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週末の精霊使い  作者: DP
3.ようこそファンタジー世界
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追加イベント


ちょっとしたミニイベントがあったわけだけど、それも無事終了。


後はこのままミズホの車でこっちの俺の自宅に向って終了──じゃねーや、食材買って帰らないと。


俺のアキツ側の自宅には一応冷蔵庫は置いてあるが、その中身は飲み物と日持ちがする食材がいくつか入っているだけでほぼ空っぽの状態だ。


なにせあの部屋、基本的に週に一泊するだけだからな。それだけなのにやたらいい部屋住んでるけど。まぁこっちの方は別に金銭的な余裕があるので、そこは問題ないんだけどな。会社おすすめの場所でセキュリティとか確かにしっかりしているし。


で、だ。そんな扱い方なので、そこで食べるのはせいぜい土曜の夕食と日曜の朝食くらいがせいぜい。しかも土曜日の夕食は大体の場合は事務所なりなんなりで食べて帰っちゃうから、実質部屋で食べるのは朝食くらいだ。


そんな場所に食料を備蓄しているわけないわけで。


じゃあなんでこれから食材を買って帰るのかというと、これからミズホに食事を振舞うためだ。


俺がたまにサヤカにメシを作っていることを以前ミズホが知った時にした約束の履行、兼お世話になっているお礼である。


散々言っていることだが、ミズホに関してはこちらの私生活でめちゃめちゃお世話になっている。なのでちょくちょくお礼の意味で要望を聞いているんだが、最近はこの食事を振舞うのが定例化してきた。


俺としては全然楽だし、ミズホも別に気を使ってではなく純粋に嬉しいみたいなので部屋を借りてからは月一くらいで食事を振舞っている。


んー、今日は何を作るかな。店に行く前に考えないと。


俺は一歩下がった位置を歩いているミズホに顔だけ向けて、声を掛ける。


「なあミズホ」

「なにかしら?」

「お前、今日は何かリクエストがあるか?」


今までは割とミズホの知っている好物あたりから想定して料理を作っていたが、数回を終えてそろそろレパートリーが無くなってきた。


勿論俺は料理人じゃないからそんな複雑な料理は作れないが、自炊歴も長いので簡単なものならリクエストにこたえられるハズだ。


そう思って聞いて見たんだが……


いつもはレスポンスの早いミズホが、だが今回は即座に反応を返してこなかった。


それどころか、面食らった顔で足を止めて──え、ちょっと待って、頬が少し紅い?


「ミ、ミズホ?」


想定外の反応に思わず体全体で振り返って彼女の顔を覗き込むと、ミズホは両手で薄っすらと紅のさした頬を隠し、


「あはは……ごめん。なんか今の感じが新婚夫婦っぽいなーって思っちゃったらちょっと照れがきちゃった。思春期の女の子みたいで恥ずかしいわー」

「お、おう……」


いや、いつもの若干コメディっぽい反応じゃなくて、そんな素の反応を見せられるとこっちも対応に困るんだが!?


「ごめんごめん。んー……よし!」


一度目を瞑ってから気合いの入ったその声と共に彼女が手を降ろすと、彼女の頬にさしていた紅はすでに引いていた。


この辺りはさすがだ。


「って、あら。今度はユージンのほっぺが」

「うっさい」


俺はキャップのつばを下げて、ミズホから顔を隠す。


「そんなことより、リクエストは?」

「あー、うん。ユージンにお任せでいーよ? 何が出てくるのかも楽しみの一つだし」

「それ一番困るやつなんだけどな……ま、わかった。スーパー行って食材見て決めよう」


事務所近くのスーパーなら今はもう気づかれても大して騒ぎにはならないので、そこで買い物すれば問題ないだろう。


時間的にはまだ昼過ぎだ。今からだと遅い昼食になる感じになるかな。それとも昼食は何か軽くつまめるものを買って、早めの夕飯にするか?


この辺りだとファーストフードの店とかもあったよな、確か。


そう思って先程降ろしたキャップのつばを上げて、周囲をきょろきょろと見回したその時だった。


「あーっ、ユージン!」


周囲に名を呼ぶ声が響き渡った。


「えっ……」


それが俺の名だと理解する、それより前に今度は俺の体が横に引かれる。


ミズホが俺の左の脇に自分の腕を絡め、俺を引っ張ったのだ。


「えっ、ちょっと、ミズホ?」


困惑する俺の言葉には答えず、彼女は俺の腕を引いたまますぐ側にあった店に飛び込む。


「いらっしゃいませー。あ、これは」

「ごめん、裏いい?」


そこは、ちょっとしたアクセサリーなどの小物などをメインで売っている店舗のようだった。


駆けこむように入って来た俺達に店員が営業スマイルと共にかけようとした言葉を遮り、ミズホがそう声を放つ。


すると店員が何かを察した顔になり、店舗の中の一角にある扉を指さした。


「……バックヤードへどうぞ」

「ありがと!」


店員の言葉に頷くと、ミズホは完全に状況が飲み込めていない俺の顔を抱きかかえるようにしてその扉へ向って行く。俺はもう為されるがままその扉へと引きずり込まれた。


「ふう……」


そこでようやく、ミズホが俺から身を離した。そして安堵の表情でため息を吐く。


「とりあえず、これで大丈夫かしらね」

「えっ、何? え?」

「あーごめんね。ここ私がよく利用しているショップでね、以前似たような状況になった時匿ってもらったことがあるのよ」

「こういう時って?」

「身バレしそうになった時」

「……なるほど」


展開が急だったんでちょっと頭が付いていってなかったんだけど、冷静に考えれば名前を呼ばれたという事は誰かにバレたということだ。


「この店のすぐ側で良かったわ」


それをミズホは一瞬で理解して、しかも即場に判断してここに匿ってくれたわけだ。咄嗟の判断力が凄まじい。おかげで注目を浴びる事なくすんだのはマジで感謝だ。


「ありがと、助かった」

「ふふ、嫁を守るのは旦那の務めだもの」

「夫婦じゃないけどな」


ここで逆じゃないかとかいうと、「あら私をお嫁にしてくるの」とか振ってくるので事前に緊急回避だ。


おいこら残念そうな顔すんな。


「ここでしばらく時間を潰させてもらいましょ。多分15分か20分か待ってれば落ち着くと思うわ」

「それくらいで治まるもんか?」

「大丈夫よ、今回の場合は発見者の方に人が集まるから」

「?」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


結局20分程バックヤードで雑談をしながら時間を潰し、それから少し商品を見て買い物をしてから俺達は店を出た。


購入したのはバレッタだ。選んだのはミズホ。今度出かける時に使いましょと言われて半ば強引に買われてしまった。


本来であればいろいろなお礼に俺の方が買うべきなので、じゃあ、とミズホが自分で選んだのは俺が買った。


……なんだかプレゼント交換みたいになったな。別段今日はデートってわけでもないんだが。


ま、それはそれとして。


店を出ると、そこで一人の女性が待っていた。


ひどく疲れた顔をしているその顔には見覚えがある。


ユリア・パネラだ。フェアリスの精霊使い。以前俺に勘違いから宣戦布告をしてきた女性である。


「久しぶりねユージン……オーゼンセさんも」

「ユリアちゃん、久しぶり。無事まいてきた?」

「ええ。その、申し訳ありませんでした」


言葉にも疲れが見える彼女は、ぺこりと大きく頭を下げた。


「えっと、つまりさっきの声は」

「私。その、顔をみたらつい声を上げちゃってごめんなさい。ちゃんと群衆は別の場所に誘導してきたから許して……」


以前の時と違い、最初からそう下手に出てこられると文句を言いづらい。というか


「よく俺ってわかりましたね?」


声の感じからして、そこまで近くは無かった気がするんだけど。

それに対して答えを返してきたのは彼女ではなくミズホだった。


「この子は、そういうの鋭いのよ。この程度の変装だと遠くからでも見破るでしょうね」


苦笑しながら言うミズホの言葉に、褒められたのが嬉しいのか先程まで浮かべていた申し訳なさそうな表情を吹っ飛ばしてドヤ顔を浮かべる。


ちょろい……ミズホに懐いているのかな、この子。


まぁ、それはともかくとして。ちょっと疑問に思う事があるので、俺は聞いて見る事にする。


「ところで、なんで俺を見てあんな大声を上げたんですか? 以前説明した通り、こっちはアイドルになる気なんかありませんよ?」

「残念ながらね」


残念じゃねぇよ。もしまかり間違ってやる流れになったら確実にお前も巻き添えにするからな。


「丁度、貴女に関する記事を見ていたところだったのよ。だから、つい」

「俺に関する記事?」


ここ最近は俺が記事になるような話題はなかったはずだが? 先週はちょっと取材受けたけど、その雑誌はまだ発売されてないはずだし。B1への昇格はあったが、それは今更だろう。思い当たる節がない。


なのでちょっと聞いて見る。


「一体何の記事ですか? 最近の?」

「ええ、今日出たばっかりの記事よ。あれ、貴女知らなかったの?」

「初耳ですけど……」

「えっと、ちょっと待ってね」


パネラさんは自分のバッグからスマホを取り出して操作すると、ある画面を開いてこちらに差し出してきた。


えっと、何々。


"元男性の美少女ユージン嬢、今度は異世界人の女神に!?"


見出しを見て咽た。


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