかけしたそうで……申し訳ありません」


ユリア……ユリア? ああ、パネラさんか!


スタンシエナさんから謝罪の言葉が出る理由がすぐには理解できず一瞬ポカーンとしてしまったが、次の瞬間には彼女がチームメイトのしでかした事に対して謝罪していることに気づいて、俺は慌てて両手をパタパタとふる。


「スタンシエナさんが謝る事ではないですよ!」

「ですが」

「そもそもパネラさん自身に謝罪はしてもらっているので!」


パネラさんは思い込んだら一気に突き進む直情型ではあるが、悪い人間ではないのは分かっている。わざわざチームメイトにまで謝られる理由はない。


俺の反応に、彼女は顔を上げてくれた。わかって貰えたようで助かる。こっちが悪いと思ってないことを謝られるのって割としんどいしね。


それで、彼女の用件はそれだったのかな? と思っていたら、彼女は先程まで俺が腰かけていたベンチにゆっくりと腰を降ろした。


「ええと?」

「もう少しお時間ありますか?」

「チームメイトが来るまでなら」

「それでは少しお話しませんか? 今日貴女を探していたのはユリアの件の謝罪もありますが、貴女とお話したいというのもあったのですよ」

「私と?」


俺の言葉に彼女は頷く。


「以前の時は時間がなくてお話しできませんでしたので。……ユージンさんとはお話したかったのですよ」


そう言いながら彼女がポンポンと自分の横を叩いたので、俺は従って腰をおろす。


そしてストレートに疑問を口に出してみた。


「ところで何で俺と?」


その問いに、彼女の頬にうっすらと朱が滲んだ。


え。何その反応。というか、さすがに人気アイドル。レベル高すぎてそっち系あまり興味ない俺でもそんな反応を見せられてしまうと「あ、これは不味い」と思ってしまう。特にこの子は美少女系だからなー。美人系は毎週長時間顔合わしてる上に距離感が近いのが二人いるから耐性できてるんだけどな。


そんな彼女は、ちょっとだけ目をそらし言葉を続ける。


「あの、少し失礼な事なんですが」

「はい」

「私より小柄な精霊使いの方は初めてでしたので……」

「あの、私はアイドルはやる気はないですよ?」

「そんなユリアのような事は言いません」

「あ、はい」


そういやスタンシエナさん年齢確かまだ19歳くらいのはずだからパネラさんよりは年下のハズだけど、割と辛辣だな? 多分チーム内でそういうポジションなんだろうなぁ、パネラさん。目に浮かぶよ……。
















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