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週末の精霊使い  作者: DP
3.ようこそファンタジー世界
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食卓の団欒


「~♪」


口から鼻唄が自然と漏れる。曲名ははっきり覚えてないけど、なんか耳に残っている曲だ。多分日本側のCMの曲か何かだったと思うんだけどな。


そのままおぼろげなメロディを口ずさみながら菜箸でフライパンの中を混ぜ返し、準備した調味料を突っ込んで更に炒めていく。


うん、別に料理が趣味とかそういうわけじゃないんだけど、時間がある時にのんびりと作ってるとちょっと楽しくなってくるな。


今日は火曜日、時刻はPM7:00をちょっと回ったところ。テレビから他愛無いバラエティ番組を垂れ流しながら、俺は夕食を仕上げていく。


普段であれば、これくらいの時間だと仕事から帰ってきてようやく料理に手を付けるくらいの時間だけど、今日はまもなく完成間近だ。


──アキツという異世界の中に突如出現した、グラナーダという別の異世界で一晩をすごした翌日。

予定通り俺達は局長や浦部さん達を残してキャンプへと帰還。そのまま各チーム所属の車両はそれぞれの本拠へと帰還した(解析局の車両は交代のグループが来るまでは待機するらしい)。


で、俺はそのままチームの皆と一緒に帰って来たんだけど。


乗っているだけとはいえ、さすがに休憩を含めればトータル16時間くらいの移動は死んだ。行きのくつろげるようなものではなく普通の車両だったので、腰と尻が特に。


そしてカーマインに帰りついた頃には当然日付も変わってしまっていたので、アキツ側の自宅で一泊してからこっちに朝方帰って来たわけだ。


ちなみに今日の帰ってくる時の足は、朝方電話で「送る。送るから。送らせなさい」と圧を掛けてきたミズホに送ってもらった。いや、普通にありがたくはあるんだけど、アイツ今日モデルの仕事もあるハズなのによくやるよ。


体大丈夫なのかよって車の中で聞いたら、「今回復中よ!」ってつやつやした顔で返事してきたからまぁ大丈夫なんだろうけど。


それで結局日本に帰って来たのは10時過ぎ。当然業務は始まっている時間だけど、昨日の長距離移動の疲れもあるしで休みにしていたのでそのまま家に帰って、せっかくの休日を満喫していたわけである。


いやー、掃除が捗ったわ。


そして今はせっかく時間もあるしということで、ちょっと手の込んだ夕食を作っているわけである。ボリュームちょっと多め。


「ん……これでいいか」


最後の一品である炒め物に充分火が通った事を確認し、フライパンから皿の方に移す。そしてそれを食卓に並べてから俺は机の上に置いたスマホを手に取り、最新の発信履歴をリダイアル。


呼び出し音はほんの2回くらいで、通話相手はすぐに出た。


「有人?」

「メシできたぞー。すぐこれるか?」

「すぐ行く!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「んー、やっぱり有人のごはんは美味しい! また腕を上げたな!」

「今日は時間があったから、ちょいと手間をかけたからな」


今、俺の目の前ではノーメイク、ぼさぼさの髪にやぼったいトレーナーというとてもそのままじゃ表には出せない状態の金髪女性が俺の料理に舌鼓をうっていた。


……でもこの状態でも普通に美人というか可愛いのは素材の強さだよな。


普段からノーメイクが多い俺が言うのもあれだけど。


ま、外の移動距離は数m程度だけだし、問題はないだろ。この距離なら見られたとしても同じアパートに住む人間くらいだろうし。俺たち同士に関してはトレーニング後にだらしない姿見せあったりしてるから今更だ。俺もいつものだぶTシャツにホットパンツだしな。


「さすがにちょっと食事の買い物行く余裕がなかったから助かったぞ。カップ麺はあるけども」

「そりゃよかった」


以前した約束をサヤカはちゃんと守ってくれているようで、コンビニやスーパーの弁当とかが大部分ではあるもののバランスの取れた食生活を取ってくれているようだ(数回の抜き打ちチェック済み)。


なので俺もこうやって月に2回程度ではあるがメシを喰わせてやってるのである。まぁぶっちゃけ手間もそんな変わらんしな。


事前に、今週の水曜日くらいに仕事の納期があって立て籠るって聞いて見たから丁度いいだろうと声をかけてみたが──ベストタイミングだったようだ。


「ごちそうさま!」

「はい、お粗末様。すぐに戻って仕事に入るのか?」


割と多めに作った料理を綺麗に平らげ満足げな顔で手を合わせるサヤカにそう聞くと、彼女はプルプルと首を振る。


「さすがに食後すぐは集中力ないから無理。少しここでこのまま休んでいっていいか?」

「いいぞー別に」


今日はこの後特に予定もないしな。食器片づけて風呂入ったら後はだらだらするだけだ。


「しかし、有人は愛らしくて気立てがいい上に料理も上手い。いつでも嫁に行けそうだな」

「おい」

「なんだ?」

「嫁ってなんだ、嫁って」

「じゃあ婿か?」

「そういう話じゃなくてな……」

「行く気はないのか?」

「嫁に行く気はないな」

「婿に行く気は?」


……一人の顔が浮かぶ。けど、


「今の所は行く気はないかな」

「ふむ」


俺の返答に頷いたサヤカは、そのままじっと俺の顔を見つめてくる。


「なんだよ」

「いや、いつ見ても本当に有人は可愛いなと思って」

「はぁ!?」


突然真顔で言われて、俺は思わず大きな声を上げるのと共に少し頬が赤くなるのを感じる。


「うん、可愛い」

「なんなんだよ、いきなり」

「見ていて思った率直な感想だが? 別にちょくちょく言ってる事だろう」

「そうだけどさぁ……急に真顔で言うなよ」


わりとストレートに思った事を口に出すサヤカは、男時代の付き合いが無い事もあってか女としての俺に対する言葉を率直に言って来るが多い。


「すまんすまん、でも有人は本当に可愛いからな。家族にしたいくらいだ」

「なんだよ、ミズホに続いてお前もプロポ―ズか?」

「いや、感覚的には妹とか姪っ子だな」

「何度も言うけど、俺はお前より年上だからな?」


苦笑いしてそう言いつつも、そうだろうなとは内心思う。

サヤカも最近はミズホに負けず劣らずベタベタしてくるんだが、その仕方がミズホと違うんだよな。


ミズホはまぁ明らかに女として体をくっつけて来てるけど(そもそも当人もそう明言してるし)、サヤカの場合は扱いがあれ。子供とか動物に対する気配を感じるんだよな。

なのでサヤカが一応俺を大人とは認めつつも、そういう扱いをしたがっているのは感づいてる。


「なんというか、有人は守ってやりたくなるんだ。母性本能が疼くというか」

「私生活の方では、どちらかというと俺が面倒見てる気がするんだが」


そう言って俺が空になった皿を指さすと、サヤカはにっこりと笑みを浮かべて


「それはそれで」


おい。


「でもそういう意味では、今回の件は悔しかった。危険な所に有人がいるのに、一緒にいて守ってやれないとは」

「そこは仕方ないだろ。解析局からの指名制だったわけだし」

「選ばれる実力がなかったという事だからな、そこが悔しい。次迄には選ばれるような実力を身につけんとな」


コイツの場合、今のまま成長していくと(浦部さん辺りは別格としても)普通にそのレベルまで到達しそうなんだよな……それくらい、恐ろしい速度で成長している。


だから


「まぁその時はよろしく頼む」


俺がそう言うと、サヤカ彼女は少しだけ笑みを浮かべて


「ああ。有人は私が絶対護るよ」


そう言い切った。


整った顔できりっとした笑みを浮かべながらそういうセリフ吐かれると、ちょっとドキッとしてしまうのは仕方ないと思う。


でもこれ、本来は物語のヒロインが言われるセリフなんだと思うんだよな。25歳サラリーマンが何歳も年下の女の子にこんな決め顔で言われるセリフでは少なくともないと思うんだ。






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