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週末の精霊使い  作者: DP
3.ようこそファンタジー世界
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視線の行方


「大丈夫? 一つ持とうか?」

「大丈夫だってば。そもそも、力だとお前より俺の方が強いぞ?」

「でも袋の底地面に擦らない?」

「そこまで身長低くねぇよ」


そんな会話を笑いとともに交わしながら、雑踏の中を二人で歩いて行く。


両手には、購入した衣服がパンパンに詰まった紙袋がわんさかだ。ただ洋服なのでそこまで重いものじゃない。両手塞がってるから、若干歩きにくいのは事実だけどな。


とはいえミズホが手ぶらならともかく、俺みたいに一気にまとめ買いしてないとはいえ片腕はハンドバッグと紙袋で埋まっているミズホにわざわざ持たせるつもりもない。この状態で距離をそう歩くわけでもないので、特に頼む気にはならなかった。


今日は、ミズホの車でちょっと遠出してきている。といっても勿論カーマインから出てはいないけど。


今日は少し都市の中心部の方に出てきていた。事務所の近くの店だとラインナップが物足りなくなって来てるからな。


……いいだろ、数が多い方が選んでて楽しいんだから。


ただ、カーマイン最大の繁華街じゃなくてほどほどの所だけど。あんまり人が多い所だといろいろ動きづらいし、今の上でも万が一身バレしたときちょっと面倒な事になりそうなんで。


俺がこの姿になって1年、深淵の一件で目立っちゃってから9か月程たって、世間の注目は以前に比べれば大分落ち着いて来た。人のうわさも75日……それよりは時間かかったけど、リーグ戦のファンやロリコンどもはともかくそれほど精霊使いを熱心に追っていない層の場合、大分俺の事は記憶の底に沈みつつあると思う。


ここ最近でリーグを昇格したのはあるけど、CからBだから意識してみていない層の目につく程じゃないし、スタンピードや漂流(ドリフト)に関しては俺にスポットライトが当たったわけじゃないからな。


とはいっても、今も例のクレアウィズの奴を筆頭にいくつかCMは流れているし、新作もいくつか出ている。だから人の多い所に行くときは、目立たないための変装は今でも必須。


今日の俺は髪型を結って三つ編みテールにしてキャップを被り、伊達眼鏡をかけている。そしてきっちりメイクを施してある。


いやぁ、メイクって魔法だよな。仕方次第で本当に印象が変わる。自分の顔を見てびっくりしたくらいだ。


当然そんなレベルのメイクを俺自身ができるわけはないのでミズホにしてもらったわけだけど、流石としか言いようがない。ちなみに今日は髪型もミズホアレンジだ。


メイク報酬としてメイクと髪型のセット後いくつか写真とらされたけど、このレベルの仕上げに対するものとしては安いものだろう。もうミズホ達にはこれまでに散々写真撮られてきたから殆ど抵抗ないしな。きっちり外部まで流したりしてないし。


メイクなー。流石に仕事で外回りの時とかはちゃんとするから簡単なメイクは自分でもできるようになったけど、こんな印象を変えるようなメイクはさすがに無理。なのでこっちで遠出するときは基本はミズホやサヤカにお願いしている(そもそもこっちで遠出するときはほぼ一人ではしないし。日本側では必要ないしな)。


──正直二人とも嬉々として引き受けてくれるので、甘えまくってしまっているなぁ。当面自分で覚えるとかしなさそう、俺。


尚、ミズホの方はどうやってやったのか髪色を変えている。ウィッグなのかな? 銀髪と黒髪、身長差でファンには気づかれそうだからとわざわざしてくれているので頭が下がる。


おかげで外出時も気づかれる事はそうそうないし、気づかれかけても人違いで通せることも多い。助かる。


今日も今の所は問題なし。ちらちら見られてる事はあるけど大抵はミズホが美人だからという理由で見られてるんだろうし、中にはもしかして……? くらいの感覚を持っているのもいるかもしれないが、声を掛けてこないレベルであるなら、今はもう気にしないからな。


──なんてことを考えてきたら、若い男の二人組くらいが声を掛けてきた。


おもわず体に力が入りかけるが、ミズホに背中をポンと叩かれたのですぐに力を抜く。大丈夫という意図を読み取ったからだ。


実際、話しかけてきた二人は俺達を誰だか気づいて話しかけてきたわけではなく、単純に美人だからと声を掛けてきただけのようだった。


ようするに、ナンパ君である。


うん、こういうのはミズホやサヤカと歩いていると普通に一定数遭遇する。二人ともハイスペックだから仕方ないし、俺目当てのロリコンの時もある。


今日は……ミズホ目当てだな。二人組の片方ががっつりミズホへ声を掛けている。あまり口説き慣れている感じではない。


とりあえず、俺はミズホに隠れるように半歩後ろに下がった。


情けないと思われるかもしれないが、こういった連中のあしらい方はミズホ達の方が百倍慣れている。昔から散々声を掛けられてるだろうしな、ミズホ。経験値が違いすぎる。


俺? 男の頃はする方もされる方も無かったですが何か?


それに今の姿になってからも、日本側だと大体動いてるのって通勤か日用品の買い出しとかだからあまり(お巡りさんと指導員以外に)声かけられることないし、声かけられてもパパっと断るか逃げちゃえばいいからな。あっちは評判とか視線が集まる事を気にしなくていいから応対も楽だ。


でもこっちの場合は目立つといろいろ面倒だからな。事を荒立てずに処理してくれるミズホに任せた方がいい。


どうやら熱心に声を掛けるのは二人組の片方だけのようだった。なんだかいろいろ声かけているが……やはりあんま慣れた感じじゃないな。ミズホの美貌に思わず勢いあまって声かけちゃった感じじゃないかな、これ。


で、もう一人の方は特に口を開いてないからあまり乗り気じゃないのかな……ん?


あれ、俺の方を見てるか? この子。


それに視線がちょっと低い気がする。身長差的に見下ろす形になるのは当然としても、視線が合わない。もうちょっと下の方を見ているような……あ。


俺は彼の視線の行先に気づき。袋を持ったまま左手を胸元を塞ぐように持ち上げた。


「……あっ」


その動きによってとある一点を見ていたことに俺が気づいたのを感づいた彼は、慌てて視線を逸らした。その頬が少し赤い。


──今日は6月の終わりだが、大分蒸し暑かったんでそういえば胸元を少し開けていたんだよな。勿論がっつり開いてたわけではないけど、少しだけ胸元が見えている状態だった。


……正直なー。当然そう言ったところを見られるのは好きじゃないし、露骨にガン見されてたらぶっ飛ばしたくなるのは確かなんだが。


この身長差で前に立った場合、さっきまでの俺の格好だとどうしても視線がそこに吸い寄せられるの、元男としてわかっちゃうんだよなぁ。特に彼の場合やらしいというより驚いた顔に近かったから、初心さが出ているというか。


なので、責めるような視線を送りづらい。


仕方ないからこっちも顔だけ背けておく。ついでにもうちょっとミズホの後ろに移動してっと。


──なんてそんなことをやっている間に、ミズホとナンパ君のやり取りも終わったらしい。穏便にお断りできたようで、ナンパ少年君はなんでかぺこぺこと頭を下げていた。それに対してミズホは鷹揚な笑みで頷いている。何を話してたんだろう? チラ見少年君に気を取られて聞いてなかったけど……ま、解決したならいいか。


ミズホが俺の背中を押す。行きましょうってことだろう。なので俺も押されるまま歩き出すと、二人はこちらにぺこぺこ頭を下げていた。特にチラ見君の頭の位置が低い。


うん、俺は許すけどガチ女の子にそういうのはしないように気を付けるんだぞ。そういった視線はわりとすぐに気づかれるから場合によってはひっぱたかれるかもしれないからなー。






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